悪友創造

ティフィは日(ひ)頃(ごろ)、部屋(へや)の隅(すみ)の
充(じゅう)電(でん)器(き)に寄(よ)ってよく寝(よ)ている。


イマジナリーフレンドだった頃(ころ)から、
アルマの中(なか)でのティフィは
活(かっ)発(ぱつ)的(てき)な存(そん)在(ざい)ではなかった。


「ティフィ。」


食(しょっ)器(き)を洗(あら)い終(お)えたアルマが名(な)前(まえ)を呼(よ)ぶと、
彼(かの)女(じょ)の声(こえ)に反(はん)応(のう)したティフィは
三(さん)角(かく)形(けい)の耳(みみ)を立(た)てる。


「出(で)掛(か)けるよ。」


『ぼくも?』


フライトジャケットを着(き)させられ、
外(がい)出(しゅつ)の準(じゅん)備(び)を始(はじ)めるティフィ。


『どこ行(い)くの?』


「買(か)い物(もの)。」


『なに買(か)うの?
 ぼくって外(そと)に出(で)て良(い)いの?』


ティフィは興(こう)奮(ふん)してきて
質(しつ)問(もん)が多(おお)くなる。


「食(しょく)料(りょう)の補(ほ)充(じゅう)だよ。

 外(そと)に出(で)るのが不(ふ)安(あん)なら
 首(くび)輪(わ)とリードを買(あ)ってあげようか?」


『いらないよ!』


ギャビーの邸(てい)宅(たく)を出(で)て、
街(かい)道(どう)を歩(ある)く二人(ふたり)に視(し)線(せん)が集(あつ)まる。


『アル、外(そと)ってちょっと怖(こわ)いね。』


「大(おお)型(がた)犬(けん)姿(すがた)の着(き)ぐるみロボットが、
 こうして歩(ある)き回(まわ)れるくらいだから
 平(へい)和(わ)なほうだ。むしろ――。」


『ぼくは不(ふ)審(しん)者(しゃ)扱(あつか)い?』


「ティフィを連(つ)れ歩(ある)いてるあたしも、
 同(おな)じようなもんだ。」


犬(いぬ)の姿(すがた)をしたティフィだけではなく、
隣(となり)に立(た)つアルマにも視(し)線(せん)が向(む)かう。


フードを被(かぶ)り直(なお)してアルマが静(しず)かに笑(わら)う。


「買(か)い物(もの)に行(い)くのだって、
 前(まえ)はもっと騒(さわ)がしかったからな。」


『治(ち)安(あん)が悪(わる)かったの?』


「詐(さ)欺(ぎ)グループの拠(きょ)点(てん)が、
 この近(ちか)くにあったんだよ。」


ティフィが買(か)い物(もの)カートを押(お)し、
アルマが食(しょく)材(ざい)を選(えら)んで入(い)れる。


『アルが詐(さ)欺(ぎ)グループの、代(だい)表(ひょう)取(とり)締(しまり)役(やく)?』


「あたしが他(た)人(にん)を雇(やと)って扱(あつか)うような、
 面(めん)倒(どう)な仕(し)事(ごと)をするはずがないだろ。」


アルマのこの返(へん)答(とう)は、
ティフィが期(き)待(たい)していた
否(ひ)定(てい)の言(こと)葉(ば)ではなかった。


彼(かの)女(じょ)の自(じ)嘲(ちょう)とも言(い)える意(い)見(けん)に、
ティフィも口吻(マズル)から声(こえ)を出(だ)して笑(わら)った。


『こんなに静(しず)かなら、
 その拠(きょ)点(てん)はもう無(な)いんだ。』


「一(いっ)掃(そう)したからな。」


『爆(ばく)弾(だん)で吹(ふ)き飛(と)ばした?』


「そんなことしたら犯(はん)罪(ざい)だろ。

 行(こう)動(どう)を起(お)こす時(とき)は、
 周(しゅう)囲(い)の迷(めい)惑(わく)も考(こう)慮(りょ)するべきだ。」


アルマが至(し)極(ごく)真(ま)っ当(とう)なことを言(い)うので、
ティフィも驚(おどろ)いてしまった。


「社(しゃ)内(ない)にあった監(かん)視(し)カメラや
 かれらのパソコンに介(かい)入(にゅう)して、
 ネット配(はい)信(しん)しておいたんだよ。」


『やってることは犯(はん)罪(ざい)だよね。』


ティフィは黒(くろ)い目(め)を細(ほそ)めて呆(あき)れた。


詐(さ)欺(ぎ)グループは社(しゃ)内(ない)の様(よう)子(す)が
ネット配(はい)信(しん)されていることにも気(き)付(づ)かず、
従(じゅう)来(らい)通(どお)り営(えい)業(ぎょう)を行(おこな)った。


すべて監(かん)視(し)されていた為(ため)、
かれらの悪(あく)行(ぎょう)が世(せ)界(かい)中(じゅう)に知(し)れ渡(わた)っていた。


善(ぜん)良(りょう)な視(し)聴(ちょう)者(しゃ)からの通(つう)報(ほう)で
一(いち)部(ぶ)の犯(はん)行(こう)は未(み)然(ぜん)に防(ふせ)がれ、
詐(さ)欺(ぎ)グループと関(かん)係(けい)していた組(そ)織(しき)も
一(いっ)斉(せい)に検(けん)挙(きょ)された。


想(そう)像(ぞう)したティフィは、
ひとつの疑(ぎ)問(もん)が浮(う)かぶ。


『でも詐(さ)欺(ぎ)グループなんて、
 表(おもて)に出(で)てこない、裏(うら)側(がわ)の存(そん)在(ざい)だよね。

 アルと同(おな)じで。』


「あたしを虫(むし)と一(いっ)緒(しょ)にすんな。」


アルマが強(つよ)く声(こえ)を発(はっ)したところ、
男(おとこ)の子(こ)に見(み)られて彼(かの)女(じょ)は視(し)線(せん)を逸(そ)らした。


ティフィが手(て)を振(ふ)ると、
男(おとこ)の子(こ)は犬(いぬ)の鳴(な)き真似(まね)をして
母(はは)親(おや)に叱(しか)られていた。


犬(いぬ)の着(き)ぐるみ姿(すがた)のティフィも、
保(ほ)護(ご)者(しゃ)から見(み)れば不(ふ)審(しん)者(しゃ)と同(おな)じ扱(あつか)いだった。


『アル自(じ)身(しん)が詐(さ)欺(ぎ)にでも遭(あ)わないと、
 詐(さ)欺(ぎ)グループなんて接(せっ)点(てん)がないよね。

 ギャビーに依(い)頼(らい)された?』


アルマは会(かい)計(けい)を済(す)ませ、大(たい)量(りょう)の食(しょく)材(ざい)を
リュックに詰(つ)めてティフィに背(せ)負(お)わせる。


「ここで買(か)い物(もの)する度(たび)に、
 連(れん)中(ちゅう)が駐(ちゅう)車(しゃ)場(じょう)に屯(たむろ)してて、
 入(い)り口(ぐち)を塞(ふさ)いで目(め)障(ざわ)りだったんだよ。

 あいつらの身(み)元(もと)を
 一人(ひとり)ひとり調(しら)べ上(あ)げたら、
 同(おな)じ職(しょく)場(ば)にたどり着(つ)いただけ。」


すべてはアルマの一(いっ)方(ぽう)的(てき)な悪(あく)意(い)に起(き)因(いん)した。


ティフィは散(さん)歩(ぽ)中(ちゅう)の大(おお)型(がた)犬(けん)に吠(ほ)えられ、
アルマの後(うし)ろに隠(かく)れる。


『アルぅ! あの子(こ)もなんとかしてよ。』


「犬(いぬ)相(あい)手(て)には吠(ほ)え返(かえ)すんだよ。」


『ぼくは犬(いぬ)じゃないよ!』


ティフィが至(し)極(ごく)真(ま)っ当(とう)なことを言(い)うので、
アルマは納(なっ)得(とく)して改(あらた)めて小(ちい)さく頷(うなず)いた。



▶ つづく