悪友創造

『おかえり。ギャビー。』


ギャビーが久(ひさ)しぶりの自(じ)宅(たく)に帰(かえ)ると、
歩(ある)くゴミ箱(ばこ)が彼(かの)女(じょ)を出(で)迎(むか)えた。


ゴミ箱(ばこ)には液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)内(ない)に目(め)や口(くち)が描(えが)かれ、
伸(の)びた手(て)足(あし)で直(ちょく)立(りつ)二(に)足(そく)歩(ほ)行(こう)をしている。


ギャビーはサングラスとマスクを取(と)り、
スーツケースを逆(さか)さまにしたような物(ぶっ)体(たい)を、
眉(み)間(けん)に力(ちから)を込(こ)めて凝(ぎょう)視(し)した。


『ご飯(はん)にする? お風(ふ)呂(ろ)にする?』


日(にち)常(じょう)に溶(と)け込(こ)む科(か)学(がく)技(ぎ)術(じゅつ)を実(じっ)感(かん)しながら、
喋(しゃべ)るゴミ箱(ばこ)との対(たい)話(わ)を拒(こば)むと、
元(げん)凶(きょう)と思(おも)える同(どう)居(きょ)人(にん)が思(おも)い浮(う)かんだ。


「アルの悪戯(いたずら)ね。」


『アルに代(か)わるよ。』


「おかえり、ギャビー。
 その子(こ)はティフィだよ。」


ティフィと名(な)付(づ)けられた、
ゴミ箱(ばこ)のスピーカー越(ご)しに
アルマの声(こえ)がした。


「この喋(しゃべ)るゴミ箱(ばこ)がティフィだって?」


『ぼくはゴミ箱(ばこ)じゃないよ。』


「ゴミ箱(ばこ)だからアルが
 そのステッカー貼(は)ったんでしょ?」


『なに?』


指(ゆび)のさされた場(ば)所(しょ)が見(みえ)えないティフィは、
姿(すがた)見(み)の前(まえ)に立(た)ってカメラで観(かん)察(さつ)してみると、
貼(は)られたシールの存(そん)在(ざい)に気(き)づいた。


ティフィの液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)の下(した)部(ぶ)分(ぶん)には、
ゴミ箱(ばこ)を描(えが)いたピクトグラム。


『なに、これ! アル!』


ティフィが叫(さけ)び声(ごえ)を発(はっ)すると、
アルマの笑(わら)い声(ごえ)が同(おな)じスピーカーから
発(はっ)せられる。


「どこで買(か)ってきたの?」


「これはあたしが作(つく)ったんだよ。」


『ぼくってアルが作(つく)った
 イマジナリーフレンドなんだって。』


「イマジナリーフレンド?

 あぁ、アルが前(まえ)に言(い)ってた?

 …作(つく)った?」


ギャビーは彼(かの)女(じょ)たちの言(こと)葉(ば)から思(おも)い出(だ)し、
繰(く)り返(かえ)し、疑(ぎ)問(もん)を浮(う)かべた。


「ねぇ、こっちの余(あま)ってるパーツは?」


ギャビーは部屋(へや)にスーツケースを置(お)くと、
近(ちか)くに機(き)械(かい)のパーツが入(はい)った
別(べつ)のゴミ箱(ばこ)を見(み)つけた。


逆(さか)立(だ)ちになって歩(ある)く気(け)配(はい)はない。


アルマは部屋(へや)の椅(い)子(す)に座(すわ)ったまま、
ゲーム機(き)のコントローラーを握(にぎ)っている。


パソコンに繋(つな)げられた液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)には、
アルマの操(あやつ)る犬(いぬ)が二(に)足(そく)歩(ほ)行(こう)をしていた。


ティフィと名(な)乗(の)った物(ぶっ)体(たい)が、
ギャビーの隣(となり)に立(た)って様(よう)子(す)を窺(うかが)う。


『そっちはアルが
 組(く)み立(た)てようとした物(もの)。』


「出(で)来(き)ずに諦(あきら)めたのね。

 これとこれで、いくらしたの?」


「教(おし)えてあげない。」


『その箱(はこ)の方(ほう)は100万(まん)だって。』


「100万(まん)?」


「ティフ! 秘(ひ)密(みつ)だって言(い)ったよね。」


イマジナリーフレンドであっても、
自(じ)由(ゆう)を与(あた)えれば秘(ひ)密(みつ)は簡(かん)単(たん)に暴(ばく)露(ろ)される。


「まさかお小(こ)遣(づか)い以(い)外(がい)で、
 わたしの口(こう)座(ざ)のお金(かね)、使(つか)ったの?」


「使(つか)ってないって。
 お金(かね)は他所(よそ)から借(か)りただけ。」


「借(か)りた?
 アルは働(はたら)きもせず、
 返(かえ)す当(あ)ても無(な)いのに?」


アルマはギャビーの収(しゅう)入(にゅう)を頼(たよ)りに、
この部屋(へや)に寄(き)生(せい)している。


「100万(まん)って、わたしの今(こん)回(かい)の映(えい)画(が)の
 出(しゅつ)演(えん)料(りょう)がほとんど消(き)えるわよ。

 他(ほか)に何(なに)かやってない?」


ギャビーはアルマの持(も)っていた
コントローラーを奪(うば)って問(と)いただす。


「あっ、返(かえ)して。」


「この部屋(へや)貸(か)すときに、
 問(もん)題(だい)起(お)こさないで
 って言(い)ったよね。」


『問(もん)題(だい)は起(お)きてないよ、ギャビー。』


「ひっ。勝(かっ)手(て)に動(うご)いたっ。」


コントローラーを何(なに)も触(さわ)っていないのに、
ゴミ箱(ばこ)が自(じ)動(どう)的(てき)に動(うご)いたので、
想(そう)定(てい)していなかったギャビーが驚(おどろ)く。


「企(き)業(ぎょう)が法(ほう)の抜(ぬ)け穴(あな)を突(つ)いて稼(かせ)いだ
 後(うし)ろめたい行(こう)為(い)で得(え)ているお金(かね)だから、
 律儀(りちぎ)に返(かえ)す必(ひつ)要(よう)もない。」


アルマの言(こと)葉(ば)にティフィが続(つづ)く。


『資(し)金(きん)の痕(こん)跡(せき)は、関(かん)連(れん)する保(ほ)険(けん)の会(かい)社(しゃ)を
 経(けい)由(ゆ)して偽(ぎ)装(そう)しているから、
 誰(だれ)にも気(き)付(づ)かれないんだよ。』


ティフィはイマジナリーフレンドらしく、
アルマの悪(あく)事(じ)に同(どう)調(ちょう)する。


「かれらは被(ひ)害(がい)届(とどけ)も出(だ)せない。」


「でも、汚(きたな)いお金(かね)でしょ?」


「大(たい)半(はん)はギャビーの名(めい)義(ぎ)で
 寄(き)付(ふ)をしておいたから、
 つまりは洗(あら)われた綺(き)麗(れい)なお金(かね)だよ。」


「知(し)らない間(あいだ)にわたしが巻(ま)き込(こ)まれてた。」


『アルってそういう子(こ)なんだよ。』


ティフィに諭(さと)されると、
ギャビーも自(し)然(ぜん)に頷(うなず)きかけた。


アルマはギャビーから
コントローラーを奪(うば)い返(かえ)して、
ふたたび液(えき)晶(しょう)画(が)面(めん)を眺(なが)める。


ギャビーは小(ちい)さく息(いき)を吐(つ)き、
新(あら)たな同(どう)居(きょ)人《にん》のティフィを|見(み)下(おろ)ろした。


「ギャビーの今(こん)回(かい)の映(えい)画(が)の
 出(しゅつ)演(えん)料(りょう)も踏(ふ)まえると、
 結(けっ)果(か)として節(せつ)税(ぜい)になるぞ。」


「…まぁ、それなら良(い)いか。」


『良(い)いんだ。』


ギャビーはアルマの従姉妹(いとこ)であり、
彼(かの)女(じょ)の悪(あく)事(じ)を忌(き)避(ひ)せず受(う)け入(い)れた。



▶ つづく