悪友創造

「ご依(い)頼(らい)のものを作(つく)りました。」


「今(こん)度(ど)はなに頼(たの)んだの?」と、ギャビー。


「あたしじゃないよ。」


アルマは首(くび)を横(よこ)に振(ふ)って否(ひ)定(てい)する。


隣(となり)のティフィも首(くび)を
回(かい)転(てん)するような勢(いきお)いで振(ふ)った。


「わたし?」自(みずか)らを指(ゆび)さすギャビー。


ヒューマノイドデザイナーのクロエが
笑(え)顔(がお)で頷(うなず)く。


『ギャビーのヒューマノイド?』


人(じん)工(こう)皮(ひ)膚(ふ)に覆(おお)われたギャビーの模(も)造(ぞう)品(ひん)。


「不(ぶ)気(き)味(み)の谷(たに)だな。」


人(にん)間(げん)の格(かっ)好(こう)、形(かたち)をさせたところで、
皮(ひ)膚(ふ)の透(とう)明(めい)感(かん)や皮(ひ)下(か)を通(とお)る細(ほそ)い血(けっ)管(かん)などは
再(さい)現(げん)できないために、見(み)るひとに違(い)和(わ)や
嫌(けん)悪(お)感(かん)を与(あた)えてしまう。


この心(しん)理(り)を、不(ぶ)気(き)味(み)の谷(たに)現(げん)象(しょう)と呼(よ)ぶ。


「わたし、クロに何(なに)か頼(たの)んだかな?」


ギャビーは身(み)に覚(おぼ)えがない。


「以(い)前(ぜん)、アルが注(ちゅう)文(もん)した筐(きょう)体(たい)を
 再(さい)利(り)用(よう)する為(ため)に、代(か)わりが欲(ほ)しい
 とお聞(き)きしましたので。」


『アルが悪(わる)さしないように
 監(かん)視(し)するロボット?』


「あたしを疑(うたが)ってんの?」


「信(しん)頼(らい)されるような行(こう)動(どう)を、
 アルに求(もと)めたことないわよ。」


ギャビーにそこまで言(い)われると、
アルマはなにも言(い)い返(かえ)す必(ひつ)要(よう)は無(な)かったが、
言(い)い返(かえ)せないことが却(かえ)って不(ふ)満(まん)だった。


「こちらはココ様(さま)ヒューマノイドです。」


『ザ・ココの?』


ヒューマノイドには
ギャビーの役(やく)者(しゃ)名(めい)が付(つ)けられた。


「メディアの露(ろ)出(しゅつ)が少(すく)ない
 ギャビーの代(か)わりに、
 インタビューに答(こた)えてくれます。」


クロエがスマホを使(つか)って起(き)動(どう)させると、
模(も)造(ぞう)品(ひん)の瞼(まぶた)が上(あ)がる。


『怖(こわ)い。』アルマの後(うし)ろで怯(おび)えるティフィ。


「ココ様(さま)。
 自(じ)己(こ)紹(しょう)介(かい)をしてください。」


『はじめまして。ザ・ココです。

 3歳(さい)から子(こ)役(やく)として活(かつ)動(どう)していましたが、
 学(がく)業(ぎょう)を優(ゆう)先(せん)して3年(ねん)間(かん)の休(きゅう)業(ぎょう)を挟(はさ)み、
 16歳(さい)の頃(ころ)にいまの役(やく)者(しゃ)名(めい)で
 再(さい)出(しゅっ)発(ぱつ)をしました。』


「耳(みみ)が痒(かゆ)くなる。」


ギャビーは合(ごう)成(せい)された自(じ)分(ぶん)の声(こえ)に、
小(ちい)さく身(み)震(ぶる)いした。


「声(こえ)の権(けん)利(り)って許(きょ)可(か)いるよね?」


アルマがクロエに訊(たず)ねると、
彼(かの)女(じょ)はスマホを見(み)て目(め)を背(そむ)ける。


「代(だい)表(ひょう)作(さく)を紹(しょう)介(かい)してください。」


続(つづ)いてクロエは用(よう)意(い)した質(しつ)問(もん)を投(な)げる。


『舞(ぶ)台(たい)「黒(こく)色(しょく)隣(りん)人(じん)」のドーラ役(やく)、
 映(えい)画(が)では「姉(し)妹(まい)物(もの)語(がたり)」の次(じ)女(じょ)、
 オリヴィア役(やく)は多(おお)くの支(し)持(じ)を得(え)ました。』


『有(ゆう)名(めい)どころだね。』


「これ、過(か)去(こ)のインタビューから?」


アルマは情報元(ソース)に気(き)づいた。


「私(わたし)が集(あつ)めていた記(き)録(ろく)を
 すべてココ様(さま)ヒューマノイドに
 入(い)れてみました。」


「わたしだけ恥(は)ずかしいんだけど。
 何(なん)の罰(ばつ)なの?」


腕(うで)を重(かさ)ねて胸(むね)を張(は)り、
足(あし)を組(く)んでアゴを突(つ)き出(だ)す模(も)造(ぞう)品(ひん)の姿(すがた)に、
ギャビーは火(ほ)照(て)った顔(かお)を手(て)で扇(あお)ぐ。


「休(きゅう)業(ぎょう)前(まえ)の作(さく)品(ひん)だもんな。

 未(いま)だに昔(むかし)のイメージで
 オファーが来(く)るんだぞ。」


二人(ふたり)の会(かい)話(わ)から事(じ)情(じょう)を知(し)ったクロエは
小(ちい)さく驚(おどろ)いている。


『ぼくもギャビーに質(しつ)問(もん)していい?』


「良(い)いですよ。
 ココ様(さま)ヒューマノイドに
 呼(よ)びかけてください。」


クロエはこのヒューマノイドの
正(せい)式(しき)な名(な)前(まえ)に執(しゅう)着(ちゃく)する。


『ギャビーの苦(にが)手(て)なものは? 虫(むし)?』


「見(み)つけても持(も)って来(こ)ないでよ。」


ギャビーがヒューマノイドよりも先(さき)に
ティフィに忠(ちゅう)告(こく)した。


『わたしの苦(にが)手(て)なものは、怖(こわ)いものです。』


「ホラーなら最(さい)近(きん)は出(で)てるよね。
 これ、いつの記(き)録(ろく)?」


アルマに訊(たず)ねられ、
クロエがスマホで情報元(ソース)を確(かく)認(にん)する。


「7歳(さい)の頃(ころ)ですね。」


「そんなに古(ふる)い記(き)録(ろく)まで持(も)ってるの?」


『怪(かい)獣(じゅう)のホラーはおいしそうだったよ。』


「あれは独(どく)創(そう)的(てき)だったもの。」


陸(りく)上(じょう)に襲(おそ)いかかるエビの巨(きょ)大(だい)怪(かい)獣(じゅう)を食(た)べた
ギャビーの言(こと)葉(ば)にクロエも思(おも)い出(だ)して頷(うなず)く。


「クロ、あたしもココ様(さま)に質(しつ)問(もん)していい?」


「はい、どうぞ。」


「ザ・ココの好(す)きな食(た)べ物(もの)は?」


『わたしの好(す)きな食(た)べ物(もの)は、
 カスタードプリンです。』


「これ、4歳(さい)の頃(ころ)だ。」とギャビー。


『クロが生(う)まれる前(まえ)だね。』


「そんな古(ふる)い記(き)録(ろく)、よく見(み)つけたなぁ。
 いまは甘(あま)いもの食(た)べないのに。」


『ギャビーのいまの好(す)きな食(た)べ物(もの)は?』


「唐(から)揚(あ)げ。それから餃子(ぎょうざ)。」

ココ様(さま)ヒューマノイドの代(か)わりに
ギャビーが答(こた)える。


「餃子(ぎょうざ)が食(た)べたくなってきた。
 今日(きょう)は餃子(ぎょうざ)にしない?」


ギャビーの口(くち)元(もと)から涎(よだれ)が溢(あふ)れそうになる。


「しないよ。
 今日(きょう)は煮(に)込(こ)みハンバーグだから。」


『ハンブルグ!』


「えぇー。
 餃子(ぎょうざ)が食(た)べたい。餃子(ぎょうざ)が食(た)べたい。
 おねがい! お小(こ)遣(づか)いあげるから!
 ねぇー!」


「この姿(すがた)もココ様(さま)に、学(がく)習(しゅう)させたら?」


アルマの肩(かた)を掴(つか)んで揺(ゆ)らす
子(こ)供(ども)のようなギャビーの新(あら)たな一(いち)面(めん)に、
クロエはスマホを握(にぎ)ったまま
次(つぎ)の言(こと)葉(ば)を失(うしな)った。



▶ つづく