皇弟の”運命”


「いざ! 研究室へ!」
 
 そうして俺たちは魔術具の扉を開いた。
 しかし、部屋には誰もいなかった。
 
「タイミングが悪かったか?」
 
 アズベルトが研究室に入っていく。
 
「リアムもお昼を食べに行ったのかもしれないね」
 
 マティスもうそう言いながら研究室へ。
 俺はがっかりしてトボトボと研究室に入ったが、次の瞬間、マティスが悲鳴をあげた。
 
「うわ!」
「リアムが倒れてる!」
 
 悲鳴に続いたアズベルトの言葉に驚いて俺は急いで二人が立っている棚の影へと急ぐ。
 そこには、確かにリアムが倒れていた。
 
「リアム!?」
 
 俺がリアムの体を抱え起こすと、リアムは「んん〜」とうめき声を漏らした。

「リアム? どうした? 体調が悪いのか?」
「……すき」
「え!?」
 
 リアムの口から漏らされた言葉に俺の心臓が跳ねた。
 
「そ、それは俺から言おうと……」
「お腹が、空きました……」

 その場に、なんとも言えない微妙な空気が流れたが、アズベルトとマティスがその空気を振り払ってくれた。
 
「リアム! 昼を持ってきたぞ! 食べろ!」
「そうだね! みんなで食べよう!!」
 
 俺はフラフラなリアムを抱え上げてソファーに座らせた。
 マティスとアズベルトはリアムの前に食事を並べていく。
 
「美味しいです」
 
 リアムは泣きながらスープやらパンやら肉やら食べていた。
 頬袋がいっぱいのリスのようで可愛い。
 
「倒れるくらいまで食事を食べていなかったの?」
「いえ、そんなことはないと思うのですが、いつの間にかお腹が減っていました」
「いつからこの研究室に?」
「皆さんと別れてからすぐに必要な素材などを買い揃えて戻ってきたので……今はその次の日くらいですか?」
「もう一週間は立ってるぞ!?」
 
 むしろよく生きていたものである。
 
「あー、それで、頻繁にルシアン先生が来ていたんですね」
「先生のおかげで生きていたのか」
 
 リアムの感覚では日に何度も先生が訪れていたように感じていたのだろうが、きっと、一日に一度、飲み物と食事を運んでくれていたのだろう。
 
 できれば、眠ることも教えて欲しかったけれど、研究者の中にはリアムみたいなタイプは珍しくないため、止めても無駄とその辺は諦められたに違いない。
 先生自身、自身の研究に没頭すると食事も睡眠も蔑ろにするところがあるから、それでも死なないとは思ったのかもしれない。
 
「これからは俺と一緒に食事をしよう」
「ルーカス様は忙しいのでしょう? ご迷惑をおかけするわけにはまいりません」
「君の様子を見られないまま、ハラハラしているよりはずっといい」
 
 俺はリアムの手をぎゅっと握り、その大きくて綺麗な瞳を覗き込んだ。
 マティスとアズベルトが呆れた視線を向けてくるが、そんなのはお構いなしだ。
 俺はリアムの破綻した研究者気質に付け入ってでも彼との距離を縮めたいのだ。
 叔父上のせいでろくにデートの時間も取れないのだから、これくらい許されるだろう。
 
「俺の心の安寧のためにも一緒に食事をしてほしい」

 リアムは少し頬を染めて、こくりと頷いてくれた。
 
 
 
 それから俺は午前は執務をこなし、昼を抱えて研究室に行ってリアムと昼休憩を取り、午後も執務をこなし、「夜もまだやりたいことがある」とレジナルドに夜も夕食を持ってきてもらい、リアムに食事を届けた。
 
 リアムは恐ろしいほどに研究熱心で、放っておくと本当に飲まず食わず眠らずで研究をしていた。
 途中、先生に出会って、「もうリアムのことはお前たちに任せても大丈夫だな!」と言っていたので、今後は俺たちが気をつけないと本当にリアムは死ぬかもしれない。
 
 俺の運命の命の危機なので、俺はきちんと昼食と夕食の時間を決めて、リアムに運んだ。
 そして、「研究のためには睡眠も必要だ」とリアムに言い聞かせて、ソファーで寝かせた。
 
 リアムは体を横にすればすぐに寝息を立てた。
 毎夜、俺はリアムの可愛い寝顔を見てから、自分の寝室に戻るという幸せな日々を過ごした。
 
 だがしかし、そんな生活がいつまでも続くわけもない。