皇弟の”運命”


 大量の執務に加えて、時々領地の視察をこなし、そして、夜には寝る間も惜しんで新しい魔術と魔術具の開発だ。
 俺一人では絶対にこんなことをする時間は捻出できなかったから、親友二人には本当に感謝している。
 そして、俺たちは、二ヶ月で目的を達成させた。
 
「できたぞ!!」
「こんなものをこんな短期間で作り上げるとは、俺たち、もう魔導師になってもよくないか?」
「すまないが、これの存在は……」
「わかってるって! 秘密だろ?」
「その代わり、俺たちにちゃんとご褒美くださいね? 皇弟殿下?」
「わかっている。将来は俺の側近として、地位とたっぷりの仕事を用意してやるよ」
「それは、褒美だろうか?」
 
 俺たちは笑いながら、早速、魔術具の扉を執務室の壁に取り付けた。
 元々、そこには仮眠室へと繋がる扉があるから違和感がないはずだ。
 
 そして、魔術具に魔力を込めて、開く。
 魔術具の魔法陣が発動して、扉の先にはホクマカム魔導学園の俺の研究室があった。

 当然、何度も実験しているわけだから、きちんと作動することは知っていたけれど、それでも完成という判断を下してから使ってみるのはなんだか感慨深い。
 
「これで、毎日のようにリアムに会えるな」
 
 その時、こんこんと控えめなノックの音がした。
 俺は今、公爵代理としてホクマカム魔導学園を休学中の身だから、当然、研究室を訪れる者などいないはずなのだが?
 いや、一人だけ、時折俺がここに来ていることを知っている者がいる。

 もしや、と俺は慌てて研究室の扉へと向かおうとした。
 しかし、それはマティスに止められる。
 
「リアムとは限らないだろう?」
 
 マティスが小声で言う。
 
「ルーカスがここにいるのはバレない方がいい」
 
 公爵代理で忙しくしているはずの俺がホクマカム魔導学園に出入りしていることを知られれば、公爵代理の仕事をおろそかにしているとみなされるだろう。
 このまま、一度、公爵邸の執務室へと戻るべきかと迷っていると、再び扉が叩かれて声がした。
 
「ルーカス、そこにいるのだろう? さっさと開けてくれ」

 それは、俺の師匠のルシアン先生の声だった。
 ルシアン先生はこの国の魔導師の一人で、魔術具製作を得意としている。
 
 マティスがため息をつき、研究室の扉を開けた。
 
「どうして先生がこちらに?」
 
 ルシアン先生が部屋の中に入るとマティスはすぐに扉を閉めて鍵をした。
 
「お前たち、大量の魔力を使うような何かを設置しただろう? そんなことをすればすぐにわかる」
 
 ホクマカム魔導学園の防衛結界は少しの変化も見逃さない。
 外部からの攻撃はもちろんのこと、生徒たちの実験の過程で研究していた魔術が誤作動を起こすこともあるし、制作途中の魔術具が爆発することもあるからだ。

 そうした危険を感知すると、教師たちはすぐに動き出す。
 今回は高密度の魔力を感知し、さらにその場所が俺の研究室だったためにルシアン先生がわざわざ出向いたのだという。
 
「それで? 何を作ったんだ?」
「転移魔術具です」
「転移魔術はお前たち三人で使えるように開発された魔術だ。他の者には公開せず、三人だけの秘密だったが、それを魔術具にしたのか? なんでまたそんな面倒なことを?」
「魔術では俺たち三人が必ず一緒にいなければいけませんし、魔術を唱える時間も必要ですが、この魔術具ならば一人の時でもすぐに使えますから」
「その代わり、公爵邸の執務室とこの研究室を繋ぐことしかできませんから、大目に見てもらえませんか?」
 
 ルシアン先生は俺をじっと見つめた。
 
「これを作った目的は? 公爵代理は忙しいだろうに、なんでそんな忙しい時にわざわざこんなものを作った?」
「俺の運命に会うためです!」
 
 ルシアン先生は怪訝な表情で俺を見つめた。
 
「まだ諦めていなかったのか? 公爵からも親友二人がその相手だったのだろうと言われたのだろう?」
「ルシアン先生、ルーカスは出会ったんですよ」
 
 マティスの言葉に、ルシアン先生の眉間の皺が消えた。
 
「本当か?」
「はい」
「そいつは誰だ?」
「リアム・クォーツです」
「ああ、リアムか!」
 
 あまり人に興味を持たないルシアン先生が知っているということは、リアムはこの学園で本当に有名なのだろう。
 
「そうか。そうか」と師匠は愉快げだ。
 
「それならば、この件は他の先生たちには問題ないと伝えておく。でも、くれぐれも目立たないように気をつけてくれよ。公爵様に知られれば、俺が怒られる」
「はい。気をつけます」
 
「そうだ」とルシアン先生はポンっと手を打った。
 
「ルーカスとリアムが親しいなら。この研究室をリアムに貸してやってはくれないか?」
「それは構いませんが……」
 
 というか、願ってもない話だ。
 公爵邸の執務室とこの研究室を魔術具で繋いだのだから、リアムが研究室にいてくれればいつでもすぐに会うことができる。
 
「どうしてですか?」
「リアムは非常に優秀だから、研究室を与えてやりたいと思っているのだが、まだ魔術師になったばかりだから、反対の声もあって研究室を用意できていないんだ」
「もう魔術師になったんですか!?」
 
 どうやらリアムは俺たちが魔術具を作っている間に魔術師の試験に合格していたらしい。
 
「リアムは入学半年で魔術師試験に合格したんだ。魔導学園に来る前に家庭教師から教わっていた者ならば、これまでもそうしたことはあったが、家庭教師がついていない者としては歴代最速だろう」
「さすが、俺の運命……」
 
 なんて素晴らしいのだろう。
 そう感心するのと同時に、学園側に不満も抱いた。
 
「優秀な魔術師ならば研究室を与えられるのは当然ではないですか? ホクマカム魔導学園は生徒たちの能力に対して公平であると思っていたのですが?」
「そうあろうとする教師陣は多いが、実際はそうはいかない。それに、ルーカスが学園からいなくなったために、それまで息を潜めていた権力主義者も出てきたしな」
 
 俺はこの学園で身分を振りかざす愚か者など見たことはなかったが、俺の皇子という身分が抑止力になっていたということか……
 とにかく、俺はこうして、リアムと頻繁に会うことのできる手段を手に入れたのだった。