「帰ってきたぞ! 我が愛しきホクマカム魔導学園!」
俺はテンションが上がり、空中に浮いたまま島を見下ろしてそう叫んだ。
そんな俺を見ていた親友二人が苦笑した。
「とは言っても、数時間だけだけどな〜」
「あの爺さん、厳しすぎるだろ」
「レジナルドが厳しすぎることには俺も文句が言いたいが、時間が惜しい!」
研究室に行って何か研究をしたいが、数時間ではそんなこともできないだろう。
久しぶりに師匠に会って、師匠の研究でも見学しようか? きっと何か学びがあるだろう。
「とりあえず、噂の新入生を探そう!」
マティスの言葉に、そうだった。と、俺は当初の目的を思い出した。
久しぶりに学園に来られたことが嬉しくて、あれだけ頑張って仕事をこなして学園に来た目的を忘れていた。
入学してまだ数ヶ月だというのに、魔法で上級生の魔術師を倒した上に、その他にも様々な功績を残しているという噂の新入生を見に来たのだった。
いや、見るだけでなく、できればちゃんと会いたい。会って、話がしてみたい。
きっと、その新入生も、俺や俺の親友二人や他の魔術師たちと同じくらいに魔術が好きなはずだから。
魔術の話をしたら、絶対に楽しいはずだ。
俺たちは杖に跨ったまま、学園の校舎の方へと進んだ。
島全体が学園の管理下にあるが、島全体が校舎や学園内の敷地というわけではなく、学園の敷地を囲む塀の外には街が作られており、そこにはレストラン、雑貨屋、本屋なんかがある。
元々は学園を管理するための職員達や学園の外にゆっくりできる家を望んだ教師達が住んでおり、その人々のための店が増え、その子孫達がさらに家や店を増やして街になったそうだ。
「なんか、闘技場が賑わってないか?」
ホクマカム魔導学園には闘技場がある。
攻撃魔法の練習や試験の際に使われる場所だ。
もしかすると今まさに授業が行われているのかもしれないけれど、それにしては観客が多いような気がする。
「ちょっと覗いていくか」
そう言ってアズベルトが高度を落とした。
遠目に見ると、火柱をいくつも生み出した生徒がその火柱を操作して相手の生徒を取り囲んだ。
しかし、相手の生徒は冷静に火柱を取り込めるサイズの水球を、火柱と同様の数生み出した。
「あれって、リアムじゃないか?」
「本当だ! リアム・クォーツだ」
リアム・クォーツ、それは噂の新入生の名前だと執務中に聞いた。
どちらがその人物なのかということは、二人に聞かなくてもわかった。
回転する火柱は魔術だ。しかし、水球は魔法だ。
一般的な魔法よりも圧倒的に大きな水球ではあったが、おそらく、水球を生み出した方がリアムなのだろう。
そう推測して、俺はリアムへと視線を向けた。
彼はホクマカム魔導学園に入学するには若すぎるくらいの少年に見えた。
学園に特に年齢制限はないものの、親元を離れて魔術を学ぶ子が多いため、基本的には十代半ばから十代後半の者が多いのだ。
しかし、リアムは十代前半に見える。
「彼、少し若すぎないか?」
「いや、あれで十五らしいぞ」
「え? 本当に? 十一、十二にしか見えないけど」
俺たちがそんな会話をしている間に水球が火柱を飲み込んだ。
しかし、火柱は消えない。
相手の魔術師だって馬鹿じゃない。
水で簡単に消える炎など生み出さないだろう。
だから、水球で火柱を飲み込まれても魔術師は余裕の表情だ。
きっと、ここからさらに火柱を成長させ、少年を火柱で囲むつもりだろう。
しかし、魔術師が生み出した火柱に変化はない。
火柱がその大きさを変えることはなく、水球の中に存在し続ける。
そして、水球は動き始めた。
ゆっくりとではあるが、魔術師の方へと動いていく。
そして、リアムを取り囲んだように、火柱を閉じ込めた水球が今度は魔術師を囲む。
「なるほどな」
「やっぱり、あの新入生は面白いな」
「魔術師の消えない火柱を逆に利用し、水球で閉じ込めて、水という物質的圧力で魔術師の方へと追いやったのか」
「きっと、それだけじゃないぞ」
魔術師を取り囲んだ水球は徐々にその距離を詰めて、魔術師を中心にして水球同士が密着してくっつき始めた。
そして、筒状の水柱のようなものとなる。
消えない炎を閉じ込めた水柱だ。
その水は徐々に膨張している。間もなく、魔術師に接触し、魔術師を取り込むだろう。
水の中の火柱がどのような作用を持っているのかは我々にはわからない。
水に熱を伝えるように作用しているのならば、実のところ、あの水球の中は熱湯なのかもしれないし、熱湯じゃなかったとしても、水球に閉じ込められれば魔術師は息が続かないだろう。
「降参だ! 降参する!!」
魔術師は叫んだ。
「あれ? あいつ、よく見たら、学園内でも街でも威張り散らしてみんなに嫌われていたやつか」
「リアムに魔法で負かされたのが気に入らなくて決闘でも申し込んだのかもしれないな」
「となると、この観客もあいつが自分で宣伝でもして呼び寄せたのか?」
「みんなの前で魔術師としての腕を見せつけようとして返り討ちにあったというところか」
アズベルトとマティスがそんな会話をしている。
しかし、俺はそんな二人の会話を聞いてはいなかった。
俺の目は、リアムという少年に釘付けになってしまっていた。


