皇弟の”運命”


「魔導学園の様子はどうだ?」
 
 公爵代理として過ごして数ヶ月が経った頃、ホクマカム魔導学園で親友になったアズベルトとマティスの二人が公爵邸を訪ねてきた。

「相変わらずだよ。基本的には魔術が好きなやつばかりだから、勉強も修練も、実験も楽しい」
「そうか。いいな……俺もまだまだ学びたかったのに」
「退学ではなく、休学扱いだろう? 公爵家の仕事が落ち着いたら、また戻ってくるんじゃないのか?」
「俺も戻りたいけど、叔父上と兄上としては、俺がホクマカム魔導学園に戻ることは考えてないみたいだ」
「魔術師から急に学ぶことを取り上げておいて、学びの場に戻してくれないのはひどいな」

 俺たちはみんな魔術が好きだから、それができない環境というのがどれほど苦痛なのかを理解してくれる。

「そういえば、今年の新入生にすごく優秀なのがいてさ」
「ああ! あいつな! まだ魔法しか使えないのに、上級生の魔術師を倒したんだ!」
「へぇ、それはすごいな!」

 この世界には魔法使い、魔術師、魔導師がいる。

 魔法使いは生まれ持った魔力により魔法を起こせる者。魔法を使うのは、魔力を持っている者が持っている基本的な能力で、これは本能に近い。
 そして、その本能を自分の知識、鍛錬で思うままに御せるようになるのが魔術だ。大抵の魔力持ちで学校に行った者はこの魔術を会得した魔術師になる。
 そして、魔術師の先、魔術師数人で立ち向かっても勝てない領域に立ち、魔法使いを教え、魔術師を束ねて導く者が魔導師だ。

 魔導師はこの国でも数人しかおらず、次に魔導師になるのは叔父上だと言われている。

「新入生に倒されたのは街の人たちに自分は魔術師だから優遇しろとか無茶を言って嫌われていたやつだったから、その新入生は今や街では正義の味方のような存在だ」
「入学してまだ数ヶ月だけど、一年もせずに魔術師になるって言われているよな」
「おそらく、他国の貴族なんだろう。家に魔術書があって、独学で学んでいたんじゃないか?」
「確かに、それなら、あの魔力の見事なコントロールもわかるな」

 入学してすぐ上級生の魔術師を倒し、一年もせずに魔法使いから魔術師になるだろうという噂のある人物か……

「興味深いな」

 俺の呟きに、親友二人はニヤリと笑った。

「それなら、見にこいよ!」
「いや、しかし、俺には仕事が……」
「そのための俺たち、優秀な親友だろう?」

「え?」と俺は二人を凝視する。

「公爵様にお前をちょっと気晴らしに食事に誘いたいって連絡取ったら、ある程度仕事に余裕ができたらいいってさ!」
「仕事に余裕なんて……」

 俺は机の上の書類の山を見る。この山が消えるところなんて見たことがない。
 前日よりも増えているところは何度も見たけれど。
 
「とりあえず、執事がOKを出せばいいって聞いてるから!」
「執事からOKサインがもらえるまでは、俺たちが手伝うから!」
「あの執事がOKを出してくれる日なんて来るんだろうか……」

 正直、この屋敷の執事はだいぶ鬼畜だと思う。

「怖いこと言うなよ」

 そう言いながら、俺たちは頑張った。
 そして、俺たちは三日で勝利を勝ち取った……いや、勝利は勝ち取ったのだが、三人でやって三日かかったことが驚きだ。

 とにかく執務の量が多く、そして、執事のレジナルドがめちゃくちゃ厳しいせいだ。
 しかも、俺たちに外出の許可を出したレジナルドの言葉がまた恐ろしい。

「では、明日の早朝からのお仕事もございますから、夜遅くならないようにお戻りください」

 つまり、与えられた自由はほんの数時間ということだ。
 俺たちは目眩を覚えたが、それでも、ショックで時間を無駄にするようなことはできなかった。

「とにかく、出かけてくるから!」
「もう少しで馬車の準備ができますからお待ちください」
「いや、俺たちは魔術師だから!」

 俺は公爵代理として仕事をしている時でも毎日胸ポケットに入れていたペンほどの大きさの小さな杖を取り出して呪文を唱え、背丈の大きさにした。
 親友二人も同様に杖を大きくする。

「魔術師というのは本当に便利ですね」

 レジナルドが感心したように俺たちを見ていた。

 俺たちは杖に跨がり、風の魔法で飛んだ。
 しばし、普通の魔法使いの速度で飛んでいたが、公爵邸から十分に離れたところで、俺たちはお互いに目配せをした。

 ここからが魔術師の本領発揮である。
 俺たちは三人それぞれ別の呪文を唱えて、三人で一つの術式を作り上げていく。
 そして、その術式が完成した瞬間、俺たちはホクマカム魔導学園がある島へと転移していた。

 この島全体がホクマカム魔導学園の管理下にある。
 島の所有国は我が国、ドラグディウス帝国だが、王侯貴族であれこの島の中では権力を振るうことは禁じられている。
 ここは、ただ、魔術の腕を磨き、魔導を目指す者たちのための場所なのだ。