皇弟の”運命”

 リアムの言葉通り、数日間はリアムは研究室を訪れることはなく、俺はリアムに会うことができなかった。
 しかし、それが一週間ともなると、リアム不足でちょっと発狂しそうになった。

「ルーカス様、全く集中できておりませんな」
 
 ただ書類をぼーっと見つめていた俺はレジナルドにそう嗜められた。
 
「すまない。リアムのことが気になって……こんなことなら、マティスかアズベルトのどちらかにここに残って貰えばよかったな」
 
 リアムが魔導学園に戻る際に、二人もそろそろ学生らしく自分たちの研究に戻ると魔導学園に戻ったのだ。

 そのため、俺は今、一人で黙々と執務をこなしている。
 とはいえ、二人がいる間にかなり仕事をしてくれたおかげで、以前よりも執務は随分と楽になっていた。

 マティスかアズベルトのどちらかがここに残っていてくれたなら、リアムの様子を見てきてもらうことができたのだが、今の俺はただ、魔導学園の誰かが俺を訪ねてくるのを待つしかない。

「はぁ……リアムに会いたい」

 レジナルドがこほんっとわざとらしく咳払いした。
  
「少しの間でしたら、魔導学園に行かれるのもいいのではないですか?」
「え?」
 
 聞き返すと、レジナルドは執務机に小包を置いた。
 
「料理長が用意した、焼き菓子セットです。リアム様のために作ったようですから、お届けしてください」
 
 俺は表情を明るくして、レジナルドに礼を言った。
 
「確実にリアムに渡すよ!」
「はい。またお食事をサボられているかもしれませんから、健康状態も確認してきてくださいませ」
 
 魔術具の扉から研究室へと入ったが、やはり、そこにリアムの姿はなかった。

 俺は廊下に出て、ルシアン先生の研究室を目指す。
 できるだけ人目につかないように、こっそり移動する。
 
 リアムは言っていた。座学を受けたり、ルシアン先生の研究の手伝いをする予定だと。
 たとえ、ルシアン先生のところにリアムがいなくても、先生からリアムのことを何か聞けるかもしれない。

「リアムいるか!?」

 ルシアン先生の研究室の扉を開いた瞬間、無意識に願望が口から出ていた。
 中に誰がいるか確認しようと思っていただけなのだが、リアムにいて欲しいという気持ちが強すぎたようだ。

「ルーカスか……お前、公爵代理の仕事はどうした?」
「執事がリアムに焼き菓子を持って行くように言ってくれたので」

 ルシアン先生はすこし考える素振りを見せた。

「……ということは、あの執事は公爵から何も聞かされていないということか?」
「どういうことですか?」
「いや、ちょっと、公爵様から我々学園関係者は注意されたんだ」
「俺が旧校舎を壊した件ですか? すみません」
「いや、それもあるのだが……」
 
 ルシアン先生は俺に何とも言えない視線を向けながらも何やら考えているようだ。
 
「何ですか? 叔父上に何か言われたのですか?」
「……やっぱり、運命の相手と引き離すってのは良くないと思うんだよな」

 運命の相手と引き離す?
 俺はすごく嫌な予感がした。

「なんのことですか?」
「ルーカス、マティスとアズベルトを呼ぶからちょっと待っていてくれ」
「いや、その二人ではなく、リアムを呼んでほしいのですが?」
「リアムの話はその後だ」
 
 ルシアン先生にそう言われて、俺は親友の二人が来るまでしばらく待つこととなった。

「ルーカス? どうしたんだ?」
「ルシアン先生、何か用ですか?」

 マティスとアズベルトが来た。

「それじゃ、リアムの話をするぞ? 二人には、ルーカスの暴走を止めてもらいたい」
 
 マティスは嫌そうな表情を浮かべ、アズベルトは何やら期待した表情になった。



 十分後、俺はマティスとアズベルトに両脇から腕を掴まれ、動きを封じられていた。

「今すぐ、リアムを迎えに行きます!!」
「とにかく落ち着け!!!」

 ルシアン先生の話はかなり衝撃的なものだった。

 未来視ができる叔父上は、俺が幼い頃には俺には運命の相手がいるということしかわからなかったが、徐々にその時が近づいてくると、俺と運命の相手が出会うことによって、帝国や周辺国に何か大きな影響があるということがわかったらしい。
 
 叔父上の未来視はその時が近づくことによってその未来の詳細が徐々にわかるため、何かが起こることはわかっても、具体的に何が起こるのかはわからない。
 けれど、帝国や周辺国にまで影響が出るということは、よほどのことだろうと結論づけた父上と叔父上は、俺と運命の相手を出会わせないという結論に至ったらしい。
 
 そして、俺を魔導学園から引き離すために、父上が病で倒れて叔父上は兄上の補佐をしなければならなくなり、その結果、俺は公爵代理として忙しくなるというシナリオを作り上げたのだという……