それから数日後、リアムはすっかり元気になった。
食事の量も増えて、動けるようになって、屋敷のみんなと笑顔で話すようになり、庭を散歩し、そして、その日の夕食の席で「僕、明日、寮に戻りますね」と微笑んだ。
「まだゆっくりしていたらいいじゃないか?」
「ルーカス様、僕は魔導学園の学生ですよ? 学ぶことが本分です」
確かに、リアムはまだ俺の婚約者でも伴侶でもないため、「俺の隣にいたらいいじゃないか」と引き留めるわけにもいかない。
俺は翌日、執務室と魔導学園の研究室を繋ぐ魔術具の扉の前で、リアムに魔石を渡した。
「俺の魔力を込めた魔石だ。ほしいって言っていただろ?」
俺の魔力が込められた魔石を渡すと、リアムは嬉しそうに微笑んで、大切そうに両手に包んだ。
「ありがとうございます! やっぱり、ルーカス様の魔力は綺麗な色をしていますね。大切にします」
「しばらくは研究室には来ないのか?」
「座学の授業にも出たいですし、ルシアン先生の研究のお手伝いにも興味があります。でも、またすぐに研究室でやりたいことができると思いますから、その時にはルーカス様達にもご挨拶に伺いますね」
俺は名残惜しくてリアムの手を握った。
「必ず、顔を見せてくれ」
リアムが魔導学園に戻った日の午後、叔父上が公爵邸に来た。
「ルーカス、他国の貴族令息に重傷を負わせたと聞いたぞ」
「訳あって、旧校舎を一つ破壊したのですが、その際に巻き込まれてしまった者がいたようですね」
実際、俺がやったのはせいぜい、あいつが逃げるのを遅らせた程度のことだ。
あいつが魔術師としてしっかりと学んでいれば、大した問題ではなかったはずだ。
それに、学園の結界のおかげで死にはしないのだ。
正気を失ったのだって、あいつの精神力の問題であって、俺が特別に何かした訳でもない、
「ルーカス……まさかと思うが、運命の相手に会ったのか?」
叔父上の言葉に俺は思わず叔父上を凝視した。
「それは、どういう意味でしょうか?」
魔導学園で俺が運命の相手に会うことを何度も聞かせてくれていた叔父上だが、ある時から運命の相手というのは俺の親友二人のことだったのだろうと言い始めた。
たった一人、俺が愛し、俺を愛するようなそんな存在ではなく、気の合う二人のことだったのだろうと。
しかし、今のこの発言は、どういうことだろう?
俺にはリアムという運命の相手がいて、そのリアムのことがきっかけで、今回の事件が起こったことを知っているような……
こほんっと叔父上はわざとらしく咳払いした。
「お前の師匠であるルシアン先生は今回負傷した生徒があの校舎にいたのは偶然であり、旧校舎の破壊に巻き込まれたのは事故だったと言っている」
叔父上は俺の質問に答えるつもりはないようだ。
「では、そうなのでしょう」
それならば、俺も叔父上の質問に答える必要はないだろう。
「可愛がっていた後輩が閉じ込められていたことに動転して、魔力が暴走した結果、旧校舎を破壊してしまったようだと聞いているが、それもその通りなのか?」
「はい。それもそうなのでしょう」
「なんだ? その曖昧な返答は」
「なにぶん、気が動転しておりましたので、俺自身、定かではないのです」
叔父上は不満そうな表情だが、俺は笑顔でその視線を流した。
「旦那様」と、レジナルドが叔父上に声をかけた。
「差し出口ではございますが、お話ししてもよろしいでしょうか?」
「ああ。なんだ?」
「ルーカス様はあの日、何者かに暴行を受けてボロボロの姿になった幼気な少年を連れて参られました。親しい者のあのような姿を見ては、誰しも心が乱れるものと思います」
「しかし、ルーカスは皇弟なのだぞ? どのような時にも冷静に対処できる胆力を持ってもらわねば、今後、外交問題などにも対処が困るであろう」
叔父上の言葉にレジナルドがにこりと微笑んだ。
「しかし、旦那様も皇弟であられましたが、幼少期のハロルド様が玉虫の標本を一つ壊されただけで大騒ぎされていたではありませんか?」
ハロルドというのは俺の兄で、現皇帝である。
「そ、それとこれとは……」
「話は違いますが、ルーカス様が怒られたのは玉虫の標本が壊されたからではなく、親しい人が傷つけられたからです。怒りに我を忘れて旧校舎の一つや二つくらい木っ端微塵にしても致し方なかったと思います」
「う……うむ」
叔父上はまだ何か言いたげだったが、レジナルドの手前、もうそれ以上は何も言えなかったようで、城へと戻っていった。
「リアムが帰ったタイミングで叔父上が来たのは、レジナルドの計らいか?」
「ええ。早くルーカス様に話を聞きたいとおっしゃっておりましたが、なんだかんだと理由をつけて旦那様が来られるのを延期させていただきました」
「ありがとう」
「いいえ。あのような被害に遭われたリアム様にこれ以上の心労を与えるのはお可哀想でしたから」
リアムに対するレジナルドの溺愛ぶりにすこし複雑な思いを抱くこともあるが、今回は素直に感謝することにした。
食事の量も増えて、動けるようになって、屋敷のみんなと笑顔で話すようになり、庭を散歩し、そして、その日の夕食の席で「僕、明日、寮に戻りますね」と微笑んだ。
「まだゆっくりしていたらいいじゃないか?」
「ルーカス様、僕は魔導学園の学生ですよ? 学ぶことが本分です」
確かに、リアムはまだ俺の婚約者でも伴侶でもないため、「俺の隣にいたらいいじゃないか」と引き留めるわけにもいかない。
俺は翌日、執務室と魔導学園の研究室を繋ぐ魔術具の扉の前で、リアムに魔石を渡した。
「俺の魔力を込めた魔石だ。ほしいって言っていただろ?」
俺の魔力が込められた魔石を渡すと、リアムは嬉しそうに微笑んで、大切そうに両手に包んだ。
「ありがとうございます! やっぱり、ルーカス様の魔力は綺麗な色をしていますね。大切にします」
「しばらくは研究室には来ないのか?」
「座学の授業にも出たいですし、ルシアン先生の研究のお手伝いにも興味があります。でも、またすぐに研究室でやりたいことができると思いますから、その時にはルーカス様達にもご挨拶に伺いますね」
俺は名残惜しくてリアムの手を握った。
「必ず、顔を見せてくれ」
リアムが魔導学園に戻った日の午後、叔父上が公爵邸に来た。
「ルーカス、他国の貴族令息に重傷を負わせたと聞いたぞ」
「訳あって、旧校舎を一つ破壊したのですが、その際に巻き込まれてしまった者がいたようですね」
実際、俺がやったのはせいぜい、あいつが逃げるのを遅らせた程度のことだ。
あいつが魔術師としてしっかりと学んでいれば、大した問題ではなかったはずだ。
それに、学園の結界のおかげで死にはしないのだ。
正気を失ったのだって、あいつの精神力の問題であって、俺が特別に何かした訳でもない、
「ルーカス……まさかと思うが、運命の相手に会ったのか?」
叔父上の言葉に俺は思わず叔父上を凝視した。
「それは、どういう意味でしょうか?」
魔導学園で俺が運命の相手に会うことを何度も聞かせてくれていた叔父上だが、ある時から運命の相手というのは俺の親友二人のことだったのだろうと言い始めた。
たった一人、俺が愛し、俺を愛するようなそんな存在ではなく、気の合う二人のことだったのだろうと。
しかし、今のこの発言は、どういうことだろう?
俺にはリアムという運命の相手がいて、そのリアムのことがきっかけで、今回の事件が起こったことを知っているような……
こほんっと叔父上はわざとらしく咳払いした。
「お前の師匠であるルシアン先生は今回負傷した生徒があの校舎にいたのは偶然であり、旧校舎の破壊に巻き込まれたのは事故だったと言っている」
叔父上は俺の質問に答えるつもりはないようだ。
「では、そうなのでしょう」
それならば、俺も叔父上の質問に答える必要はないだろう。
「可愛がっていた後輩が閉じ込められていたことに動転して、魔力が暴走した結果、旧校舎を破壊してしまったようだと聞いているが、それもその通りなのか?」
「はい。それもそうなのでしょう」
「なんだ? その曖昧な返答は」
「なにぶん、気が動転しておりましたので、俺自身、定かではないのです」
叔父上は不満そうな表情だが、俺は笑顔でその視線を流した。
「旦那様」と、レジナルドが叔父上に声をかけた。
「差し出口ではございますが、お話ししてもよろしいでしょうか?」
「ああ。なんだ?」
「ルーカス様はあの日、何者かに暴行を受けてボロボロの姿になった幼気な少年を連れて参られました。親しい者のあのような姿を見ては、誰しも心が乱れるものと思います」
「しかし、ルーカスは皇弟なのだぞ? どのような時にも冷静に対処できる胆力を持ってもらわねば、今後、外交問題などにも対処が困るであろう」
叔父上の言葉にレジナルドがにこりと微笑んだ。
「しかし、旦那様も皇弟であられましたが、幼少期のハロルド様が玉虫の標本を一つ壊されただけで大騒ぎされていたではありませんか?」
ハロルドというのは俺の兄で、現皇帝である。
「そ、それとこれとは……」
「話は違いますが、ルーカス様が怒られたのは玉虫の標本が壊されたからではなく、親しい人が傷つけられたからです。怒りに我を忘れて旧校舎の一つや二つくらい木っ端微塵にしても致し方なかったと思います」
「う……うむ」
叔父上はまだ何か言いたげだったが、レジナルドの手前、もうそれ以上は何も言えなかったようで、城へと戻っていった。
「リアムが帰ったタイミングで叔父上が来たのは、レジナルドの計らいか?」
「ええ。早くルーカス様に話を聞きたいとおっしゃっておりましたが、なんだかんだと理由をつけて旦那様が来られるのを延期させていただきました」
「ありがとう」
「いいえ。あのような被害に遭われたリアム様にこれ以上の心労を与えるのはお可哀想でしたから」
リアムに対するレジナルドの溺愛ぶりにすこし複雑な思いを抱くこともあるが、今回は素直に感謝することにした。


