皇弟の”運命”


 旧校舎でリアムを見つけて三日目、リアムが目を覚ました。
 ゆっくりとその瞳を開けたリアムは俺の顔を見て不思議そうな表情を見せた。
 
「……ルーカス様?」
「リアム、大丈夫か? 痛いところはないか?」
「どうして、ルーカス様が?」
 
 リアムは周囲を見て、「ここは?」とまだ困惑しているようだ。
 
「リアムが姿を消したから、探しに行ったんだ」

 俺の言葉にリアムはしばし黙って記憶を辿っているようだ。

「それで……ルーカス様が僕を助けてくださったんですね?」
 
 リアムの頬に触れると、リアムは俺の手にその頬を擦り付けるような仕草をした。

「色々と話をしたいが、とにかく何か食べよう」

 俺はすぐにレジナルドを呼び、温かいスープを運んでもらった。
 眠り続けるリアムに魔力は与え続けていたけれど、だからって空腹が満たされるわけではない。
 
「どうして、あんな男といたんだ?」

 食事が済んだリアムに聞いた。

「それが……僕がルーカス様の研究室を使っていることを知ったようで、そのことをみんなにバラすと脅されたのです。僕は何を言われても構いませんが、僕がルーカス様の研究室を使っていると知った人々があの研究室に押しかけるかもしれませんし、どのように対応するのが正解なのかわからなくて……」
 
 俺が魔導学園にたびたび来ていることは秘密にしていたので、その秘密を守るためにリアムはあのゲス野郎の言うことを大人しく聞いていたようだ。
 
「俺のせいだったのだな。すまなかった」
「いえ! ルーカス様のせいではありません!」
 
 リアムは首を横に振ってくれたが、やはり俺のせいだろう。
 俺はリアムを抱きしめて誓う。
 
「俺がリアムのことを守るから……また誰かに俺のことで何か言われても、相手に従う必要はない」
「……僕じゃ、ルーカス様のお役には立てませんか?」
「そうじゃない。俺が、リアムに傷ついてほしくないんだ!」
 
 リアムは俺の胸に顔を埋めるようにして、「わかりました」と小さな声で答えた。
 その耳がすこし赤く見えたのは、気のせいではないと思いたい。
 
「……あの人は、どうなったのでしょうか?」
「魔導学園ではあのような卑怯な手を使うような者は退学になると決まっている。リアムがあいつに会うことはもうないから、安心してほしい」
 
 俺はさらりと嘘をついた。
 あの男は罰として退学処分になったのではない。

 まぁ、放っておいても、リアムにひどいいじめをしていたことだけでも退学処分にはなっただろうが、実際のところ、大量の瓦礫の下敷きになる恐怖を味わった男は正気を保つことができなくなり、その結果、自主退学した。

 おそらく、あの男の出身国からは抗議が届くだろうが、揉めても抗議文で終わるか、あの男の親が学園に乗り込んでくる程度のことだろう。
 魔術師が揃っているこの学園に戦争を仕掛けるような愚王はいない。
 
 マティスに調べてもらったところ、あの男の父親は侯爵だったようだが、それでも母国の者があの男のために兵をあげるとは思えない。

 万が一、戦争になった場合には、「俺が行く! 俺に行かせてくれ!」とアズベルトがやる気を出していたので、アズベルトに任せるつもりだ。
 俺と初めて会った時にもアズベルトは最初から好戦的で、そんな彼を叩きのめした結果、「友達になりたい!」と言われて今に至るわけだが、彼はどうしてあんなに戦闘狂なのだろう。

 ちなみに、マティスは、皇弟の実力が見たいと俺とアズベルトの対戦を見ていたのだが、俺の容赦のなさが面白かったから家来になることにすると言い出し、家来は特に必要なかったため、友達になったのだった。
 俺の親友は二人ともどこかおかしいのだと思う。
 
「ルーカス様、リアム様のお体はまだ本調子ではないでしょうから、もう休ませてあげてください」
 
 レジナルドは空になった皿をリアムの手から取り、メイド達は枕の位置を調整したり、背中にあたる部分のシーツを整えたりして、リアムに横になるように促す。

 俺が体を支えてやって、リアムを横にする。
 横になったリアムは改めて天井画や視界に入る家具なんかを見ていた。
 
「帝国の公爵邸の客間はとても豪華ですね」
「こちらの部屋はルーカス様の寝室です」
 
 レジナルドの言葉に、リアムは驚きにその目を見開いた。
 そんな顔もとても可愛い。
 
「ルーカス様はリアム様のことをとてもご心配されて、眠る時もそばにいたいとおっしゃられるので、リアム様にはこちらでお休みいただいておりました。ルーカス様がこれほどまでに心配性だとは知りませんでした。リアム様からいっときも離れることはできないと、執務もこちらの部屋でされていたのです」
「レジナルド、そのような話はしなくても……」
 
 リアムのことが心配でそばを離れることができなかったのは本当だが、格好のいい話ではないため、あまりリアムには知られたくない。
 
「リアム、もう寝なさい」
 
 そうリアムの頭を撫でると、リアムは頬を染めてこくりと頷いた。