皇弟の”運命”

「っ!? リアム!!」
 
 俺が風魔法で窓を壊そうとすると、アズベルトが「俺に任せろ」と、高熱の炎で窓枠ごと窓を溶かした。
 俺たちは開け放たれた窓から部屋の中に入り、すぐにリアムに駆け寄った。

 リアムは両手を後ろ手に縄で縛られ、両足も縄で縛られて身動きを制限された状態で、おそらく殴る蹴るの暴行を受けたと思われる痕があった。
 俺はそんなリアムの姿に頭が沸騰するような、胸が焼けるような怒りを覚えた。

「これはひどいな。とにかく、治癒魔術をかけないと」
「でも、証拠がなくなるだろ?」
「問題ない。すぐに治療してくれ」

 怒りで冷静な判断ができない俺が治癒魔術をかけるよりも、マティスのように常に落ち着いている奴が治癒魔術をかけてくれた方がいい。
 
 俺はどうやって犯人を探そうかと考える。
 部屋に相手の特定ができるようなものは残されていない。
 リアムを傷つけるのに魔術が使われているかもしれなかったが、相手の魔力の残滓は残っていないようだ。
 
 それならば、どうやって相手を見つけ出すか……そんなことを考えていると、教室の外、廊下から人が近づいてくる気配があった。

「あーあ、今日もつまんねー授業だった! リアムも暇だっただろう? 俺がまた遊んで……」
 
 そんなふざけたことを言いながら部屋の扉を開けたのは、以前に闘技場でリアムに返り討ちにあっていたどこぞの国の貴族だという低俗魔術師だ。

「こ、皇弟殿下!?」

 男は、どうやら、俺のことを知っているようだ。
 しかし、そんなことはどうでもいい。
 
 俺のことを知っていようが、いまいが、こいつがどこの国のどんな家柄だろうが、この学園で誰の弟子なのかとか、どんなコネクションを持っているとか、どんな魔術が使えるとか、この校舎を破壊して、この男を瓦礫の下に埋めてやったら、どんな影響があるのかとか……
 そんなこと、本当に全てどうでも良かった。リアム以外には。

「マティス、リアムを頼む」
「あんまり派手なことしないでね」
「派手に行こうぜ!」
 
 俺の親友二人は、真逆の言葉を残して、リアムを抱えて校舎から避難した。

「ひっ! 皇弟殿下! お許しくだ……」

 俺は何か言っている男の口を風魔術で裂いて黙らせ、さらに両手首を切り飛ばし、足の骨を折り、悲鳴が上がる前に校舎を崩壊させた。
 
 男がどうなったのかなんて本当にどうでもいい。
 校舎をひとつ崩壊させた影響とかもどうでもいいのだ。

 ああ、ちなみに男は死んでいない。
 魔導学園の中では誰かの命を本当の意味で奪うことはできない。
 魔術での決闘もあるから誰かを傷つけることはできるが、相手を殺してしまうほどの攻撃は結界が発動するので相手は魔導学園の魔術で守られることとなる。
 
 もし、本当に学園の中で誰かを殺したいならば、決定打になるような大きな魔術は使わずに、小さな魔術で小さな傷を相手にいくつもつけて、血を流させるのがいいだろう。

「リアムは大丈夫か?」

 マティスに聞くと、「治療は終わった」と言う。

「公爵邸に戻ろう」
 
 グッタリとしたリアムの姿にレジナルドも他の執事達やメイド達も慌てた。
 普段は俺の護衛をしている騎士達もその表情を崩して、リアムのことを心配している。
 
 すでに治療はしているものの、暴行を受けていたショックもあるだろうし、気力や体力が簡単に戻るわけでもない。
 リアムは一度も目を覚さないまま、三日眠り続けた。
 
 全く目を覚さないリアムの様子が心配になり、何度も公爵領の医師に診察をしてもらったものの、外傷も内臓の損傷もマティスが治療しているから問題はないという。
 様子を見るしかないという歯がゆい三日間を過ごした。
 
 その間に、ルシアン先生が俺の研究室と執務室を繋ぐ魔術具の扉を通って旧校舎を破壊したことについて事情聴取をとりにきたりしたが、俺は何一つ隠すことなく事実を伝えた。
 
「我々も手を焼いていた生徒ではあったが、まさか、リアムにそのような暴行まで働いたとは……」
 
 ルシアン先生は神妙な表情をし、それでも俺に厳しい視線を向けた。
 
「しかし、だとしても過剰攻撃だったとは?」
「思いません」

「だろうね」とルシアン先生は肩をすくめた。
 
「まさか、よりによってこの国で一番、手に負えない男を怒らせるとは」
 
 師匠は俺に呆れた視線を向ける。
 
「あの生徒についても、彼の母国に対しても、適当に処理しておくよ」
「お願いします」