皇弟の”運命”


 幼少期、叔父上に繰り返し聞かされた話がある。
 
「ルーカス、お前は魔導学園で運命の相手に出会うことができるぞ」
 
 叔父上はいつか魔導師になるだろうと言われているほどの魔術師で、そんな魔術師の瞳に映る自分の未来に俺も楽しみにしていた。
 未来視が得意な優れた魔術師が視た未来ならば、それは必ず起こることだと、そう信じていた。

 そんな楽しみにしていた俺の未来は、決して、今のように書類の山に毎日苦しめられるような日々ではなかった。
 
「叔父上、話が違います」
「何がだい?」

 俺に公爵の仕事を教えていた叔父上はにこりと作り笑いをしてとぼけた返事をした。

「ホクマカム魔導学園で運命の相手に出会えるって、俺が小さい頃から言っていましたよね? 俺、まだ出会えていません」

 俺が大好きになり、俺のことが大好きになる相手と、ホクマカム魔導学園で出会えると叔父上は繰り返し聞かせてくれた。
 その人は、俺のことをとてもとても幸せにしてくれるのだと。
 それなのに、ホクマカム魔導学園に通っていた三年間、そのような人物には出会ったことがない。

「つまり、俺はまだホクマカム魔導学園に通う必要があるということですよね? こんな風に、叔父上の仕事の代行をするよりも大切なことなのですが?」

 叔父上はこの国で最も未来視が得意な魔術師なのだ。
 つまり、それは、俺には必ず出会うべき運命の相手がいるということだ。
 それなのに、俺は突然、叔父上の代行で公爵の仕事をすることになり、ここひと月ほどは叔父上から仕事の内容を引き継いでいる。

 それというのも、俺の父であるこの国の皇帝が突然体調を崩し、俺の兄に皇位を譲ったためだ。
 叔父上はその兄の補佐を行うために城に詰めることとなり、公爵の仕事ができなくなるという。

 俺だって、大変な時期だというのはわかっている。
 しかし、この国にとって大きな局面であるこの時期と同じくらい、俺にとって、運命の相手というのは大切なのだ。

「運命の相手とは言っても、将来を誓う女性とは限らないよ? ルーカスはすでに大切な親友を二人もホクマカム魔導学園で得ているじゃないか?」

 確かに、俺にはこの先の将来もきっと関係が続くであろう親友というものが、魔導学園に入ってから二人もできた。
 それだって、運命的な出会いと言えるのかもしれない。

「でも、叔父上は俺にずっと、俺が大好きになる人物に出会うって言っていたじゃないですか?」
「親友だって、お互いに好意があってなるものだろう?」
「だとしても、大好きとは違いますよ?」
「ん〜、まぁ、その話をしていた頃は、ルーカスがまだまだ子供だったから、そういう表現をしていたんだと思うよ」
「なんですか? その曖昧な感じは?」
「知っているだろう? 未来視っていうのは、近い未来の重要なことに関する詳細がわかっても、遠くの未来のことはぼやけているんだよ。ルーカスが子供の頃に見た未来視なんだから、あまりはっきりとしたことはわからなかったんだ」
「それじゃ、今、見てくださいよ。俺の運命の相手を」

 どこの誰なのかはっきりとわかれば、今すぐにでも迎えにいく。

「この国にとって重要なことじゃないから、はっきり見えないんだよね〜」

 最近の叔父上はこんな感じだ。
 この大陸の中でも大国であるドラグディウス帝国の第二王子……いや、今は皇弟か……の「運命」の相手が重要じゃないということがあるのだろうか?

「もしかして、叔父上……」
「……なんだい?」
「魔術の腕が鈍ってきたんじゃないですか?」
「失敬な!」

 魔術の腕を疑えば怒るのに、俺の運命の相手についてはちゃんと教えてくれない。
 やはり、俺の運命の相手のことなんてこの国にとっては重要なことではないということなのだろうか?
 

 その後、叔父上は若き新王となった兄上の補佐として王城に上がり、仕事をする日々となった。
 そして、俺はといえば、毎日毎日公爵代理として大量の書類と向き合う日々。

 兄上と叔父上が言うには、数年後には俺と叔父上が仕事を代わり、兄上の補佐を皇弟の俺が行うこととなるという。
 今は兄上も仕事に慣れていない上に、その補佐として仕事に慣れていない俺がついても意味がないということで、こうした配置になった。
 そのことには納得している。

 ただ、ずっと、ホクマカム魔導学園で出会うはずだった俺の運命のことが気になっている。
 俺の運命は、今、魔導学園のどこかにいるのだろうか?