死に戻りの花嫁~私を刺した夫は、同じ手で私を抱きしめる~

第五話 和解と歩み寄り

 場所:あまねと律月が朝食を摂っている。
律月(以前の人生では、今日が遠征からの帰宅日だった)(前回は妖魔の発生場所の特定に手間取った)(あの時の知識を活かして、今回は早く帰ってきたが)
 ちらっと目の前に座るあまねを見る。
あまね「どうしたのですか?」
律月「いや、今日の予定は?」
あまね「診療所に行ってきます」「それで……その、今日は帰りが遅くなるかもしれません」
律月(今回も、あの男と会っているのだろうか)(調べたところ、医者か薬師のようだが)
 いつもより急いで食事を済ませるあまね。その姿をじっと見る律月。

場面転換
 場所:診療所
水都「おはよう」
あまね「おはよう、お医者様と幸さんは?」
 二人を探すように視線を巡らせるあまね。
水都「隣町で朝早くから産気づいた人がいて、そっちの手伝いに行ったよ」「前回のお産が出血が多くて大変だったから、念のためにと師匠も着いて行った」
 水都、てきぱきと薬の準備を始める。
あまね(やっぱり、前回と同じだ)
・回想
【前回の人生では、夕方、妊婦が駆けこんできた】【破水したのに全然産気づかないと言っていた】【すごい難産で一晩中陣痛で苦しんで】【でも、生まれた赤ちゃんの首にはへその緒が巻き付いていた】
 こま割で苦しそうな妊婦、水都とふたりで出産に立ち会う姿、赤ちゃんが死んで涙にくれる妊婦を描く
・回想終了
あまね(子供が死ぬのを見るのは、もう嫌)(お昼すぎに破水したと言っていた)(もっと早く処置していれば、助けられたかも)
水都「あまね、どうしたんだい?」
あまね「ううん、なんでもない。今日は時間があるから、いつもより長く手伝えるよ」
水都「それはいいけれど」「律月様は大丈夫なのか?」「それから身体も」
 水都の視線があまねの腹に向かう。妊娠四ヶ月。まだほとんど腹は出ていない。
あまね「つわりはほとんど治まったよ」
水都「まだ、律月様には子供ができたことを言っていないのか?」
 じとりとあまねを見る水都。あまね、気まずそうに視線を逸らす。その様子にため息を吐き、水都は再び仕事の準備をする・
水都「ま、夫婦にしか分からないことはあるからね」
あまね(水都は流産が原因で離婚したと言っていたけれど)(髪を切ったのは、医療に携わるためだけ?)(元ご主人意外と連れ添うつもりがないという決意?)
 思いも巡らせるも、問わない。

〇場面転換
 場面:近くの長屋の入口・時刻は二時ぐらい。
 あまね、躊躇いがちに長屋の入口の扉を開く。小さな子供が数人出て来る。
あまね「お母さんはいる?」
子供「うん」「寝てる」「お腹が痛いんだって」
 口々に言って、走り去っていく。「鬼ごっこをしよう」と声を掛けあっている。
あまね「大丈夫ですか?」
母親、ゆっくりと身体を起こす。
母親「あぁ、診療所のあまねさんね。平気だよ、ちょっとお腹が張っているだけさ」
あまね「陣痛ですか?」
母親「予定日は来月だし、まだそこまで痛くはないんだけれどね」
 あまね、俯き前回を思い出す
あまね(破水が起きるまであと一時間)(破水してからも、子供の世話があるからってぎりぎりまで診療所に来なかった)
 母親がよいしょと起き上がる。土間にある竈の前に立って、夕飯の準備をしようとする
あまね「あの、今から診療所に行きましょう」
母親「いいよ、まだそこまでじゃないから」「それに、幸さんもいないんでしょう?」
 顔の前で手を振る母親。大根を切る後ろ姿を歯がゆく見つめるあまね。
あまね(どうしたらいいの?)(いえ、すべきことは決まっている)(不審がられてもいい)「あの! やっぱり診療所に来てください」「夕食はお子さんも一緒に診療所で食べればいいんです」
母親「えっ、でも……」
 戸惑う母親の腕を掴んで、家から連れ出すあまね。

〇場面転換
 場所:診療所
 ばたばたと走り回る水都とあまね。子供たちはおにぎりを食べながら、診療所の端でじっとしている。
あまね「破水の量が増えているわ」
水都「まだ陣痛が弱いから産める状態じゃない」
あまね「陣痛を促す薬ってないの?」(前回、隣町から帰ってきた幸さんがその薬について教えてくれた)
水都「あぁ、そういえば幸さんがそんな話をしていたような」「あまね、思い出してくれてありがとう」
 どこだっけと探す水都。あまねが壁の薬棚から素早く取り出す。
あまね「これ?」
水都「うん! それだ」「すごいな、どうしてここにあるって知っているんだ」
 あまねから薬瓶を受け取る水都。瓶の中には乾燥した葉が入っている。
あまね「幸さんがそんなことを言っていた気がして」
水都「私も聞いたのかもしれないな」「駄目だ、気が動転していて判断が鈍っている」
 表情を引き締め、薬草を磨り潰し始める水都。あまね、土間の横にある竈に目をやる。
あまね「井戸水を汲んできて、いつでも湯を沸かせるようにしておく」
水都「あぁ、それなら私がするから」「あまねは薬草を磨り潰して」
 あまね、扉を開ける。でも、水都から話しかけられ振り返りながら足を踏み出したところ、どんと人にぶつかる。
あまね「すみません」「えっ、律月様、どうしてここに」驚くあまね。
律月「いや、近くまで来たから寄っただけだ」気まずそうな律月。
 奥の部屋から、妊婦が水都を呼ぶ。水都が慌ててそちらに向かう。
律月「忙しそうだな」
あまね「妊婦さんがいるんです」「でも、幸さんもお医者様も隣街に行っていて」
 困り顔のあまね、律月、眉を顰める。
律月「それは大変だ。車を出すから医者を呼びに行こう」
あまね「で、でも。向こうもまだお産の最中だと思いますから」(お産は亥の刻までかかったと言っていた)「とにかく、私と水都でなんとかします。今夜は帰れないかもしれません」「申し訳ありません」
律月「……帰れない。こういうことだったのか」(前回の人生で、あやめがこの日帰ってこなかったのは、妊婦を助けていたからか)
 顎に手を当て考え込む律月。その様子にとまどうあまね。律月、顔を上げる。
律月「俺に手伝えることはあるか?」
あまね「えっ?」
律月「出産に男が不要なのは分かっているが……」あまねの持つ桶に目線を落とす「それは?」
あまね「井戸水を汲みにいくところです」
律月「では俺が汲んでこよう」「その間にあまねは他の仕事をしたらいい」
 やや強引にあまねの手から桶を奪うと、律月は長屋と共有の井戸へ向かう。困惑しながらその後ろ姿を見送るあまね。
あまね(どうして?)(いえ、いまはそんなことを考えている場合ではない)(絶対に赤ちゃんを助けたい)
 机の上にある薬研を手にして、薬草を磨り潰す。
【妊婦に薬を飲ませる】【お湯を沸かすあまね・それを手伝う律月】【赤ちゃんを取り出す水都】のシーンをこま割で。

〇場面転換
 場所:診療所 一段落してほっと腰を下ろしている三人。
あまね「母子ともに無事でよかった」
水都「ああ。へその緒が首に巻き付いているときはどうしようかと思った」「出産に時間がかかっていたら危なかったかもしれない」「あまねのおかげだ」
あまね「私の?」
 水都、姿勢を正してあまねに頭を下げる。
水都「薬草を思い出してくれたのもそうだが」「あまねが落ち着いているから、私も冷静になれた」「礼を言う」
あまね「そんな」「今更、他人行儀なお礼なんていらないわ」気安い様子で、水都の肩を叩く
 ふたりの様子に、表強を曇らせる律月。自分はいないほうがいいだろうと、立ち上がり帰ろうとする。
水都「龍泉院様、お帰りになるんですか?」
律月「あぁ」「あまねはここで休んでから帰ってきたらいい」
あまね「でも……」
 一緒に帰るべきか悩むあまね。律月が扉へ向かおうとすると、医者と幸が帰ってくる。その横には男性の姿も(妊婦の夫)
医者「こっちでもお産があったんだってな」
幸「今、話を聞いたわ。水都がとりあげてくれたんだってね」「あまねさんもありがとう」
 感謝の言葉に、照れくさそうにするあまねと水都。律月、軽く頭を下げて帰ろうとする。幸「龍泉院様も手伝ってくれたと聞きました。ありがとうございます」深々と頭を下げる。
律月「俺は何もしていない」「それよりあまねが疲れているようなので、暫く休ませてやってくれ」
幸「もちろんです。あまねさんも身重ですからね。無理をさせてしまったようで、申し訳ありません」
律月「身重?」(診療所へ行く時間や回数は制限していたはずなのに)(俺が知らない間に間に水都と逢瀬を重ねていたのか)(やはりあまねは、俺を想ってはくれなかったか)(いや、それでもあまねが幸せなら)
 律月の表情が曇るのを見て、幸があまねに視線を向ける。
幸「もしかしてまだ言っていなかったの?」
あまね「……落ち着いたらと思っていて」
幸「気持ちは分かるけれど、二ヶ月も黙っていては駄目よ」やれやれと呆れる幸。
律「二ヶ月?」眉を寄せ、困惑の表情をあまねに向ける。
でもあまねは何も答えない。代わりに幸が話を続ける。
幸「はい。あまねさんがここに来られて、数日後に診断しました」「その時はつわりが酷かったようですが、最近は随分マシになられて」「来月には安定期に入ります」
律月「二ヶ月も前に分かっていたのか?」「しかし、そうなると水都が帰国してすぐでは……?」
あまね「はい、そうですが?」
 それが何か問題なのだろうかと、不思議そうにするあまね。その隣で水都がくすくすと笑う。
水都「あまね、律月様は初夜で授かったから、驚いているんだ」
あまね「しょ、初夜って!!」
 真っ赤になるあまね。その反応が面白く笑う医者と幸。あまね、恥ずかしそうに頬を手で覆う。
律月「そう、なのか」
あまね「はい。黙っていて申し訳ありません」
 答えながら、あまねはそっと指の間から律月の表情を探る。その顔がほっとしているようで、そろそろと手を降ろす。
あまね「律月、様?」
律月、膝を追って顔を腹の位置へ近づける。そっと腹に手を翳す。
律月「俺の子供がいるのか」「……よかった」
あまね「……喜んで、くださるのですか?」
律月「あたり前だろう」「どうか元気な子供を産んでくれ」「ただ、無理はしないでほしい」
 愛おしそうにあまねの腹を見る律月の姿に、あまねの瞳にじわりと涙が浮かぶ。
あまね「嬉しいです」「そんなに喜んでくださるとは、思っていませんでした」
律月「どうしてそう思うんだ?」心外そうな表情
あまね「私が律月様の妻に選ばれたのは、穢れ者が異能者の子を宿せるか試すためだと聞きました」
律月「誰がそんなことを!」
あまね「でも、上司の方にも私の行方を捜すよう頼まれたとか……」
律月「それは!」言葉を切る。(妖魔に会ったときの話をしないと、あまねの両親と約束をした)(あまねは当時を思い出すと、体調を崩す)(身重の妻に負担をかけるわけにはいかない)
 不安そうな表情で律月を見るあまね。
律月「幼いとき、俺たちは出会っている」「その時に見たあまねの笑顔が忘れられなくて」「ずっと探していたんだ」
 驚き、目を丸くするあまね。その後ろで、そっと部屋を出る水都と医者、幸。
あまね「私を、探していた?」
律月「そうだ。やっと見つけた」「穢れ者と虐げられるあまねを守りたかった」「それなのに俺は…‥あまねに酷いことを」(守ってやれなかった)(信じてやれなかった)
 ・回想であまねの死んだシーンを一コマ
あまね「……私は穢れ者です」
律月「そんなの関係ない。俺は……」
 律月、立ち上がってあまねの手を取る。
律月「俺たちは会話が足りていないようだ」「あまね、今更だが」「俺はあまねを妻に迎えれて嬉しく思っている」
あまね「……!」(穢れ者の私を、受け入れてくれる人がいるなんて)
律月「少しずつでいい」「俺と夫婦になっていってくれるか?」
あまね「……はい!」
 あまねの目から涙が零れる。律月がそれを指で拭う。幸せそうな二人の様子を、襖の陰からそっと見守っていた水都たちが微笑を交わし合う。