死に戻りの花嫁~私を刺した夫は、同じ手で私を抱きしめる~

第四話 律月の過去

こま割で律月があまねに会うまでを描く
【龍泉院家次期当主として育った】【俺にはふたつの異能がある】【時を操る異能】【圧倒的な力で妖魔を斬る異能】【後者は弟である凪次(なぎつぎ)も持つ】【俺が初めて妖魔に出会ったのは異能が現れる直前の十歳】
・回想シーン
お祭りの様子
【星祭は国を上げて行われる祭事】【あれは地元ではない神社に出かけたとき】【迷子の女の子と出会った】
 泣いている女の子に声をかける律月。ふたり手をつなぐ。
律月「お父様はすぐに見るかるさっ」
 あまね、ぐずぐずと泣きながら頷く。広い境内を歩くふたり。やがて間違って、神社の裏の林へ行ってしまう。
妖魔の声「ぐるぐるうううう」
律月「うわっ、どうしてこんな場所に妖魔が!」
 逃げるふたり。だけれどあまねが木の根っこに躓いて転んでしまう。ふたりに覆いかぶさろうとする妖魔は、口が耳まで避けて二本の舌をうごめかせる。
律月「立て、走るぞ」
あまね「無理ぃ。足が動かない」
 あまねの足のアップ。転んだときに捻ったせいで、赤く腫れている。
あまね「私はいいから逃げて」
律月「そんなことできない。俺は足が速いから、あいつの関心を引き付ける。その間に逃げるんだ」
 律月、手元にあった木の枝を妖魔に投げる。木の枝は妖魔の頬にパチリと当たる。妖魔はうっとうしそうに律月を見る。
律月「こっちだ!」
 走っていく律月。人の声のする明るいほうへと足を動かす。
律月(もう少しで、祭りの場所に戻る)(あれだけ人がいるんだから、強い異能者もいるはず)
 律月の足のアップ。真っ暗闇から明るい地面を踏もうとした途端、ぐらりと周りの景色が歪む。幻覚を見せられていた律月はさらに林の奥へ走っていて、あたりを木々が囲む。
律月「あっ、あっ」
 ぶるぶると震える。迫ってくる妖魔。追いつくと、律月を木の幹に押し付け、舌なめずりをする。涎の垂れれた口を近づけてくる。頭を三本の指でがしっと押さえられた律月は、ただ震えるだけ。
あまね「待って! その子を食べないで!」
 妖魔が声のする方に顔を向ける。仁王立ちで強く拳を握って、恐怖に耐えるあまねの姿。
あまね「私の異能をあげるから! 食べていいから! だからその子の命を救って」
 妖魔の手が、律月から離れる。妖魔があまねのもとへ近づき、顔をぐっと寄せてくる。あまねと妖魔の距離は十センチほど。鼻がつきそうな距離。
律月「逃げろ」
 あまねぎこちない仕草で律月の方を見る。そうしてにっと笑った。
あまね「大丈夫! 平気だよ」
律月、その笑顔に目を見張る。
妖魔「(うなり声)うぅぅぅ」
 あまねぎゅっと目を閉じる。叫ぶ律月。だけれど突風が吹き、身体を木に打ち付けられて気を失ってしまう。

〇場面転換
 場所:龍泉院家の一室
 目覚める律月。ほっとする両親。
律月「助けてもらったんだ!」「あの女の子を探して!」
【やがて女の子が杉里家の者だと分かった】【だけれどその時には、家族は帝都を離れていた】【「穢れ者」となった娘を周りの冷遇から守るため】【そのあとも探したが、女の子は見つからなかった】

〇場面転換
場所:軍の一室
上司「お前から頼まれていた娘が見つかった」
律月「本当ですか?」
上司「とはいっても、十年前に穢れ者になった女の子というだけで、本人かは分からない」
 上司が報告書を机に置く。報告書を手にする律月。
報告書を読みながら【五年前、一家は密かに帝都に戻っている】【街はずれで日雇いの仕事をして食いつないでいる】【穢れ者と分かると引越しをしていた】
律月「ありがとうございます」
 腰を折って礼をし、部屋を出る。意気揚々とした横顔。
律月(やっと見つけた)(命の恩人)(あの状況で笑った彼女の顔がずっと忘れられなかった)

〇場面転換
場所:あまねの家の前
 質素な服のあまねと軍服姿の律月が向かい合う様子。
律月「俺と結婚してほしい」
【突然現れた俺にあまねは驚いていた】【両親がでてきて、ひとまず彼等と話をすることになった】【そこで俺は、十年前に助けてもらったと話した】
両親「それであまねを妻にというのですか?」「申し訳ないのですが、あまねに当時の記憶はありません。そっとしておいてください」
 正座してちゃぶ台を挟んで向かい会う三人
律月「ですが、俺は彼女に恩があります」
【両親には恩を返すためだと言ったが】【本当は、俺を救おうとして見せた笑顔がずっと忘れられなかったからだ】【彼女に傍にいてほい】【俺なら幸せにできると思っていたーーとんだうぬぼれだ】
 とまどう両親の顔。頭を下げる律月。

〇場面転換
場所:龍泉院家の玄関
【両親の許可なく、俺は強引に結婚をすすめた】【だが、初夜を終えてすぐ、遠征に行くよう命令がおりた】
 結婚式三ヶ月後、実家に戻ってきた律月。駆け寄る佳穂理。
佳穂理「律月、お帰りなさい」
律月「あまねは?」
 佳穂理、困ったように眉を下げると、律月に近づき声を落として囁く。
佳穂理「それが、律月がいないのをいいことに、しょっちゅう外出をしているの」
律月「どこに行っているんだ?」
佳穂理「あまり言いたくないんだけれど、着物や宝飾品をたくさん買っているらしいわ」「紅葉が言っていたんだけれど、料理も口に合わないと何度も作り直させているようで」
 眉を顰める律月。
律月「そんなことをする女性に思えないんだが」
佳穂理「それだけじゃないわ」「外出先で男性と会っているそうよ」「何人も見かけた人がいるわ」「相手の男性はここにいいるわ」
 佳穂理が地図を手渡してくる。律月はそれを受け取る。
律月「とにかく彼女と話す」
 しかし夕食になってもあまねは帰ってこず、明け方になって裏木戸の開く音がした。
律月が廊下の音に耳を澄ます
律月(足音がしない?)(部屋は俺の隣のはず)
 布団から出て、隣の部屋にいく。そこにあまねの姿はない。皆が起きる時間になって、律月が紅葉を呼び止める。
律月「あまねはどこで寝ているんだ」
紅葉「それが……」「外出に便利だからと裏口近くの部屋に勝手に移られて」
 困ったように頬に手を当てる。
律月「昨晩、帰りが遅かったようだが、いつもそうなのか」
紅葉「はい。ご当主様には言いにくいのですが、どうも外に気になる方がおられるようで」
律月「分かった」
 立ち去る紅葉。自分の部屋に戻り、佳穂理から渡された紙を取り出す。
律月「もしかして俺は、間違ったのか」(どうして彼女に想い人がいる可能性を考えなかったんだ)(いや、でもたとえそうだとしても、あまねに傍で笑っていて欲しい)(身を引いたほうがいいのだろうか)(あまねには幸せになってもらいたい)
 律月、地図を頼りに街を歩き、長屋が立ち並ぶ一角まで来る。まわりを見渡し「診療所」の看板を見つける
 そっと診療所の中を覗くと、あやめと男装姿の水都が肩を寄せ話し込んでいた。あやめは落ち込み泣いているように見える。あやめの肩を抱く水都。
水都「大丈夫か?」
あやめ「うん。仕方ないことだと思っているんだけれど、涙が止まらなくて」「それに不安になっちゃった」
 あやめ、お腹をさする。水都が膝を床に着け、お腹に顔を近づける。
水都「大丈夫、あやめの子供は元気に生まれてくるよ」
あやめ「そうかな。そう願ってくれる?」
水都「当たり前だ」「あやめの子供は私の子供だと言っただろう?」「きっとあやめのように優しい子供だ」
 少し開けた扉からそれを聞く律月の姿。律月、ぐっと下を向く。無言でその場を立ち去る(律月は水都を男性だと勘違いしている)

〇場面転換
【そのあと、俺はずっとあやめを避けていた】【守るつもりが、俺は彼女から幸せを奪った】【離縁も考えたが、身重のあやめを龍泉院家から追い出すわけにはいかない】 

場所:龍泉院家の律月の部屋
凪次「兄さん、父上からの手紙を届けにきたんだけれど、随分顔色が悪いね」
 自室で考え込んでいた律月を、弟の凪次が訪ねてくる。
律月「大丈夫だ。朱雀区は問題ないか」
凪次「まったく。父上もいるし、俺も手伝っているからね」
・状況説明
【彩華国は帝都と四つの区に分かれていて、区はそれぞれ四院によって守られている】【朱雀区は帝都の南側を治めている】【帝都の守りは、四院から選ばれた者が行い、彼等は軍に配属されている】
凪次「突然結婚したから驚いていたよ」
律月「そのうち挨拶にいく」「結婚してすぐに白虎区から応援依頼が来て、忙しかったんだ」
 ずかずかと部屋に入ってくる凪次。律月は文机の前に座っている。その斜め後ろぐらいに腰を下ろす凪次。
凪次「最近、妖魔が突発的に大量発生する事件が増えているね」「軍は何か掴んでいる?」
律月「軍に保管されていた魔術書が盗まれた。それを使って意図的に妖魔を大量発生させている奴がいるようだ」
凪次「本当に! それ、かなり重大事件じゃないか」「俺は聞いていないぞ」
律月「まだ、その可能性がある、という段階だからな」「証拠が揃ったら四院に連絡がいくはすだ」
 律月、文机に肩ひじをつき、身体を斜めにして凪次と向かい合っている。凪次、妖魔大量発生に驚いたように眉を上げる。だけれどすぐに無邪気そうな表情に戻って、首を伸ばして窓の外を見ようとする。
凪次「そうか。ま、こっちのことは大丈夫だから」「それよりあまねさんは? 庭?」
律月「出かけている。街の診療所に出入りしている」
凪次「奉仕活動か! できた人だね」「でも、急に穢れ者と結婚したから、父上は怒り心頭だよ」
律月「分かっている」
 話を終わらせるかのように、律月は文机に向かう。その様子に目を細める凪次。
凪次「ふーん。ま、いいけれど。そういえば佳穂理は頻繁にここへ来るの?」
律月「さぁ、昨日遠征から帰ってきたばかりいだからな」「今日は来ていないようだが、用事かあるなら隣の家だし行ってくればいいだろう」
凪次「そうだね」「ちょっと行ってくる」
 すなおに立ちあがって部屋をでる凪次。でも部屋を出る前に振り返って律月を見る。
 忌々しそうな凪次の顔のアップ。

〇場面転換
 場所:周りを木々に囲まれている。足元は雪。
 妖魔の大群に囲まれるあまね。助けに行く律月。
 時を止め、妖魔をどんどん切り裂き、あまねに駆け寄る。
律月「あまね! 大丈夫か」
 あまねのお腹は臨月で大きい。雪が降っている。深雪の上に座り込むあまねを抱き寄せる律月。
律月「妖魔の大量発生は聞いただろう」「どうして逃げなかった」
あまね「こっちに逃げるよう、言われたんです」
律月「誰に?」
 あまねが答えようとするが、一斉に妖魔が襲ってきて律月はそれどころではない。どんどん増える妖魔に、律月の左手が痺れてくる。
律月(これ以上、時を止められない)
あまね「きゃぁ」
 振り返った先で、あまねが妖魔に襲われようとしていた。妖魔を叩ききるが、別の妖魔の腕が伸びてきて律月の腹を貫く。
 崩れ落ちる律月。
律月(俺が倒れたら、あまねを守れない)(たとえ俺の子供でなかったとしても)(あまねの幸せになるなら、俺の命などくれてやる)
 次々と襲ってくる妖魔。あまねの身体からも血が流れる。あまねはお腹を守るように身を丸くする。その背を庇う律月。
律月(もうだめだ)左手に目を向ける。(異能についてまとめた書に記されていたことをためすか?)(だが、成功した例はない)
 律月、あまねの身体を起こすと、剣を握る左手に力をこめる。激しい力が剣を中心に渦巻く。その剣をあまねの胸に突き刺した。
あまね「ぐはっ」
 あまねの口から血が吐き出され、藍色の着物を赤黒く染めていく。胸を貫く激痛に、呼吸すらままならない様子。
律月「あまね……」
 律月が泣きそうな顔で弱々しく名を呼ぶ。
あまね「……りつ、き……さま。私を信じて……欲しかった。お腹の子は……きっとあなたに似て……ぐっ」
 震える手を伸ばし、あまねが律月の髪に触れる。
律月「あまね、時を戻す。今度こそ、幸せになれ」
 あまねの目が閉じる。律月は剣をあまねから抜き、自分の胸に刺す。その途端、左腕で異能が破裂し、当たりに閃光が走る。
律月「もう、左手は使えないかもしれない」
【時は戻った。しかし、祝言はもう終えらえていた】【俺はまた、あまねとあまねの想い人の間を割いてしまった】