死に戻りの花嫁~私を刺した夫は、同じ手で私を抱きしめる~

第三話 星祭

 場所:あまねの部屋。二話の続き
律月「子供が欲しいのか?」
あまね「そ、そういうわけでは。こ、これは、診療所で生まれた赤ちゃんに贈るものです!」「幸さんは産婆さんなので、そのお手伝いで」
律月「……そうか」
 あまねに縫い物を返す。立ちあがった律月に慌てるようにあまねも立つ。
 律月の背中を追って玄関に向かうと、ちょうど佳穂理が訪ねてきた。
佳穂理「律月、ちょうど良かった。西瓜をもらったからお裾分けに来たの。一緒に食べましょう!」「あら、あまねさんもいたの」
 にこりと微笑む。佳穂理、律月の袖をひっぱり身体を近づける。
佳穂理「律月、昔から西瓜が好きだったものね。どれだけ食べられるか競争したのを覚えている?」
律月「あぁ。だが、悪いけれど出かけるところだ。西瓜は紅葉に渡してくれ」
佳穂理「えっ? 私が来たのに?」
 目を丸くする佳穂理の横をすり抜けるようにして、律月が玄関を出る。そのまま門の横にある車庫へ行く。
あまね「車……」
律月「乗るのは初めてか?」
あまね「は、はい」(佳穂理さんは何度も律月様の運転で乗ったと言っていたけれど)
 助手席の扉を開ける律月。おずおずと助手席に乗るあまね。扉を閉め、律月が運転席に座る。

〇場面転換
 場所:呉服店。たくさんの着物が並んでいる。
 あまね、初めての場所に落ち着かずまわりをきょろきょろ見渡す。
律月「どうした?」
あまね「こういう場所は初めてで……それで、どなたの着物を仕立てるのですか?」
 目の前にあるのは女性ものの反物。律月が眉間を揉み、ため息を吐く。
律月「お前の着物だ」「あのあと調べて、女中の数人がお前を虐めていたと知った」「彼女達の雇い主は俺だ」「駄目になった着物の代わりを選べ」
あまね「えっ? 調べた、のですか?」
律月「そうだ。俺のいない間に酷い目に遭っていたようだな」「これは詫びの意味もある」「虐めた女中は首にした」
 ひゅっと息を呑むあまね。
あまね(どうして? 前回は無関心だたのに)(そもそも私の言葉を信じていなかった)
 奥から着物姿の男性が現れる。気軽な様子で「よっ」と手を上げる。
隼人「そちらが奥方か。頼まれたとおりに、若い女性に人気の柄を用意したぞ」
あまね「あ、あの……」
律月「突然現れるな。こいつは隼人。軍に勤めている知り合いだ」
隼人「またまた、親友だろう。幼馴染だろう。俺がいなかったら、不愛想なお前はひとりぼっちだぞ。寂しいぞ」
律月「寂しくない」
 しれっとそっぽを向く律月。隼人が強引に肩を組む。
あまね「初めまして。……龍泉院あやめと申します」(初めて龍泉院と名乗ったけれど、これでいいよね)
 あまね、律月の表情を窺う。律月、気にする様子はなく、隼人に着物はどこかと聞く。
隼人「こっちだ。ここは俺の実家だから、気になったものがあれば何でも言ってくれ」
 ずらりと並ぶ反物。呆気にとられるあまね。次々と反物を進めてくる隼人の母。それに合わせるかのように、幾つも注文する律月。
あまね「あ、あの」耐えかねたように
律月「どうした?」手には反物。その隣では上顧客ににこにこ顔の隼人の母。
あまね「そ、そんなにたくさん必要ありません!」
 机に山積みにされた反物を指差す。ぶるぶると頭を振るあまね。
律月「だが、あまねは着物や宝飾品を好むと聞いたが」
あまね「どなたがそのようなことを!」「こんな立派な着物、身に着けたことがございません。宝飾品なんて、恐れ多い」「汚してはいけないと、終始緊張してしまいます」
律月「……着物や宝飾品は好きではないのか?」困惑顔。
あまね「着物は数枚あれば問題ございません。宝飾品なんて、私にはもったいないです」(だって私は『穢れ者』だから)
隼人母「あまねさん」
あまね「はい」
隼人母「贅沢を好まないその姿勢は素晴らしいわ」「でもあなたは龍泉院律月様の妻なのだから、夫に恥をかかせない装いをしませんと」
あまね「あっ……」
 その考えに至っていなかったあまねが口を押える。律月を見て、深く頭を下げる。
あまね「申し訳ございません。私の考えが足りておりませんでした」
律月「いや、無理を強いるつもりはない。だが、着物数枚では困るだろう」
あまね「そう、ですが」
 戸惑うふたりに隼人が反物を見せる。陽気な雰囲気で話す。
隼人「だったら普段着数枚と、余所行きを二枚ほど仕立てたらどうだ? それならあまねさんも困らないだろう。ねっ?」
あまね「は、はい」
 じゃ、これなんてどうだと、隼人がまた反物を沢山もってくる。そうして十着を仕立てると決める。お会計の最中、あまねは疲れてぼんやりとしていた。
あまね(いったいどうなっているの?)(前回と律月様が違いすぎる)(淡々としてはいるけれど、どうして私を気に掛けるの?)
 あまねの目に仕立て終わった浴衣が目に入る。水色に淡い紫色とピンクの朝顔柄。
 スッと立って、浴衣の前に立つ。
あまね(私が穢れ者になる前は、浴衣を着て家族で夏祭りにデ書けたっけ)
・回想
【どうして穢れ者になったか覚えていない】【妖魔に出会ったあと、気が付いたら布団で寝ていた】【お母様とお父様が泣いていた】【もとは旧家のひとつだったけれど、私のせいで落ちぶれて】【でも、誰も私を責めなかった】
 こま割で妖魔にであった様子、布団で目覚める女児、両親の様子。周りから迫害される状況
・回想終了
律月「それが気になるのか?」
あまね「あっ、申し訳ありません。幼い時にお気に入りだった浴衣と似ていて」(そういえば、朝顔柄の浴衣を着て、夏祭りに行っったんだ)(そして、妖魔に会った)
律月「ではそれも買おう。どうせなら着てはどうだ?」
あまね「えっ?」
隼人母「それがいいです! 今日は星祭ですから、一緒に出掛けられるのでしょう?」
律月「ああ」
あまね「ええっっ??」
 背を押され、着替えにいくあまね。隼人が律月に寄ってくる。
隼人「彼女が、隊長に頼んでまでお前が探していた女性か」
律月「そのことは……」
隼人「安心しろ。黙っておく」「理由は知らないが、お前にとって大事な女性なんだろう?」
律月「ああ、それなのに俺は、彼女を信じられなかった」
 険しい顔をする律月。そんな律月を心配そうに隼人が窺う。
隼人「それで、左手の調子はどうなんだ? 二刀流のお前が右手しか使わないと噂になっているぞ」
 律月、自分の左手に触れる。
隼人「時を止める異能の左手と、妖魔を瞬殺するほどの力を持つ右手。お前がいれば、大量に妖魔が襲ってきても、対応できる」
律月「そう、だな」(だが、この左腕はもう…)

〇場面転換
 場所:近くの神社。星祭が開かれている。
 屋台を回るふたり。
あまね「うわっ、たくさんのお店が出ています」
律月「このあたりで一番大きな神社だからな」
あまね「金魚すくいや、的当てまであるんですね」言いながら、あまねのお腹がぐうとなる。
律月「くつくつ」笑いを堪えきれない声。
あまね「ち、違うんです! これはそうではなくて」
律月「分かった、分かった。適当に何か食おう」
あまね「ですからっ」
 真っ赤な顔で否定するあまね。目を細めて自分を見つめてくる律月に、あまねがどきりとする。
あまね(あんな顔、初めて見る)(まるで愛しい人に向けるような瞳)
 はっと気づき、そんなはずないと頭を振る。
律月「どうした?」
あまね「いえ、なんでもありません」
 祭りを楽しむ二人の様子をコマ割で。りんご飴を食べたり、的当てをする様子。綿菓子に喜ぶあまね。

〇場面転換
 場所:神社の裏。
 人混みから離れた場所で、石段にあまねが腰掛け、その足元に律月がしゃがむ。あまねの下駄の紐を調整している。
あまね「申し訳ありません」
律月「いや、痛そうにしているのに気づけなかった。慣れない下駄なのだから当たり前だ」
 鼻緒を調整した下駄を、あまねの足へ近づける。
あまね「ありがとうございます」「……えっ? あの!」
 律月が流れるような手つきであまねの足を取り、下駄をはかせる。その手元と旋毛をみながらじわじわと顔を赤くさせるあまね。
あまね(あの大きな手が、私に触れた)
 初夜の様子を一コマ入れる。
あまね(前回は私に無関心だったのに)(私の言葉に耳を貸さなかったのに)(どうして逃げようとしている今になって)ぎゅっと拳を握り、それをお腹に当てる。(律月様と一緒にいると、この子も殺されるというのに)
律月「どうした?」下からあまねを覗き込む。
あまね「なんでもありません」
 律月、隣に座り直すと、内ポケットからハンカチに包まれた簪を出す。あまね、それが何か分からず、じっと見る。律月、ハンカチを解く。
あまね「それは……」
律月「さっきの店で買った。貰ってほしい」
あまね「私にですか?」(前回の人生で、簪をもらったのは佳穂理さんだった)
 おずおずと受け取る。困った顔のあまね。
律月「迷惑だろうか」つらそうな表情
あまね「ち、違います。嬉しいです」「でも、どうし私に?」「佳穂理さんに渡さなくてもいいのですか?」(律月様は佳穂理さんを好きだったはずなのに)
律月「どうしてそこで佳穂理が出て来る?」
 怪訝な表情の律月。あまねは誤魔化すように首を振る。
あまね「大事にします」(妻だからくれただけかもしれないけれど)(嬉しい)
 それを丁寧な仕草で胸元に仕舞う。律月、残念そうに胸元を見たあと、あまねの髪を見る。
律月(つけてはくれないのか)
あまね「どうしましたか?」
律月「いや、ところで祭りにはあまり来ないのか?」
あまね「はい。お祭りに来たのは初めてで」「あっ、本当は来たことがあるんですが、覚えていなくて」
 膝の上にあるあまねの手に、律月が手を添える。びくっとなるあまね。
律月「それは、妖魔に異能を奪われたときか?」
あまね「……はい」
 回想として、妖魔に襲われるあまねの姿を一コマ。
あまね「私は『穢れ者』です」「当時の記憶はほとんどありません」「星祭で迷子になった私を」「両親が神社の裏の林で見つけたそうです」「目が覚めたとき、異能はなくなっていました」
 ぞわっと身体が震え、吐き気と頭痛がして、身を屈めるあまね。ぶるぶると震える。
律月「大丈夫か?」
あまね「申し訳ありません」「当時のことを思い出そうとすると、頭が割れそうに痛くなって」「震えが止まらないんです」
 律月がそっとあまねの背を撫でる。されるがままになっているあまねの頭上で、花火の破裂音がする。あまねが耳を塞いだ。
あまね「嫌!」(花火の音が記憶を呼び戻そうとする)
 どんどん顔色を悪くするあまね。そんなあまねの手に律月の手が重なる。
律月「大丈夫だ」
 ふるえるあまね。律月に抱きしめられるような体勢になる。
律月「今度は、俺が守るから」「あのとき、幼い俺を守ってくれたように」