死に戻りの花嫁~私を刺した夫は、同じ手で私を抱きしめる~

第一話 回帰したヒロイン

〇プロローグ 

【夫の手にした剣が、私の胸を貫く。死の間際、私が見たのは彼の泣きそうな瞳だった】

場所:周りを木々に囲まれている。足元は雪。
 妖魔の大群に囲まれる主人公・あまね。地面に膝を着く二人。女性の胸には、男性・律月が持つ剣が刺さっている。見つめ合うふたり。※(あまね:外套を羽織った姿。腰までの黒髪、大きな瞳、小柄な身体に膨らんだ腹だけが目立つ)
あまね「ぐはっ」
 あまねの口から血が吐き出され、藍色の着物を赤黒く染めていく。胸を貫く激痛に、呼吸すらままならない様子。
律月「あまね……」
 律月が泣きそうな顔で弱々しく名を呼ぶ。※(律月:軍服姿。少し耳に掛かる黒髪、切れ長の瞳の美丈夫、長身、鍛えられた痩躯)
血が胸元から腹へと流れていく。腹は臨月で膨らんでいる。足元は新雪。
あまね(――龍泉院律月。この子の父親の名前。それすら知らずに、お腹の赤子は死のうとしている)
あまね「……りつ、き……さま。私を信じて……欲しかった。お腹の子は……きっとあなたに似て……ぐっ」
 震える手を伸ばし、あまねが律月の髪に触れる。
 律月の口が動く。だけれど、その声はもうあまねに届かず、あまねの目は閉じようとしている。
 あまねの胸から剣が抜かれる。瞼が閉じられ、真っ暗になるコマ。

〇場面転換
場所:二人だけの結婚式を終えた夜。布団を二組並べた和室でひとり座るヒロイン・杉里あまね。
 はっと目覚め、自分が回帰したことを知る。
あまね「私、殺されたはずなのに」
 動揺する顔で、胸や腹を触るあまね。服装は初夜に着る真っ白な着物(寝間着)。胸元のアップ(血がでていない)平らな腹に手を当てる。
あまね「時が戻っている?」(これは、私が龍泉院律月様に嫁いできた日の夜)
 廊下を歩く足音。扉が開けられ律月が入ってくる。動揺して動けないあまねを、冷たい目で見おろす。
律月「今夜、初夜を行うつもりはない」
 驚き、目を丸くするあやめ。自分の腹を押さえる。
あやめ(初夜を行わなければ、子供は授からない)(時が戻った理由は分からないけれど、今度こそ子供を抱きしめたい)
 背を向ける律月。立ち膝の姿勢で手を伸ばし、律月の袖を掴むあまね。
律月「なんだ」振り返らずに律月が聞く。
あまね「今夜一緒にいてください」震える指先。(私を殺した人)(怖いけれど、あの子を産んであげたい)
 ゆっくりと振り返る律月
律月「そんな青い顔をしているのにか」
あまね「私は大丈夫です」「妻にしてくださらないなら、私はここにいる意味がありません」
 凛とした顔で、律月を見上げる。律月、困惑した表情。膝を折ってあまねの前に座る。
律月「無理をする必要はない」
あまね「無理などしていません」
 律月の着物をさらに強く握るあまね。律月、部屋の隅にある行燈に目をやると、立ち上がりそこへ向かう。行燈の火を消す。
あまね「どうして?」
律月「俺の顔が見えないほうが、いいだろう?」
 困惑するあまね。律月が戻ってきてあまねの肩に手を置く。そのまま押し倒す。天井を背にしてあまねを見下ろす律月。
律月「今なら、止められる」
あまね「……」
 無言で帯を解く。ぎゅっと目を閉じる。覆いかぶさる律月。

〇前回の人生とこの世界の説明
【この国の名前は「彩華国」】 【「異能者」「只人」「穢れ者」が住んでいる】【「穢れ者」とは、妖魔に出くわした「異能者」が、命の代わりに自身の異能を捧げた者】
 地図を背景に三人の人間のシルエット。
【異能を喰った妖魔の力は何十倍にもなる】。【「異能者」にとって「穢れ者」は「裏切者」】【冷遇されている「只人」は普段の鬱憤を「穢れ者」で晴らす】【穢れ者にはその印が、身体の一部に浮き出る】
 しゃがむ人間のシルエットを、二人の人間のシルエットが蹴ったり罵倒したりする様子。
【通常、異能は十歳で開花する】【あまねは五歳でその才能を開花させた】【しかしある日「穢れ者」となり、杉里家全員が冷遇されるようになる】。
【あまねが十八歳になったとき、突然、律月に縁談を申し込まれる】【龍泉院家は彩華国をまとめる四院のひとつであり最大の家】【理由は不明】
 白無垢と軍服姿のあやめと律月。三々九度を飲み干すような描写。
【式はふたりで行った】【初夜の翌日から三ヶ月、律月は妖魔退治の遠征に出掛けた】【留守の間、使用人達は執拗に「穢れ者」のあまねを虐める】
 腐った食事を出す、雨の中外に放り出す、火傷を負わせる、おつかいと称して重たい荷物を街へ取りにいかせる。コマ割りで描写。
【律月が帰宅後妊娠が分かるが、あまねの冷遇は続く】女中たちのシルエット、その中心に首謀者である律月の幼馴染の姿(彼女だけ振袖)。冷たい横顔の律月
【そして私は殺された】
 血を吐くあまねの姿。お腹を抱え、地面に倒れていく
あまね(記憶があやふやなところがあるけれど、律月様が私を挿したのは間違いない)

〇場面転換
 場所:昨晩と同じ寝室。障子から朝日が差し込む中、あまねは上半身を起こして、隣の布団を見る。律月はいない。
 あまね、時が戻る前を思い出す。
あまね(律月様が妖魔退治の遠征から戻ってくるのが三ヶ月後)(それよりも前――来月、幼馴染の水都が異国から帰ってきて、街で偶然再会する)(前回の人生でも、水都とは頻繁に会っていた)(水都は、穢れ者の私にも分け隔てなく接してくれた、唯一の友達)
 女中・紅葉登場
紅葉「あら、腐臭がすると思ったら、穢れ者がまだいたの」
 持っていた食事を畳の上にひっくり返す。
あまね(前回と同じだ)無表情で紅葉を見上げる。
紅葉「犬以下の穢れ者に、箸は不要でしょう」
 紅葉、あまねの髪を掴みあげ、首の後ろを見る。そこには穢れ者のしるしであるどす黒い紋様が現れている。
あまね「やめてください!」
紅葉「本当に痣があるんだ。気持ち悪い!」あまねを突き飛ばす「よくそんな身体で生きていられるね」「私だったら、人前に立てないわ」
 捨て台詞を吐いて立ち去る紅葉、その後ろで様子を見ていた女中達もくすくすと笑う。
 あまね、残飯をじっと見ると、手でつかんで口に入れる。
あまね「子供のためにも食べなくては」(絶対に、この子を守る)
 その姿を、異様なものでも眺めるように女中たちが遠巻きにしている。

〇場面転換
 場所:龍泉院家の縁側
 雨の中、縁側から庭に突き落とされるあまね。時刻は夜。
紅葉「あはは、どぶ犬みたい! 今夜はそうしているといいわ」
 どろどろの状態で縁側を見上げるあまね。縁側では女中達が五人程いて笑っている。
女中「穢れ者のくせに、龍泉院の妻になれると思っているの」「どうやって律月様を篭絡したのか」「そんなの、身体を使ってに決まっているでしょう」
 雨戸を閉めようとする紅葉。あまね、走って紅葉の手を止める。そのまま濡れた足で縁側に上がる。
あまね(前回は一晩中木の下で雨宿りをしていた)(子供がお腹にいると知っている今、そんなことできない)(私は強くなるんだ)
紅葉「ちょっと、何やっているのよ! 廊下が泥だらけじゃない」
 立ち去ろうとするあまねの腕を、紅葉が掴む。
あまね「あとで掃除をします」
 そのまま歩いて行こうとするあまね。紅葉がその前に回り込み、あまねの頬を打つ。
紅葉「ふざけるんじゃないわよ! 誰が家に上がっていいって言ったの?」
あまね、お腹を守るように両手で庇う。
 廊下の奥から佳穂理が現れる。艶やかな黒髪、鮮やかな着物を来た異能者。律月の幼馴染。
佳穂理「何をやっているの。あら、あまねさん、びしょ濡れじゃない!」
 駆け寄り、心配そうにする佳穂理。
あまね(前回も佳穂理さんは優しかった)
 ほっと息を抜くあまね。
佳穂理「あなた、あまねさんよね。とにかく部屋に戻りましょう! 紅葉、廊下を綺麗にしておくのよ」
戸惑う女中達を無視して、佳穂理は立ち去る。少し離れた場所で立ち止まり、あまねが振り返る。
佳穂理「どうしてこんなことになっているの?」
あまね(前回と同じセリフだ)ほっとして硬かった表情を解く。
あまね「大丈夫です。ちょっとした行き違いですから」
佳穂理「そうは見えなかったけれど。私は神塚佳穂理、律月の幼馴染なの。ねぇ、良かったら私と友達にならない?」
あまね「友達?」
佳穂理「ええ。律月のお嫁さんと友達になりたいと思っていたの」「私、律月のことならなんでも知っているから、聞いてね」
 無邪気に、にこりと微笑む佳穂理。あまね、ざらりとした違和感を感じ、胸に手を当てる。
あまね(前回の人生では気づかなかったけれど)(妻に向かって『なんでも知っているから』なんて言うかしら)(でも、悪意はないわよね)
 とまどうあまねの髪を、手ぬぐいで拭く佳穂理。
あまね「ありがとうございます」
佳穂理「いいのいいの、これぐらい」明るい口調。
あまね、手ぬぐいで顔が見えない。佳穂理が意地悪く笑う。

〇場面転換
 回想で熱いお茶をかけられ火傷をしたり、靴を隠されたリ、着物を破られる描写をコマ割りで。
 一ヶ月後、こっそりと荷物をまとめるあまね。
あまね(今日、水都が異国から帰ってくる)(水都は診療所に寝泊まりしていた)(私もそこで一緒に暮らせないかお願いしよう)
 お腹に手を当て、「大丈夫よ!」と語りかける。
 こっそり裏口から出て、街へ向かうあまね。
あまね(確かこのあたり)
 長屋が並ぶ一角できょろきょろする。「診療所」の看板がかかった民家を見つける。平屋でそれほど大きくない。
あまね(前回会ったのは、結婚式から二ヶ月後)(大量の書物を書店に買いに行ったとき)(師匠がしている診療所で暮らしていると言っていた)(あのとき、帰国して一ヶ月だと言っていたから、今はここにいるはず)
 緊張した顔で、「すみません」と声をかけながら診療所の扉を開ける。
あまね「あの、ここに小日向水都はいるでしょうか」
医者「うん? 誰だね、君は」 医者の年齢は五十歳ぐらい
 あまねが事情を説明しようとすると、奥から水都が現れる。※(水都の容姿:短髪で男性の洋装姿。長身)
あまね「水都!」
水都「えっ? あまね? どうしてここにいるの? っていうか、私が水都だって分かるの?」
 土間に駆け寄る水都。
あまね「もちろん。すごく似合っているよ!」満面の笑み
水都「ありがとう」「私、隣国で薬学を学んでいたんだ」「でもこの国で、女性が医術をするのはご法度だろう?」「だから、こんな格好をしているんだ」
 うんうん、と頷くあまね。ふたりで話している後ろから医者が声をかける。
医者「手紙に書いてあったが、これまた潔く切ったな」
 髪をぐしゃぐしゃと撫でる。
水都「うわっ、ぐちゃぐちゃになるだろう!」
医者「その口調だし、男にしか見えん」「昨日から近所の娘が騒いでいたぞ」
水都「ま、そうだろな」
 きらんと笑う。その顔にくすくす笑うあまね。水都、肩を竦める。
水都「ほら、私は背が高いし、女性にしては声が低いでしょう。だから、違和感ないかなと思って」
あまね「素敵だね」「知り合いから、水都が以前この診療所で働いているって聞いたの」
水都「うん、一年前まで働いていた」「で、異国に行って昨日、帰ってきたばかりだ」
あまね「水都はこの診療所で暮らすの」
水都「そうだけれど?」
あまね「あのっ、私もここで働けないかな?」(律月様から逃げる場所を作らないと)胸の前でぎゅっと拳を握る。
 困惑する水都と医者。あまね、医者に頭を下げる。
あまね「なんでもします! ですから、私をここで使ってください」
 背後の扉がいきなり開く。全員の視線がそっちへ向かう。
律月「あまね、こんなところにいたのか」
あまね(!)
戸口に軍服姿の律月が立っている。あまね驚愕の表情のまま顔色を青くしていく。
あまね(帰国するのは二ヶ月後のはずなのに……)
 呆然と律月を見上げるあまね。律月、あまねと水都の間に割って入る。