「……っ!」
ハッと目を開いて、千里は飛び起きる。
心臓がばくばくと音を立てて、指先はぶるぶると震えていた。
「なに、今の……」
凄まじい夢を見た。佐倉京矢との結婚生活の末に、自分が刺されて死ぬ夢だ。
悪夢にしてはやけに長く、千里は思わず自分の脇腹を触って、出血していないかを確認してしまう。
「そんなはずない……ただの、悪い夢よ」
やけに現実味のある、気味の悪い夢だった。
出会ってから結婚するまでのくだりは、千里が以前見た未来と同じだったが、その時はこんな結末ではなかった。
ただ、一言、千里は幸せに暮らしたと――――――。
千里は立ち上がると、机の引き出しに飛びつく。
中にしまっていた未来予知の本を手にして、勢いよくページをめくった。
ほら、ここには同じように書かれている。
千里は幸せに暮らし――――二十一歳でその生涯を終える。
「はぁっ!?」
千里は思わず叫んだ。昨日までこんな記述はなかった。
遡れば、夢で見たことと同じ内容が追記されている。
まるで、隠されていた行間が埋められて物語が補完されたような、完璧な追記だ。
千里は恋愛結婚で幸せになったのではない。
佐倉京矢の何らかの目論見によって利用され、早々に死を迎えた。
ただ、利用されたとしても当時の暮らしが未来の千里にとってなんの不満もなく幸せだったと言うだけだ。
「何よこれ、こんなの、おかしいじゃない!」
現時点の千里からしたら、そんな未来はとても幸せとは思えない。
佐倉京矢は完璧な存在だと思ったからこそ、自分と有紗の未来を取り替えるつもりだったのに、これではどちらにせよ有紗は不幸になってしまう。
「あんな人間だったなんて知らなかった。こんな男、絶対に姉さんに会わせられない!」
佐倉京矢が千里の何をどう利用しようとしたのかは分からないが、彼に関わるべきではないということだけは千里の中で決定事項になった。
今朝の夢は、新たな未来予知というよりも、未来の内容をより詳細に深堀したと言える。
自身の死の理由も分からないとなるとわまだ千里の見た未来は今回で全てではないのだろう。
昨日佐倉京矢の話を聞いて早々にこんなことになるとは思わなかった。
千里は盛大にため息をついてから、本を閉じて引き出しの中に戻そうとする。
その拍子に、中に挟んでいた紙がぺらりと落ちた。
「これ……」
九朗から貰った、セイレーンの館の住所だ。
未来予知について知らないことが多すぎる。
このまま不確定な未来ばかり信じて、姉を不幸に陥れるわけにはいかない。
しばらくの間迷ってから、千里は身支度を整え始める。
今日は土曜日。授業終わりに午後から出かけるにはちょうどいい。
夢の中で味わった嫌な感覚をかき消すように、千里は腹をさすりながら着替えを終えた。



