○デートの翌朝、ほのりの部屋
布団の中で目を覚ましたほのりは、目の前の光景に驚き、飛び上がる。
すぐ隣で子猫がスヤスヤと寝ている。
ほのり(…えっ、猫!?)
○リビング
眠っている子猫をそっと抱っこした状態のほのり
ほのり「おはようございます」
戌井「ほのり様、おはようございます…!?」
驚く戌井の視線、子猫に向ける
ほのり「あの、朝起きたらこの子が隣で寝てて…。何か知ってますか?」
戌井「……その子猫は、亜仙様が飼われているペットでして、神出鬼没に現れるんです…はい」
ほのり「そうだったんですね。名前は何で言うんですか?」
戌井「あー…、その子は…“あーくん”といいます」
ほのり「あ、男の子なんですね」
戌井「はい。あーくんは私が対応いたしますので、ほのり様は朝食が出来上がるまで、お席でお待ちください」
ほのりの腕から子猫を受け取った戌井。いつも以上に過敏な動きでリビングを出て行く。
茶子「おはようございます!ほのり様」
別の場所から茶子が戻ってくる。
ほのり「茶子さん、おはようございます」
茶子「あれ、兄は…?」
ほのり「あ、戌井さんならあーくんを連れてどこかへ」
茶子「あーくん?」
ほのり「え、ここで飼ってる子猫のあーくんって。今朝、起きたら私のベッドで一緒に寝てたんです」
何か理解した様子の茶子
茶子「…あぁ、なるほど!ふふっ、甘えん坊のご主人様ですね」
ほのり「…?」
○旅館、飛翔亭
ほのりが働くことになった旅館『飛翔亭』では、朝礼が行われていた。
女将からひと通り業務連絡が終わり、亜仙とほのりが前に立つ。
亜仙「皆さん、おはようございます!」
従業員たち「おはようございます」笑顔
亜仙「昨日伝達した通り、今日から俺の婚約者のほのりにここで働いてもらうことになりました」
ほのり「柏木 ほのりです。ご迷惑をお掛けすると思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
亜仙「ほのりの教育係は、越智さんにお願いします。じゃあ、みんな今日も一日よろしくお願いします!」
越智「越智と申します。分からないこと、不安なことがあれば、何でも言ってくださいね」
仲居の越智がほのりに優しく声をかける。
ほのり「ありがとうございます」
越智「では、着付けの仕方からお伝えしますので、こちらへ」
ほのり「はい」
越智の後ろをついて行くほのりは亜仙に腕を掴まれる。
ほのり(…ん?)
振り返ったほのりのおでこにキスをする亜仙。
耳元で優しく囁く
亜仙「あんま無理せんでな」
頬を染めるほのりの頭を撫でる亜仙。
亜仙「あ、迎えは茶子が来るから。じゃ、俺も頑張ってくる」笑顔
立ち去る。
着付けが終わり、着物姿になったほのりは館内の移動中、越智に尋ねる。
ほのり「あの、亜仙さんは朝礼によく参加されるんですか?」
越智「いえ、お忙しい方なので、月に一度ぐらいですかね。ただ、今月と来月は泊まりの出張を減らしたとおっしゃっていたので、顔を見せることは増えるかもしれません。ほのりさんの様子も気になるでしょうし。…従業員のみんな、亜仙様に会える日が増えるのが嬉しいみたいで、いつも以上にやる気満々です」
ほのり「慕われてるんですね、亜仙さん」
越智「ええ。お若いのにしっかりされてて、人望も厚いですよ」
ほのり(当たり前だけど、私よりここにいる人達の方が亜仙さんのことをよく知っている)
越智「ここの温泉街は数年前まで観光客も少なくて、町全体の活気がなかったんです。でも、亜仙様が本格的に経営や運営方針に関わるようになられて、どんどん状況が良い方向へ変わっていったんですよ。それに、利便性が良く賑わっている都市の方ではなく、まだまだ不便な田舎のこの町に暮らすことを選んでくれた。だから、町で暮らす人々も、温泉街で働く人達も、亜仙様には本当に感謝してるんです」
ほのり「そうだったんですね」
越智「そんな亜仙様の選んだ人なので、みんなほのりさんにお会いするのを楽しみにしてたんですよ」
ほのり「え、そうなんですか!?すみません、全然見合った人間じゃなくて…」
越智「とんでもない。お2人が並んでいる姿、とってもお似合いでしたよ!」
ほのり(…お似合い)少し嬉しそう
○夜、屋敷、リビング
ほのりと茶子が2人でいる。
茶子「亜仙様たちは遅くなるみたいなので、今日は先に食べておきましょう」
ほのり「はい」
茶子「初仕事は、いかがでしたか?」
ほのり「初めてのことばかりでずっと緊張してました。でも、越智さんをはじめ、女将さんや他の従業員の方が優しくして下さり有り難かったです。早く仕事を覚えて、力になりたいと思います」
茶子「ほのり様は、本当に真面目で優しい人ですね」
ほのり「そんなことないです。これからどうやって1人で生きていこうか、そう悩んでいた私を救ってくれた亜仙さんに恩返しがしたいだけなので」
茶子「ほのり様がそばにいるだけで、十分恩返しになると思いますよ」
ほのり(だといいんだけど…)
○夜遅く、屋敷の縁側
パジャマ姿で座っている戌井の隣に子猫がやって来る。
戌井「こんばんは、あーくん」
次の瞬間、白いモヤがかかり、浴衣姿の亜仙が現れる。
隣に座った亜仙は不満そうに言う。
亜仙「誰が、あーくんだ」
戌井「すみません、咄嗟に良い名前が思い浮かばなくて」
亜仙「だとしても他にあったじゃろ」
戌井「例えば?」
亜仙「ねこっち、とか」
戌井「…。」
亜仙「黙るな」
戌井「…というか、勝手に布団に潜り込むなんて、犯罪ですからね?」
亜仙「ほのりがあまりに可愛くてつい…」
戌井「…ベタ惚れですね」
亜仙「当たり前じゃん。…ずっと探しとって、やっと見つけたんじゃから」
戌井「運命ってやつですか」
亜仙「そうそう、俺とほのりは運命なんよ」
嬉しそうに月を見る。



