マンガシナリオ『九尾の息子は、生涯孤独の彼女を優しく甘やかす』


○3月1日、高校
ほのり、卒業式に出席するシーン。
めでたい門出の日にも関わらず、ほのりの表情は曇っている。
ほのり(結局、就職先が決まらないまま卒業を迎えちゃった。うーん…一旦正社員は諦めて、新しいバイトの面接に行って、それからアパート探しもして…。はぁ、私これから大丈夫かな…)

○式典後の教室
友達との別れに涙する者や4月から始まる新生活に心躍らせる者が写真を撮りながら盛り上がっている。
1番後ろの席に座るほのりは、一歩引いてその様子を見ている。
葉月「ほーのりっ!」
葉月はほのりを体で押し、椅子の半分を陣取る。ほのりは、狭い、なんて文句も言わず受け入れる。
葉月「無事卒業式も終わったってゆうのに、そんな顔してー」
ほのり「別れを噛み締めてるだけ」
葉月「ほんとにー?」
ほのり「うん。…葉月、いつ引っ越しだっけ?」
葉月「20日には向こうに行こうと思っとる」
ほのり「そっか。寂しくなるね」
(葉月は、県外の大学に進学するため、この春から一人暮らしだ)
葉月「ほんと寂しい!ほのりとルームシェアして、楽しいキャンパスライフを送りたかった!ほのりは、来週内見だよね?」
ほのり「うん」
葉月「アパート決まったら、ちゃんと教えてよ?帰省したら遊びに行くけん」
ほのり「うん、わかった」

○昼間、養護施設
帰ったほのりが、玄関ホールに足を踏み入れた瞬間。
ほのり「ただいま…」
施設の子供「せーのっ…」
子供や職員「「ほのねぇちゃん、卒業おめでとう!!」」
クラッカーの音が響き、施設の職員や子供達が笑顔でほのりを出迎える。
ほのり「…びっくりしたぁ」
職員「おかえり!」
子供「食堂にご馳走用意しとるから」
子供「はやくはやくー!」
子供「オレらでかざりつけもしたけん」
ほのり、幼い子供らに手を引かれる。

食堂に入ったほのりが目にしたのは、カラフルに装飾された空間に、テーブルの上にある豪華な料理。
ほのり「わぁー、すごい!」

みんなで食事を楽しむシーン。
ほのり(この施設に来て約8年。気付けば、最年長の子供になっていた。職員さんはみんな優しいし、他の子供達も良い子ばかり。だけど、何年一緒に居ても、私達が家族になることはない。そんな冷めた考えをする私は、いつもどこかで勝手に線引きをしていた気がする。それでも、ここを出ていくのは寂しい。1人で暮らせば、孤独と向き合う日々がまた始まるだろうし)

食事の後。
○施設内のほのりの部屋。
ベットと机のみある殺風景。
ほのり(あれ、物がない…。すぐに引っ越せるように段ボールにまとめておいたはずなのに)
戌井「ほのり様」
ほのり振り返る。
ほのり「…え、戌井さん?何でここに…」
戌井「こんにちは。亜仙様に代わり、お迎えに上がりました。お別れのパーティーは、お済みになりましたか?」
ほのり「お迎え…?」


○車内
戌井「到着まで1時間以上掛かりますので、ゆっくりお休みになっていてください」
ほのり制服姿のまま、後部座席
ほのり(1時間以上って…)
「あの、一体どこへ行くんですか?」
戌井「もちろん、亜仙様の所です」
ほのり「…。」


○車内
しばらくして、眠りについていたほのりが目をゆっくり開けると、窓の外には山や川、自然溢れる景色が広がっている。
ほのり(この辺りって、確か温泉街だったような…)

○亜仙の自宅である屋敷
車が停車、大きな屋敷の前。門の外では、着物姿の亜仙が腕を組み待っている。
亜仙は車の後ろドアを開け、ほのりに笑顔を見せる。
亜仙「ほのり、久しぶり!」
ほのり「お久しぶりです…」

門をくぐり、広大な日本庭園の中を通り、玄関のドアを開けた亜仙。
亜仙「ほら、入って」
ほのり「…お邪魔します」

長い廊下を歩き進んだ途中、亜仙は部屋のドアを引いた。
亜仙「ここがほのりの部屋じゃから、好きに使って」
ほのり「え、私の部屋…?」
部屋の中を見たほのりは、段ボールに入れられた自分の荷物に気付く。
ほのり(え、何でここに!?)
ウォークインクローゼットの中には、ほのりが持っていた数着に加え、沢山の新しい洋服が用意されていた。
亜仙「もし、サイズや好みが合わんかったらゆーて。すぐ買い直すけん」
ほのり混乱。

亜仙「移動で疲れとるだろうけど、先に家ん中の案内だけしておくから。戌井、よろしく」
戌井「かしこまりました」

案内してる図。
最後に一番奥にある亜仙の部屋の前に来た。戌井がドアをノックする。
亜仙「はい」
戌井「亜仙様。指示のあった部屋の案内、全て終了いたしました」
亜仙がドアを開け、顔を出す。
亜仙「戌井、ありがとう。仕事に戻ってくれてええよ。ほのりは、話があるから中に入って」
戌井「では、失礼いたします」

○亜仙の部屋
亜仙「疲れてない?大丈夫?」
優しく問いかける。
ほのり「大丈夫です…」
亜仙「ならよかった。ここ座り」
ほのりは言われた通りソファに座り、その横に亜仙も座る。
ほのり「…。」
亜仙「めっちゃ緊張しとるじゃん」
ほのりとは正反対に、笑顔を見せる亜仙。
ほのり「緊張というか…私、何でここにいるんだろうって…」
亜仙「そんなん決まっとるが。俺の婚約者だから、ここで一緒に住むんだよ」
ほのり「え、婚約者!?」驚く
亜仙「前に会った時、言ったじゃん。卒業したら嫁においでって」
ほのり「え、でも私、返事なんてしてないし。あれから今日まで私たち会ったり、連絡取ったりしてないですよね?…それに…」
亜仙「それに?」
ほのり「…会社や家のために愛のない縁談をすることもあるとは思います。だけどその場合、相手も裕福な家庭の人で、私みたいな…」
俯いたほのりの手を握る亜仙
亜仙「会いに行けんかったのは謝る。ごめんなさい」頭を下げる。
亜仙「俺、全国の色んなとこへ出張に行くことが多くて、この家にいないことも多いんよ」
ほのり(そうか、忙しい人なんだ)
亜仙「でもさ、知らない土地、初めての家に来て、ほのりが不安になるのや、俺が側にいられないのは嫌じゃん?だから、昨日までに直近の出張を伴う仕事をあらかた終わらせてきた。じゃけん、安心してこの家に住んでほしい」
ほのり(私のために…?)
亜仙「俺のことは、一緒に暮らしながら知ってくれたらいいから。…あと、俺は縁談なんかせんよ。ほのりと結婚する」
ほのり「だけど…」
亜仙「これは、愛のない縁談なんかじゃない。…言っとる意味分かる?」
ほのりを見つめる。
亜仙「ほのり、愛しとる」

ほのり(まだこの人のことを何も知らない。なのに、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳で言われたら、この言葉は嘘じゃないって思えた)