マンガシナリオ『九尾の息子は、生涯孤独の彼女を優しく甘やかす』


○翌日、午前中、飛翔亭
チェックアウトをする光輝たち。光輝はほのりがいないか周りを確認している。
光輝の友達「ありがとうございましたー!…よし、残り時間で観光しようぜ」
光輝の友達「だな!」
亜仙「お客様、良ければこちらを…」
おすすめの観光スポットやグルメの載ったチラシを渡す。
光輝の友達「おぉ!ありがとうございます!」
亜仙「この度は、当旅館をご利用いただきありがとうございました。残りのご旅行も楽しんでくださいませ」
光輝「…。」

出て行く光輝たちを亜仙がお見送りしていると、仲居姿のほのりも駆けつける。
ほのりに気付いた光輝が、1人だけ戻ってくる。
光輝「ほの、この人と特別な関係なの?」
ほのり「え…。…うん、私たちもうすぐ夫婦になるよ」
光輝「え、夫婦……そっか。おめでと」
ほのり「ありがとう」
光輝「ほのが幸せそうでよかった。じゃ、また」
ほのり「うん、気をつけて」
亜仙「ありがとうございました」

○夜、ほのりの部屋
ノック音
ほのり「はい」
亜仙「ほのり、入ってもいいか?」
ほのり「どうぞ」

ラグの上に横並びの2人。
亜仙「今日はありがとう」
ほのり「え?」
亜仙「夫婦になるって、ちゃんと伝えてくれて、すげぇ嬉しかった」
ほのり「…私、夫婦の愛がどんなものか、家族の愛がどんなものか深く知らないから、亜仙さんのような素敵な人と夫婦になって、家族になってもいいのかずっと不安だったんです。…だけど、亜仙さん以外の人と本当の愛を知るなんて考えられなくて…」
ぎゅっ、亜仙がほのりを抱きしめる。
亜仙「そんなの当たり前じゃ。俺以外のやつにほのりのことを幸せにさせるつもりはないし、ほのりとだから毎日幸せなんよ」
ほのり「…ありがとうございます」
亜仙「2人で幸せに暮らそうな!」
ほのり「はい」


6月下旬。
○屋敷、リビング、朝
ちょうど朝食を終えた4人。亜仙のスマホの着信が鳴る。画面に烏藤の文字。
亜仙「もしもし、おはようございます。……はい…、分かりました。すぐに向かいます。…失礼します」
電話切り、一呼吸。
亜仙「戌井、父親が危篤状態になったらしい。早急に準備と予定調整を頼む」
ほのり「…っ」
戌井「かしこまりました」
ほのり(亜仙さんのお父さんのことは、前に戌井さんから聞けてなかったけど、病気だったってこと?)
亜仙「茶子、しばらく家を空けるがよろしくな」
茶子「はい」
ほのりを見る亜仙。
亜仙「…ほのり、一緒に来てくれるか?」
ほのり「はい…」
亜仙「ありがとう。ごめんな、父親のこと話せてないまま、こんなことになって。…俺の父親は昏睡状態で、10年間寝たきりなんだ」
ほのり「え…」
亜仙「姉の医療技術だけじゃなくて、なぜか母親や兄の霊力も何の意味もなくて。ただただ静かに、植物みたいに生きる父親が目覚める日をずっと待ってた」
戌井と茶子「…。」
亜仙「でもどこかで、こんな日が来ることを覚悟してたんだと思う」
ほのり「…。」


○昼過ぎ、京都の病院、特別個室
部屋から医師たちがゾロゾロ出て行く。
大きなベッド、ソファやテーブルなど、豪華な病室。
ベッドの上に呼吸器つけた父親、その横で手を握る麗妃。見守る烏藤、鯨瀬。
ノック、ドアが開き、亜仙たちが入ってくる。
※他の兄弟はまだ到着していない
麗妃「わざわざすまぬな」
亜仙「いえ」
ベッドの横に立ち、父親の顔をじっと見る亜仙。
麗妃「わしがこの男に惹かれたのは、こんな風にただの人間になれるからかもしれんのぉ。…何千年も特別な力とともに生きてきても、愛する者を守れなければ何の意味もないな…」伏し目がちに悲しげ
亜仙「…。」

夕方、兄弟全員揃う。
最後に着いた世城が父親の手を握っている。
静かな空気が流れる。
麗妃「もっと夫婦の時間を、家族の時間を過ごしたかったのも本音ではあるが、植物状態とはいえ、よく10年も生き耐えてくれた」
葎花「そんな寂しいこと言わないでください。まだ…どうなるかなんて…」涙声
ほのり(10年待ったのに、最後の声さえ聞けないなんて…、何か方法はないのかな)
狸原「ご主人の命を救う方法が、1つだけございますよ」声のみ
みんなが声の方へ向くと入り口に狸原の姿。
ほのり(狸原会長…!?どうしてここに…)
側近たちがサッと前に出て、護衛の態勢。
麗妃「何の用じゃ。今は、お主の相手をしている暇はない」
義乱「お引き取り願いたい」
狸原「まぁまぁ、そう言わず、少し僕の話を聞いてくだされ」
麗妃「…はぁ、手短に話せ」
狸原「ありがとうございます。…皆さんのご存知の通り、麗妃殿は不老不死の力をお持ちだ。私もそれに近い力を持っている。そして、半妖怪である君たち兄弟は、まだ通常の人間のように歳を取っていっているが、おそらく何百年と生きられる身体のはずだ。しかし、やはり半妖怪、麗妃殿のように何千年も生きるのは難しいだろう」
千畝「その話と命を救うことに何の関係があるのよ」痺れ切らした
狸原「ありますよ。…5人の中で唯一1人だけ、麗妃殿と同じレベルの不老不死を受け継いでいる人がいるんです…君だよ、亜仙君」
麗妃と亜仙、烏藤、鯨瀬以外、驚いている。
義乱「私どもはまだ何百年すら生きていないのに、なぜ亜仙だけ違うと言えるのですか」
狸原「出産時の違いを知っているかい?」
葎花「どういうこと…」
狸原「人間の姿の麗妃殿から生まれたから、人間の赤ん坊の姿で皆さんは産声をあげた。しかし、亜仙君だけは狐の姿で生まれてきたんだよ」

過去回想
○屋敷での出産シーン
助産師の腕の中に狐の赤ちゃんがいる。
その姿を見て、夫と顔を見合わせる麗妃。

現在
世城「それは、亜仙兄様が動物などの生き物に化ける力を受け継いでいるからじゃないのですか?」
ほのり(前に亜仙さんが教えてくれた。義乱さんは霊力、千畝さんは未来を見れる千里眼、葎花さんは老若男女の人間に化ける力、世城さんは何万キロも先まで見れる千里眼をそれぞれ受け継いでいると)
麗妃「…お前のいう通り、亜仙はわしの不老不死をそのまま受け継いでおる。しかし、それが起死回生に関係するのは初耳じゃが?」
狸原「僕も無駄に何百年も生きているわけではないんでねぇ。妖怪の力を研究する知り合いがいくつかおりまして、その知識は確かなものです。…亜仙くんの不老不死の力を使えば、ご主人はまだ生きられるどころか、目を覚ますでしょう。ただ…その犠牲として、亜仙君は普通の人間と同じような寿命でしか生きられなくなる」
亜仙「…!」
麗妃「…。」
ほのり(え…)
狸原「どうする?亜仙君」
亜仙とほのりの顔アップ。