語り【数百年前、九本の尻尾を持つ九尾の狐は、老若男女を魅了する美女へと姿を変えた】
九尾の狐と美女のシルエット風のシーン。
語り【その容姿と巧みな話術で、沢山の人間を利用し、多くの地位と名誉を手に入れてきた】
語り【今から約30年前。九尾の狐は、1人の男と出会い、初めての恋をする。2人は妖怪と人間の壁を越え、愛し合い、夫婦になった。そして、5人の子宝に恵まれた】
見つめ合い手を握る男女
語り【家族以外で、絶世の美女の正体が九尾だと知る者は少ない。その秘密を知るのは、それぞれの住居に長年仕える側近や使用人、そしてお稲荷様を祀る神社の宮司のみだ】
語り【九尾の狐は、変幻自在に様々なものに化ける。また、遠くの場所や未来を見通す千里眼、桁違いの霊力、不老不死に近い生命力を持っている。
人間との間に生まれた子供達は、それぞれ異なる力を受け継ぎ、容姿端麗。
現在、5人の子らは、各地方に分かれて暮らしており、母親が権力を持つ業界で右腕的存在として活躍している】
○10月下旬。夕方〜夜
児童養護施設で暮らす高校3年生の柏木ほのりが、施設の職員や他の子供らと一緒に、古い町並みが残る観光地として有名なエリアに遊びに来ているシーン。※倉敷の美観地区イメージ
少しずつ日が落ち、辺りは次々とライトアップされていく。
施設の子供女の小学生「わぁー、きれーい!」
施設の子供男の小学生「ほのねぇちゃん、見て!あそこ傘が光っとる」
ほのり「和傘に光を当ててるんよ。綺麗だね」
ほのりたちが、ライトアップを楽しんでいると、周りにいる人々がスマホやカメラを一斉にどこかへ向け始める。
施設の子供「あー!狐さんがきたー!」
施設の子たちが指差す方へほのりも視線を向ける。
ほのり「…!」
和装姿で狐の面を付けた人々の行列、正面。見物客の前を行進していく横から見た図。手には提灯や和傘を持つ者も。
先頭を歩く袴姿の男性の後ろには、白無垢を着た花嫁の姿、その後ろにズラリと黒留袖や巫女装束を着た者が並ぶ。怪しげで、厳かな雰囲気。
施設の子供「なぁ、ほのねぇちゃん。このイベントの名前って、きつねのよめいりよなぁ?それってなにー?」
ほのり「狐の嫁入りっていうのは、晴れてるのに雨が降る不思議な天気のことよ」
施設の子供「へぇ、そうなんじゃ」
施設の子供「じゃあ、これは雨をふらすイベントなん?」
ほのり「これは天気じゃなくて、花嫁行列をイメージしたイベントかな。江戸時代とかはね、お嫁にいくときに嫁入り道具とかを持って、こんな風に夜に親戚一同で嫁ぎ先に移動してたんだってさ」
施設の子供「とつぎさき?」
ほのり「結婚する相手の家に行くってこと」
施設の子供「ふーん。ほのねぇちゃんも、いつか結婚するん?」
ほのり「うーん…どうだろ」困り顔?
すらりと背の高い花嫁が、ほのりたちの目の前を通り過ぎようとする。綿帽子の隙間から見える髪色は明るく、狐の毛のような色をしている。
ほのりが狐の面で隠れた横顔を見ていると、花嫁は顔を正面からほのりの方へ少し向ける。
面の細い目の穴から見えた人間の目とほのりの目が一瞬だけ合うシーン。それぞれの目元アップめ。
ほのり(え…今…)
驚く感じ
ほのり、通り過ぎていった花嫁の後ろ姿を見つめる。
行列終了後。
ほのり「あっ、神社で買ったお守りがない。…境内で落としたかも。ちょっと探してくる」
施設職員「もう暗いけん、やめとき」
ほのり「スマホのライトがあるから大丈夫。先に帰っといて」
施設職員「分かった。気をつけて帰ってくるんよ」
ほのり「はぁーい」
○神社、夜
神社へ続く長い階段を上っていくほのり。
辿り着いた誰もいない境内で、白無垢を着た人の後ろ姿。
ほのり(あれって、さっきの花嫁さん…?)
月明かりの下、花嫁が綿帽子を取った瞬間、ほのりは驚きで目を丸くする。
華やかなまとめ髪の頭上から二つの耳が生えている。まだ後ろ姿。
ほのり「…きつ…ね…?」
ほのりの声に気付いた花嫁が、静かに顔を横に向け、人差し指を口に当てた。顔は狐の面を付けていない。伏し目がち。
その妖艶さに思わず息を呑んだほのり。
境内のベンチに横たわるほのりが目覚めるシーン。
ほのり「あれ…私…」
手元を見ると探していたお守り。
周りを見渡すが狐の花嫁はいない。
ほのり(夢だったのかな…)
○数ヶ月後の冬、ほのりの通う高校、昼休み
葉月「ほんとに大学行かんの?」
教室でお弁当を食べる葉月が、ほのりに問いかけた。
ほのり「行かないよ」
葉月「頭良いのにもったいなーい。まだ願書間に合うよ?」
ほのり「卒業したら施設出んといけんから、寮のある大学行ったところで奨学金や寮費、生活費も全部自分で払うことになるでしょ?多分、バイト三昧になって、勉強どころじゃなくなると思う」
ほのり(私が児童養護施設に入所したのは、小学4年生の時。5歳の頃、交通事故で両親を亡くした私は、県内外にある親戚の家をたらい回しにされていた。どうやら、父と母は親の反対を押し切り、駆け落ちするかたちで結婚したようだ。そのため、両親が亡くなった時に私の存在を初めて知る親戚がほとんどで、どこの家に行っても邪魔者扱いをされた)
葬式や酷い扱いのシーン。
ほのり(結局、どの家も数ヶ月で引き取りを拒否し、行く宛の無くなった私は、児童養護施設へ行くことが決まった。
施設から通うことになった小学校で出会ったのが、葉月だ。転校ばかり繰り返していた私に初めて出来た仲の良い友達)
小学校で出会ったシーン。
葉月「そうかもしれんけど…。就活は上手くいってるん?」
ほのり「うーん…まぁ…」
歯切れの悪いほのりを葉月は軽く睨む。
ほのり「…なかなか書類選考が通らないんよ。履歴書の書き方がいけないのかな」
困り笑顔のほのりを心配そうに見る葉月。
ほのり(残りわずかな高校生活。青春を謳歌したかと聞かれれば、そうとは言い切れない。学校とバイトを両立しながら、毎日を平穏に過ごすのに必死で、友達と色んな所へ出掛けるのはもちろん、恋愛なんてする暇もなかった)
○廊下
弁当を食べ終えたほのりと葉月が廊下を歩いてる。前から数人の女子が来る。
戸倉「あら、不幸そうな顔をして何かあったの?」
意地悪そうな顔でほのりに聞く。
ほのり(違うクラスの戸倉礼奈は、隣の市にある有名ホテルの社長の娘。1年の頃から、養護施設に住む私のことを何かと見下し、馬鹿にした絡みをしてくる)
ほのり「別に何も」
戸倉「あ、分かったわ。卒業後に路頭に迷うことを今から悩んでいるのね。あなたみたいな人は、進学も就職も難しいものねぇ」
戸倉の周りにいる女子がクスクス笑う。
葉月「ちょっと、何言っとんよ!親の力で良い大学行くあんたこそ、将来路頭に迷うんじゃないん?」
怒り口調
戸倉「何よ、失礼ね!ふん、行きましょ」
他の子を引き連れ去って行く戸倉。
葉月「あー、ムカつく!てか、あの標準語喋っとる感じも余計腹立つ!ほのりも言い返せばいいのに」
ほのり「まぁ…あと少しの辛抱だし」
○その日の放課後。
ほのりと葉月が下校のため校門へ向かうと、何やら生徒達がざわついている。
ほのり(どうしたんだろう)
ほのりは門の外を見た。そこには、学校には場違いな高級車が1台停まっている。
葉月「何あれ、誰かの迎え?」
ほのり「さぁ」
言いながらマフラーに顔を埋めるほのり。
車の後ろドアが開き、着物を着た男性が外へ出てくる。まだ顔見えない。
人だかりの中にいるほのりを見つける。
亜仙「柏木 ほのり」声のみ
ほのり「えっ…」
亜仙の上半身、カッコ良さ際立つ。髪は狐色。
葉月「なに、ほのり知り合い?」
ほのり「ううん。知らない…はず」
端正な顔立ちの亜仙に周りの女子生徒達は、頬を染めている。そんな視線には目もくれず、ほのりの目の前に立ち、マフラーに埋もれる頬に手を添える亜仙。
亜仙「お待たせ!寒いけん、はよ乗りぃ」
ほのり「…。」
唖然とするほのりの手を引き、後部座席に乗せる。窓を開け、葉月や他の生徒へ笑顔で伝える亜仙。
亜仙「この子俺の知り合いじゃから、安心して。じゃあ、みんな気をつけて帰りー」
走り出した車内では、スーツ姿の戌井がハンドルを握っている。
ほのり(え、この人たち誰…?)混乱
○ホテル
車はホテルの入り口前に着く。
ホテルスタッフがドアを開ける。先に降りた亜仙は「頭打たんようにな」と、ほのりに手を差し出す。
ほのり「…ありがとうございます…」
スイートルームにほのりを招き入れ、大きなソファに腰掛ける亜仙。すぐ側に戌井立つ。ドア近くで立ったままのほのり。
亜仙「ここ座って」
向かいに座るよう指示。
ほのり「…失礼します」
亜仙「あはは、そんな緊張せんでええよ。あ、自己紹介がまだだったか。俺の名前は、東狐 亜仙」
ほのり(…とっこ…あせん…。珍しい名前…)
亜仙「こう見えて、全国にある宿泊施設の経営に携わってる。あ、この男は、俺の秘書兼付き人の戌井 凱」
戌井「よろしくお願いいたします」お辞儀
ほのり(え、経営者ってこと?…秘書?付き人?)
亜仙「俺たち少し前に会ってんだけど、覚えとる?」
ほのり「え…」
ほのりは、亜仙の顔を改めてじっくり見る。亜仙の目元アップ。
ほのり(…!…この目!)
「…狐の花嫁さん…?」
亜仙「だいせいかーい!」
ほのり「えっ、でも、花嫁って女性…」
亜仙「あれはね、俺が化粧して、髪も伸ばしとっただけ。普段は、ご覧の通り普通に男」
ほのり「…全然気付きませんでした」
亜仙「まぁ、面で顔隠れてたし、簡単には気付かんって。…でさ、1つ聞きたいんじゃけど…」
ほのり「…?」
亜仙「あの夜…狐見た?」
ほのり「…え」
神社で見かけた月に照らされる美しい狐の花嫁姿の描写。
ほのり(でもあれは、夢だったはず…)
亜仙「あの狐は、俺だよ」
ほのり「…。」
亜仙「あはっ、狐につままれたような顔をしとるな。ま、この話はまた今度じゃな」
亜仙「さて、今日の本題に入ろうかな。…なぁ、ほのり。卒業したら、俺のとこへ嫁においで」
ほのり「え……何言ってるんですか。嫁って…結婚ってこと…?」
亜仙「うん。ほのり、結婚しよう!」笑顔
ほのり「…。」
ほのり(神様、私は狐に騙されているのでしょうか?)



