白石雅臣――玲奈の実兄。
戸籍上は二十年前に死亡。だが、実際にはその死は「記録された」だけ。
生きていた。そして、玲奈と裏でつながっていた。
「これは、白石雅臣が十年前に使っていた運転免許の偽名です。」
黒川は、公安から極秘で提供された資料を机に広げた。
「彼は、海外を転々としながら、違法な投資話に関与していた。だが、ある時期から急に日本に戻ってきている。」
「そして、戻った先が――この家、ということですね。」
水島がノートパソコンを開き、白石邸の裏門に設置された古い防犯カメラの映像を流した。
そこには、玲奈と酷似した輪郭の男が、深夜に何度も邸内へ出入りする姿が映っていた。
その顔の一部がはっきり映った瞬間、黒川は静かに言った。
「間違いない。こいつが、雅臣だ。」
――そしてもう一つ。
その翌朝に撮られた映像には、彼が大きなバッグを抱えて邸宅を立ち去る姿が記録されていた。
その足取りは異様に軽い。まるで、“やるべきこと”を終えた者のように。
「玲奈を殺したのは彼か……?」
水島が言う。
「そう決めるのは早い」黒川は言った。「玲奈が残した“刺繍の遺書”には、“真琴を許すな”と書かれていた。つまり、玲奈にとって最大の恐怖は雅臣ではなく、真琴だった可能性がある。」
そのときだった。
警察に一本の通報が入る。
「白石雅臣を名乗る男が、長野県の山荘に現れた。」
黒川はすぐに現地へと向かう。
冬の長野、山の中腹にあるその山荘には、数日分の食糧と一冊の本が置かれていた。
古びた日記帳――それは、玲奈のものであり、同時に雅臣の“取引記録”でもあった。
中には、玲奈と雅臣が共犯関係にあった証拠、そして彼女が最後に書いた“言葉”が綴られていた。
雅臣へ
あなたは私を憎んでいるのでしょう。私が“家”を奪い、
“名”を守り、“純白の仮面”を被ったから。
でも、私はあなたに言いたい。
真琴は、私の“罰”です。
あの子は、私が唯一、傷つけなかった“存在”だった。
あなたがあの子に手を出したら――
私は、あなたを殺してでも、守る。
「……玲奈は、真琴を守ろうとしていた?」
水島が息をのむ。
「いや、違う。これは――罪悪感の裏返しだ。」
玲奈は、妹の娘である真琴に“愛情”を抱きつつも、その愛はいつしか“支配”に変わった。
そして、雅臣はそれを見ていた。
二人は互いに“純白”を装いながら、心の奥では、血よりも濃い“黒”を抱え続けていた。
山荘の奥で、黒川たちは雅臣を発見した。
ナイフを手に、ぼんやりと座り込んでいた彼は、こう呟いた。
「……玲奈は、俺にこう言ったんだ。“私が死ねば、すべてが終わる”ってな。」
「あなたが殺したのか?」黒川が問いかけると、雅臣は首を横に振った。
「いや……俺が行ったときには、もう死んでいた。俺はただ、金庫を開けただけだ。真琴を、助けたかっただけなんだよ。」
「助けた?」
「玲奈は、真琴を“閉じ込めてた”。あの屋敷の中に、ずっと。過去も、名前も、自由も全部奪ってな。
真琴は、彼女に殺される前に、玲奈から自分を“殺すしか”なかったんだよ。」
黒川の脳裏に、真琴のあの“静かな微笑”がよみがえった。
死の前に笑っていた玲奈。
それを見届けていたのは――果たして、誰だったのか?
戸籍上は二十年前に死亡。だが、実際にはその死は「記録された」だけ。
生きていた。そして、玲奈と裏でつながっていた。
「これは、白石雅臣が十年前に使っていた運転免許の偽名です。」
黒川は、公安から極秘で提供された資料を机に広げた。
「彼は、海外を転々としながら、違法な投資話に関与していた。だが、ある時期から急に日本に戻ってきている。」
「そして、戻った先が――この家、ということですね。」
水島がノートパソコンを開き、白石邸の裏門に設置された古い防犯カメラの映像を流した。
そこには、玲奈と酷似した輪郭の男が、深夜に何度も邸内へ出入りする姿が映っていた。
その顔の一部がはっきり映った瞬間、黒川は静かに言った。
「間違いない。こいつが、雅臣だ。」
――そしてもう一つ。
その翌朝に撮られた映像には、彼が大きなバッグを抱えて邸宅を立ち去る姿が記録されていた。
その足取りは異様に軽い。まるで、“やるべきこと”を終えた者のように。
「玲奈を殺したのは彼か……?」
水島が言う。
「そう決めるのは早い」黒川は言った。「玲奈が残した“刺繍の遺書”には、“真琴を許すな”と書かれていた。つまり、玲奈にとって最大の恐怖は雅臣ではなく、真琴だった可能性がある。」
そのときだった。
警察に一本の通報が入る。
「白石雅臣を名乗る男が、長野県の山荘に現れた。」
黒川はすぐに現地へと向かう。
冬の長野、山の中腹にあるその山荘には、数日分の食糧と一冊の本が置かれていた。
古びた日記帳――それは、玲奈のものであり、同時に雅臣の“取引記録”でもあった。
中には、玲奈と雅臣が共犯関係にあった証拠、そして彼女が最後に書いた“言葉”が綴られていた。
雅臣へ
あなたは私を憎んでいるのでしょう。私が“家”を奪い、
“名”を守り、“純白の仮面”を被ったから。
でも、私はあなたに言いたい。
真琴は、私の“罰”です。
あの子は、私が唯一、傷つけなかった“存在”だった。
あなたがあの子に手を出したら――
私は、あなたを殺してでも、守る。
「……玲奈は、真琴を守ろうとしていた?」
水島が息をのむ。
「いや、違う。これは――罪悪感の裏返しだ。」
玲奈は、妹の娘である真琴に“愛情”を抱きつつも、その愛はいつしか“支配”に変わった。
そして、雅臣はそれを見ていた。
二人は互いに“純白”を装いながら、心の奥では、血よりも濃い“黒”を抱え続けていた。
山荘の奥で、黒川たちは雅臣を発見した。
ナイフを手に、ぼんやりと座り込んでいた彼は、こう呟いた。
「……玲奈は、俺にこう言ったんだ。“私が死ねば、すべてが終わる”ってな。」
「あなたが殺したのか?」黒川が問いかけると、雅臣は首を横に振った。
「いや……俺が行ったときには、もう死んでいた。俺はただ、金庫を開けただけだ。真琴を、助けたかっただけなんだよ。」
「助けた?」
「玲奈は、真琴を“閉じ込めてた”。あの屋敷の中に、ずっと。過去も、名前も、自由も全部奪ってな。
真琴は、彼女に殺される前に、玲奈から自分を“殺すしか”なかったんだよ。」
黒川の脳裏に、真琴のあの“静かな微笑”がよみがえった。
死の前に笑っていた玲奈。
それを見届けていたのは――果たして、誰だったのか?
