純白の殺人

玲奈の死と、その遺体のそばに残された“自白の手紙”――
それが真琴の筆跡で書かれていたことは、警察内部でも衝撃を与えていた。

「自作自演の可能性もある。」と鑑識は言う。筆跡は真琴のものに“酷似”していたが、完璧な一致ではなかった。

だが、状況は明らかに真琴に不利だった。

黒川は玲奈の“書斎”に足を踏み入れた。
それは異様な空間だった。

壁一面に並ぶ古い洋書、引き出しの中には万年筆と便箋が几帳面に並べられ、香水の瓶が一本、まるで飾りのように置かれていた。

「美意識の塊だな……まるで舞台装置だ。」

黒川がそう呟いたときだった。
机の上に、紙ではなく“布”が敷かれていることに気づいた。
生成りのレース――いや、違う。
よく見ると、それは“刺繍”だった。

小さな文字で、何かが縫い込まれている。

 白が好きだった
 でも、私の心はずっと黒かった
 嘘で塗りつぶしたこの家が、真実で壊されるなら
 殺されることも、きっと救い

刺繍された文字は、明らかに玲奈本人の手によるものだった。
筆跡ではなく、“針跡”で遺された最後の言葉。

黒川は背筋が冷えるのを感じた。
これは――遺書なのか?

さらに、書斎の隅にある本棚を調べていた部下の水島が、声を上げた。

「黒川さん、この棚……裏があります!」

本棚をわずかに動かすと、奥に小さな“隠し戸”が現れた。
中にあったのは、鍵のかかった金庫。そして、1冊の古びたノート。

黒川は手袋をはめ、ノートをめくった。

――そこには、玲奈の“本当の顔”が記録されていた。

献金の受け取り、弱みを握った市議との関係、孤児院の名を使った資金の横流し……。
一見清楚で理想的な女性の裏に隠れていた、完璧な“犯罪の履歴”。

そして最後のページには、たった一文。

 「真琴を許すな。彼女もまた、私と同じ顔をしている。」

黒川は、ノートを閉じた。

真琴が“何か”を隠しているのは、間違いない。
しかし――その“何か”が、玲奈の死にどう関わっているのか。
まだ、すべてのピースは揃っていない。