純白の殺人

白石邸は、外観こそ華やかだが、その内側は静まり返っていた。
家政婦もいなければ、犬の鳴き声もない。住んでいるのは玲奈と真琴、たった二人だけだった。

黒川は真琴と向かい合い、静かに尋ねた。

「玲奈さんの交友関係について、教えてもらえますか?」

真琴は長い髪を耳にかけ、小さく息を吐いた。

「おばさまは人付き合いが苦手でした。表では社交的に振る舞っていましたけど、本当は……誰も信じていなかったと思います。」

「あなたは、信じていた?」

一瞬、真琴の目が揺れた。

「……ええ。私は、信じていました。信じたかったんです。あの人が、私を――」

そこまで言って、彼女は言葉を飲み込んだ。
黒川はすぐに質問を切り替えた。

「最後に玲奈さんを見たのは?」

「一昨日の夜です。夜の9時ごろ、紅茶を淹れて持っていきました。書斎にこもっていたので、ドア越しに声をかけただけですけど。」

「中からの反応は?」

「“ありがとう”って。いつもの、優しい声でした。」

黒川はメモを取りながら、ふと疑問を口にする。

「書斎にあった紅茶のカップ、割れていました。床に落ちた形跡があった。強い衝撃を受けたか、もしくは…」

「……手が震えて、落とした?」

真琴の声は低かった。だが、その目だけは鋭く、警察官である黒川さえ一瞬、目を逸らしそうになる。

「玲奈さんに、何か恨みを持っている人はいませんか?」

「……それは、私が一番知りたいことです。」

その瞬間、家の電話が鳴った。
受話器を取った真琴の表情が、ピクリと動く。

「……はい。……え? それは……嘘……」

黒川が近づくと、真琴が受話器をそっと置いた。

「……遺体のそばに、手紙があったそうです。警察の鑑識が……“私が殺した”と書かれていたって。」

「誰の筆跡だった?」

「私の名前で、私の筆跡だって……」

沈黙が、屋敷を支配した。

純白の雪のように、すべてを覆い隠す“真実”の気配が、静かに浮かび上がっていた。