ある日の放課後、俺は美術室で一枚の絵を眺めていた。
「加地くん、お待たせ」
職員室から戻ってきた天谷が足早に近づいてくる。俺はその姿に軽く手を挙げて応える。
「先生、何の用だった?」
「宿題のプリント、名前書き忘れてたって」
「天谷って意外と抜けてるよなぁ……」
テストなら零点になってるところだぞ。危なっかしい奴だ。
「絵はこんなに上手いのにな」
もう一度絵に顔を向けると、天谷の視線も追いかけてきた。
「完成おめでとう。いい絵だよな」
「ありがとう」
どこか照れたような笑みを浮かべる天谷を見ていると、俺も嬉しくなってくる。
天谷が今年の絵画コンクールのために描いたのは、ネモフィラの絵だった。太陽の下で可憐に咲き誇る小さな花々は、明るい未来を予感させた。
絵の中に人物は描かれていない。でも俺には、これがあの日二人で見たネモフィラの花畑だと分かる。
「本当に、いい絵だ」
じっと見ていたら、あの日の景色が蘇ってきて、なぜだか涙が滲みそうになった。
ああ、俺、この絵が好きだな。
「これを描けたのは加地くんのおかげだよ」
「俺は何もしてないよ」
「そんなことない。俺の知らない世界を見せてくれてありがとう」
「お、大袈裟だな……」
天谷は相変わらず、色々な意味で直球だ。おかげで心臓がいくつあっても足りそうにない。
「天谷、また今度撮影についてきてくれない? 夏休みになったら花火撮りたいんだよ」
「いいよ。校外撮影?」
「じゃなくてさ……デート、なんだけど」
天谷の指先を軽く握る。すると天谷は目を丸くして、何度も大きく頷いた。
「行く。絶対行く」
「ん、じゃあ約束な」
こういう雰囲気は、まだちょっと照れくさい。でも握り返された手が嬉しくて、俺は隣に立つ天谷の顔を見つめ返した。
「そうだ、二人で写真撮ろうよ」
「ここで?」
「うん、完成記念に」
絵の横に天谷を立たせて隣に並ぶ。スマホをインカメラで構え、二人の顔と天谷の絵が写るようにシャッターボタンをタップした。
初めての自撮りは、ぎこちない笑顔だった。
「二人とも変な顔だ」
「やばいだろ、これ。イケメンのギャップがエグいって」
こんな些細なことで笑い合える日が来るとは思っていなかった。これってたぶん、すごく幸せだ。
こうやって少しずつ、俺たちしか知らない顔が増えていくんだと思う。
「加地くん、お待たせ」
職員室から戻ってきた天谷が足早に近づいてくる。俺はその姿に軽く手を挙げて応える。
「先生、何の用だった?」
「宿題のプリント、名前書き忘れてたって」
「天谷って意外と抜けてるよなぁ……」
テストなら零点になってるところだぞ。危なっかしい奴だ。
「絵はこんなに上手いのにな」
もう一度絵に顔を向けると、天谷の視線も追いかけてきた。
「完成おめでとう。いい絵だよな」
「ありがとう」
どこか照れたような笑みを浮かべる天谷を見ていると、俺も嬉しくなってくる。
天谷が今年の絵画コンクールのために描いたのは、ネモフィラの絵だった。太陽の下で可憐に咲き誇る小さな花々は、明るい未来を予感させた。
絵の中に人物は描かれていない。でも俺には、これがあの日二人で見たネモフィラの花畑だと分かる。
「本当に、いい絵だ」
じっと見ていたら、あの日の景色が蘇ってきて、なぜだか涙が滲みそうになった。
ああ、俺、この絵が好きだな。
「これを描けたのは加地くんのおかげだよ」
「俺は何もしてないよ」
「そんなことない。俺の知らない世界を見せてくれてありがとう」
「お、大袈裟だな……」
天谷は相変わらず、色々な意味で直球だ。おかげで心臓がいくつあっても足りそうにない。
「天谷、また今度撮影についてきてくれない? 夏休みになったら花火撮りたいんだよ」
「いいよ。校外撮影?」
「じゃなくてさ……デート、なんだけど」
天谷の指先を軽く握る。すると天谷は目を丸くして、何度も大きく頷いた。
「行く。絶対行く」
「ん、じゃあ約束な」
こういう雰囲気は、まだちょっと照れくさい。でも握り返された手が嬉しくて、俺は隣に立つ天谷の顔を見つめ返した。
「そうだ、二人で写真撮ろうよ」
「ここで?」
「うん、完成記念に」
絵の横に天谷を立たせて隣に並ぶ。スマホをインカメラで構え、二人の顔と天谷の絵が写るようにシャッターボタンをタップした。
初めての自撮りは、ぎこちない笑顔だった。
「二人とも変な顔だ」
「やばいだろ、これ。イケメンのギャップがエグいって」
こんな些細なことで笑い合える日が来るとは思っていなかった。これってたぶん、すごく幸せだ。
こうやって少しずつ、俺たちしか知らない顔が増えていくんだと思う。



