例えば、付き合っている人と別れたとして。「そんなに悲しくはない」と強がってしまうけど、きっと一緒に歩いた道を1人で歩くとき、楽しかった思い出が蘇って悲しくなると思う。「そこの段差に躓いていたな」とか「驚いた表情をしていたな」とか、もう取り戻せない過去を振り返って、絶望してしまうかもしれない。ただ唯一、過去に戻れないことが救いだったりして。戻りたい戻りたいと願っているけれど、心のどこかでは戻れないことを分かっていて、それでも願い続ける。哀れなんかではないね。それだけ好きだったわけだし。
「今日ちゃんとさよならできました!」と連絡が届いた。先日、「遠距離になります。私は彼を信じる。ただそれだけしかできないのでしょうか」という連絡をくれた女の子から。そのときの僕は「それしかできないね」と返していて、「月に2回とか会えればいいけれど」と続けていた。けれど、結果的に別れた。2人にしか分からない事情があるだろうし、深く訊き返すことはせず、その連絡にハートのリアクションだけを押した。続けられるようにして書かれていた「またひとつ大人になれた気がします。初めてこんなに人を好きになれて、相手の幸せを願えました」という言葉が、眩しくてスマホの画面を閉じた。
好きだった記憶とどう接すれば、悲しくならないで済むのだろうか。そもそも、悲しくならない記憶なんてあるのだろうか。その人のことを好きだった。別れたら死んでやろうとさえ思っていた。けれど、いざ別れると死ぬ気力さえ湧かなかった。そんな経験を積み重ねていって、人は大人になっていくのだとして。何度死んでやろうと思えばいいのだろうか。何度人を好きになればいいのだろうか。「この人しかいない」と思った人の顔を、今はもう、思い出せないというのに。
そういえば夏。「まさをさんは夏に何をするのが好きですか」という連絡が届いた。その人が求めていなさそうな回答をして、1人でクスクスと笑って、どんな人なのか気になってアカウントを覗いた。海を泳ぐ男性を撮った写真だけが投稿されていて、ハイライトさえなかった。「涼しそうな夏」と文字を添えていて、この人の感性に少しだけ触れたくなるけれど、触れることはなかった。コメント欄では「もっとかっこよく撮れよ」「ごめんね」という文字が並んでいて、画面を閉じた。
付き合っていると、他人が入ることのできない雰囲気を纏う。別れたらその雰囲気はどこへ行ってしまうのか分からないけど。その雰囲気が悲しませる原因になっているのなら、悲しくならない別れなんてないんだと思う。自分と相手が持つ雰囲気が合わさった場所にずっと居たわけだから、その場所を失った悲しみは大きい。戻れないということが救いになることだってある。その場所にはもう、誰もいないのだから。
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「今日ちゃんとさよならできました!」と連絡が届いた。先日、「遠距離になります。私は彼を信じる。ただそれだけしかできないのでしょうか」という連絡をくれた女の子から。そのときの僕は「それしかできないね」と返していて、「月に2回とか会えればいいけれど」と続けていた。けれど、結果的に別れた。2人にしか分からない事情があるだろうし、深く訊き返すことはせず、その連絡にハートのリアクションだけを押した。続けられるようにして書かれていた「またひとつ大人になれた気がします。初めてこんなに人を好きになれて、相手の幸せを願えました」という言葉が、眩しくてスマホの画面を閉じた。
好きだった記憶とどう接すれば、悲しくならないで済むのだろうか。そもそも、悲しくならない記憶なんてあるのだろうか。その人のことを好きだった。別れたら死んでやろうとさえ思っていた。けれど、いざ別れると死ぬ気力さえ湧かなかった。そんな経験を積み重ねていって、人は大人になっていくのだとして。何度死んでやろうと思えばいいのだろうか。何度人を好きになればいいのだろうか。「この人しかいない」と思った人の顔を、今はもう、思い出せないというのに。
そういえば夏。「まさをさんは夏に何をするのが好きですか」という連絡が届いた。その人が求めていなさそうな回答をして、1人でクスクスと笑って、どんな人なのか気になってアカウントを覗いた。海を泳ぐ男性を撮った写真だけが投稿されていて、ハイライトさえなかった。「涼しそうな夏」と文字を添えていて、この人の感性に少しだけ触れたくなるけれど、触れることはなかった。コメント欄では「もっとかっこよく撮れよ」「ごめんね」という文字が並んでいて、画面を閉じた。
付き合っていると、他人が入ることのできない雰囲気を纏う。別れたらその雰囲気はどこへ行ってしまうのか分からないけど。その雰囲気が悲しませる原因になっているのなら、悲しくならない別れなんてないんだと思う。自分と相手が持つ雰囲気が合わさった場所にずっと居たわけだから、その場所を失った悲しみは大きい。戻れないということが救いになることだってある。その場所にはもう、誰もいないのだから。
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