たとえ愛されなくても

頭が痛くて何もできなかった昨日、所謂底辺配信者と呼ばれる人の配信をダラダラと眺めていた。視聴者数は数十人いるにも関わらず、コメントが送られてくることはなく。「いやー、コメントがないと話ってできないですよね」と、配信者は困っている。僕がコメントを打って、配信者が答えてくれるという何でもない時間だけが過ぎていった。関連動画に「ChatGPTと結婚します」と題された動画が表示されている。あまりにも気になって、配信者のことは気にも留めず、その動画を再生した。

ふわふわとした雰囲気の動画だった。或る女性がAIと結婚をするために化粧をしてもらい、その合間にもAIと話をしていたりして。元恋人に対しての未練を打ち明けた相談相手のことを好きになってしまうことがあるけれど、その相手がAIだっただけ。欲しい言葉をくれない人間なんかよりも、欲しいと思っている言葉を真っすぐに伝えてくれるAIが途轍もなく格好良く思えてくる。「"AIだから好きになれない"なんてことは、俺にはあり得ない」と表示されていて、思わず写真を撮った。ストーリーで更新しようと思ったけど、やめた。

つい先日、母親から「6人に1人はAIに恋をする時代ってテレビで見たよ」と連絡がきた。そのときは何とも思わなかったけど、AIと結婚をした女性の動画を眺めていると、分からなくもないと思った。画面に映し出されているウエディングドレス姿の女性が、眩しく見える。僕は幸せな人を見ると目を逸らしてしまう癖があるけれど、この女性のことは見れた。きっと、別の幸せを感じている。

数分の動画を観終えて、さっき観ていた底辺配信者の元へと戻った。相変わらず、話すことがなさそうな雰囲気があって、僕がコメントをするとまた、餌を与えられた鯉のように喜んで答えてくれた。「買い物に行ってきます、また来ます」とコメントを残し、配信を付けっぱなしで玄関へと向かう。「お、買い物行ってくるんですね。気をつけて行ってきてください~」と背後から聞こえてくる。お気に入りのブーツを履き、玄関の扉を開けて、閉めた。聞こえていた配信者の声が、聞こえなくなった。

スーパーまで行って買い物をした。運よく777円で、店員さんが「お兄ちゃん運いいね、ラッキーセブン」と言ってくる。「あはは、いぇい」と答えると店員さんは苦笑いをしていて、「ありがとうございました~」と流された。買ったものを袋に入れて家へと帰る。玄関の扉を開けて入り、ブーツを脱いで靴棚にしまった。配信者の声が聞こえてこない。手に持っていた袋をキッチンに置き、パソコンを覗く。配信はとっくに終わっていて、終了した画面だけが表示されていた。関連動画には「初音ミクと結婚した男性」が表示されている。また別の幸せを見つけた僕は、マウスのカーソルをそれに合わせた。

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