まず取り出したのは、自分用に作った半襟と手巾。それから数枚の下絵。最後に雪持ち椿の原画の写しを、ゆっくりと卓上に広げた。
「こちらの半襟、手に取って拝見してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
頷くと、瀬田は慎重な手つきで半襟を持ち上げ、両手で端を支えて窓からの光がよくあたるようにして眺めた。それは白塩瀬に青紫の鉄線の花を刺繍したもので、自分でもとても気に入っている。
「……鉄線文様ですね。実に美しい。それに、どこか洋風な趣もある」
呟いて卓上にそっと戻すと、篠田夫人が自分も見たいと言い出したので澄乃は頷いた。
瀬田が次に手に取ったのは雪持ち椿の写しだった。篠田夫人の半襟と手巾に使った図案だ。
「藪椿。こちらも見事だ。一重の椿を選んだのは、何か理由があってのことですか?」
ためらいがちに頷く。
「八重咲きですと、半襟が豪華になりすぎるように思いまして。そればかりが悪目立ちしてもいけませんし」
「なるほど。雪を花ではなく、主に葉や枝のほうに載せたのは」
「葉や枝に白い雪を置けば、冬の情趣を出しつつ、赤い花がより映えると思ったのです」
思いのほかすらすらと言葉が出てくる。人見知りで、初対面の人とはうまく話せないのに。やはり、好きな刺繍のこととなると周囲に合わせる必要もないからだろうか。
瀬田は頷きながら図案を眺めた。
「花の配置が、半襟と手巾とでは異なりますね」
「半襟は見える範囲が限られますので、お顔に最も近くなる場所に花を置きました。手巾のほうは、手にお持ちになるときと、お膝に広げたとき、それぞれ花が映えるようにと」
「図柄そのものより、身につけたときの見え方を先に考えられたわけですね。用途が違えば同じ配置にはできない、と」
「はい」
不思議な感覚に包まれながら頷く。
刺繍の腕前を褒められるのとは異なる嬉しさを覚えていた。どのように構図を考え、どのように工夫して繍ったのかを正確に言葉にされたのは初めてだ。
「これは篠田様のご依頼で作ったものだそうですね。篠田様のお着物のお色や、お顔立ちまで考慮なさったのですか」
「はい。篠田様はくっきりしたお顔立ちですので、豪華な花にも押し負けはなさいません。けれど着物の青磁色が大層上品ですので、あまり襟元ばかりが目立つと、せっかくの美しい青磁色が目に入らなくなってしまいます。ですので、赤の強さをちょうどよくやわらげるように雪の白を合わせてみました」
澄乃は口を噤み、少し赤くなった。ぺらぺらと喋りすぎた。篠田夫人が気を悪くしたのでは……と横目で伺うと、夫人はむしろ得意気な笑みを浮かべている。
「こちらの半襟、手に取って拝見してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
頷くと、瀬田は慎重な手つきで半襟を持ち上げ、両手で端を支えて窓からの光がよくあたるようにして眺めた。それは白塩瀬に青紫の鉄線の花を刺繍したもので、自分でもとても気に入っている。
「……鉄線文様ですね。実に美しい。それに、どこか洋風な趣もある」
呟いて卓上にそっと戻すと、篠田夫人が自分も見たいと言い出したので澄乃は頷いた。
瀬田が次に手に取ったのは雪持ち椿の写しだった。篠田夫人の半襟と手巾に使った図案だ。
「藪椿。こちらも見事だ。一重の椿を選んだのは、何か理由があってのことですか?」
ためらいがちに頷く。
「八重咲きですと、半襟が豪華になりすぎるように思いまして。そればかりが悪目立ちしてもいけませんし」
「なるほど。雪を花ではなく、主に葉や枝のほうに載せたのは」
「葉や枝に白い雪を置けば、冬の情趣を出しつつ、赤い花がより映えると思ったのです」
思いのほかすらすらと言葉が出てくる。人見知りで、初対面の人とはうまく話せないのに。やはり、好きな刺繍のこととなると周囲に合わせる必要もないからだろうか。
瀬田は頷きながら図案を眺めた。
「花の配置が、半襟と手巾とでは異なりますね」
「半襟は見える範囲が限られますので、お顔に最も近くなる場所に花を置きました。手巾のほうは、手にお持ちになるときと、お膝に広げたとき、それぞれ花が映えるようにと」
「図柄そのものより、身につけたときの見え方を先に考えられたわけですね。用途が違えば同じ配置にはできない、と」
「はい」
不思議な感覚に包まれながら頷く。
刺繍の腕前を褒められるのとは異なる嬉しさを覚えていた。どのように構図を考え、どのように工夫して繍ったのかを正確に言葉にされたのは初めてだ。
「これは篠田様のご依頼で作ったものだそうですね。篠田様のお着物のお色や、お顔立ちまで考慮なさったのですか」
「はい。篠田様はくっきりしたお顔立ちですので、豪華な花にも押し負けはなさいません。けれど着物の青磁色が大層上品ですので、あまり襟元ばかりが目立つと、せっかくの美しい青磁色が目に入らなくなってしまいます。ですので、赤の強さをちょうどよくやわらげるように雪の白を合わせてみました」
澄乃は口を噤み、少し赤くなった。ぺらぺらと喋りすぎた。篠田夫人が気を悪くしたのでは……と横目で伺うと、夫人はむしろ得意気な笑みを浮かべている。
