厚手の絨毯の敷かれた廊下を進んで角をひとつ曲がると、急に周囲は静けさに包まれた。
篠田夫人と並んで瀬田の後に続きながら、なんとはなしに澄乃は落ち着かない心持ちになった。
瀬田は廊下の真ん中辺りで足を止め、間隔を置いて並んでいる重厚な扉のひとつを開けた。
「どうぞ、お入りください」
そこは小さめの応接室のような部屋で、窓から明るい光が射していた。部屋の中央には真っ白な卓布をかけた大きな丸テーブルがあり、真ん中に薄紅色の薔薇が飾られている。
橘家の人々と会食した銀座の洋食店を思い出させる作りだ。応接室ではなく食堂の個室なのかもしれない。
瀬田はまず篠田夫人のために椅子を引き、続いて隣の椅子を澄乃に勧めると、軽く一礼した。
「お飲み物は何がよろしいでしょうか」
「そうね、紅茶をいただこうかしら。澄乃さんは?」
「わたしも紅茶を」
「すぐにご用意いたします」
壁に設置された電鈴を押すと、黒い背広に蝶ネクタイの青年がすぐに現れた。瀬田は紅茶を用意するよう指示すると、篠田夫人の隣に座った。
「本日は、わざわざお運びいただきまして、まことにありがとうございます。お待たせして大変申し訳ございませんでした」
改めて瀬田が謝罪すると、篠田夫人は鷹揚に頷いた。
「仕方がありませんわ。瀬田さんもお忙しい身でいらっしゃいますもの。わたくしたちも店内を見物して楽しく過ごしておりましたわ。ねぇ、澄乃さん?」
「はい。色々と良いものを拝見いたしました」
澄乃が頷いたところにノックの音がして、給仕が大きな銀盆に茶器を載せて入ってきた。
白磁に青い花模様を描いた美しいティーセットだ。給仕は薫り高い紅茶をカップに注いで三人に出すと、ポットや砂糖壺、牛乳入れをテーブルに手際よく並べ、うやうやしく一礼して退出した。
篠田夫人は角砂糖をひとつ入れ、銀のスプーンで軽く混ぜると上品に口許へ運んだ。澄乃は牛乳を少し入れて飲んだ。ミルクティーは久しぶりだ。まろやかな味わいが、こわばった気持ちをやわらげてくれた。
瀬田は何も入れずに紅茶を一口飲むと、穏やかな声で切り出した。
「先ほど展示室で、ずいぶんと熱心に〈獅子図〉を御覧になっていたようですね」
篠田夫人と並んで瀬田の後に続きながら、なんとはなしに澄乃は落ち着かない心持ちになった。
瀬田は廊下の真ん中辺りで足を止め、間隔を置いて並んでいる重厚な扉のひとつを開けた。
「どうぞ、お入りください」
そこは小さめの応接室のような部屋で、窓から明るい光が射していた。部屋の中央には真っ白な卓布をかけた大きな丸テーブルがあり、真ん中に薄紅色の薔薇が飾られている。
橘家の人々と会食した銀座の洋食店を思い出させる作りだ。応接室ではなく食堂の個室なのかもしれない。
瀬田はまず篠田夫人のために椅子を引き、続いて隣の椅子を澄乃に勧めると、軽く一礼した。
「お飲み物は何がよろしいでしょうか」
「そうね、紅茶をいただこうかしら。澄乃さんは?」
「わたしも紅茶を」
「すぐにご用意いたします」
壁に設置された電鈴を押すと、黒い背広に蝶ネクタイの青年がすぐに現れた。瀬田は紅茶を用意するよう指示すると、篠田夫人の隣に座った。
「本日は、わざわざお運びいただきまして、まことにありがとうございます。お待たせして大変申し訳ございませんでした」
改めて瀬田が謝罪すると、篠田夫人は鷹揚に頷いた。
「仕方がありませんわ。瀬田さんもお忙しい身でいらっしゃいますもの。わたくしたちも店内を見物して楽しく過ごしておりましたわ。ねぇ、澄乃さん?」
「はい。色々と良いものを拝見いたしました」
澄乃が頷いたところにノックの音がして、給仕が大きな銀盆に茶器を載せて入ってきた。
白磁に青い花模様を描いた美しいティーセットだ。給仕は薫り高い紅茶をカップに注いで三人に出すと、ポットや砂糖壺、牛乳入れをテーブルに手際よく並べ、うやうやしく一礼して退出した。
篠田夫人は角砂糖をひとつ入れ、銀のスプーンで軽く混ぜると上品に口許へ運んだ。澄乃は牛乳を少し入れて飲んだ。ミルクティーは久しぶりだ。まろやかな味わいが、こわばった気持ちをやわらげてくれた。
瀬田は何も入れずに紅茶を一口飲むと、穏やかな声で切り出した。
「先ほど展示室で、ずいぶんと熱心に〈獅子図〉を御覧になっていたようですね」
