大正恋刺繍 ~押しかけ婿様の寡黙な溺愛~

 女学校ではつねに首席で、その装いも群を抜いて洗練されていた。取り巻きを従えて廊下を歩くだけで羨望と称讃のまなざしを集め、それを当然のものと涼しく受け流す。全校生徒の憧れの的とも言える存在だった。

 学年も違い、特別に親しかったわけではない。だが、同じ華族として互いに見知ってはいて、行き会えば会釈を交わすくらいの間柄だった。

「お会いするのは、わたくしの卒業以来になりますかしら。まさか、このようなところでお目にかかるなんて思いませんでしたわ」

 何気ない言い方にもかかわらず、棘を感じた。もちろん冴子は一条家の零落を知っている。華族であれば当然のことだ。

 冴子の連れの二人──年配の婦人と、冴子と同年代の令嬢──は、慎ましく距離を置きつつも、興味津々にこちらを窺っている。

 冴子は澄乃の写生帳に目敏く気付いた。

「あら、写生をしていらしたの?」

「ええ、まぁ……」

 見せろと言われたらどうしようかと焦ったが、冴子は軽く口角を上げただけだった。

「椿は美しいけれど、不吉な花とも言われますわね。花ごと落ちるので、武士は嫌ったとか……。橘様、いえ、一条様のお家は武家でしたわねぇ」

 皮肉をふくんだ口調にどきっとする。同時に朔也が冷然と応じた。

「椿を好む武士も大勢いましたよ。打ち首うんぬんはただの俗説です」

 冴子の微笑が、一瞬だけ険しくなる。

「……ごめんあそばせ。わたくし、頭が固いのですわね。なにせ我が家はたいそう(ふる)いものですから」

 謙遜のようで、その実、由緒正しい家柄であることを強調している。女学校時代、弁舌で冴子に敵う者はいなかった。口下手な澄乃など、言い返すことすらままならない。

「一条様も大変ですわねぇ。わざわざお勤めを休んでまで奥様に付き添わなければいけないなんて。入り婿はさぞ気苦労が多いでしょう」

 朔也はますます無表情になって、そっけなく答えた。

「誘ったのは私です。澄乃さんに、綺麗な椿を見てもらいたくて」

 冴子の視線が鋭くなる。朱を差した唇が、完璧な曲線を描いた。

「お睦まじくて結構ですこと」

 冴子は軽く顎を上げて婉然と微笑み、くるりと(きびす)を返して連れの婦人たちの元へ戻っていった。そのしぐさは澄乃が女学校でよく見かけた彼女のふるまいそのままだ。

 連れのふたりはこちらに会釈して冴子の後に続いた。そんな様子も女学校時代を思い出させる。上品な古代紫の道行が遠ざかってゆくのを、澄乃は黙って見送った。

「──行きましょう」

 朔也の声に頷き、冴子たちに背を向ける。

 なんとなく黙ったまま小径を進んでいくと、出口が見えてきた。澄乃は手に持ったままだった写生帳を手提げにしまった。

「もういいのですか」

 朔也に問われ、澄乃は頷いた。

「はい。もう充分描きました」

 じっと見つめられ、小さく苦笑する。