大正恋刺繍 ~押しかけ婿様の寡黙な溺愛~

「まぁ、そうでしたか」

「皆様に褒められましたわ。豪華な染めもいいですけれど、刺繍だと絹糸に光沢があるでしょう。澄乃さんの図案がまた素晴らしくて。それに、袖の松の刺繍とうまく調和して、まるで一幅の絵画のよう……なんて言われて。わたくし鼻が高うございましたわ」

「それはようございました」

 澄乃はほっとした。

 夫人に気に入ってもらえたのはもちろんのこと、それを見た人にも褒められたと聞けば素直に嬉しくなる。

 ところが夫人は急に肩を落として嘆息した。

「それで終わればよかったのですけど……」

「何か不備でもございましたか」

 不安になって身を乗り出すと、夫人は苦笑して手を振った。

「とんでもない。澄乃さんの刺繍は完璧ですわ。初釜の後、何人かのお友達と新橋の千疋屋に行きましたの。そうしたら、ちょうどそこに知り合いの奥様がいらしてね。その方が舶来物のレースの手巾(ハンケチ)を、澄まして取り出したものだから、皆様すっかり目を奪われてしまわれて……」

 篠田夫人はやるせなさそうに眉尻を垂れた。

「縁取りは仏蘭西(フランス)の最高級レースで、全体に薔薇が刺繍してありましたわ。蔓薔薇っていうのかしら。緑の枝がうねうねしていて、桃色の薔薇がたくさんついているの」

 夫人はお茶を一口飲んで、また嘆息した。

「そりゃあ、確かに素敵でしたわよ。それを認めないほど、わたくし野暮ではございません」

「……舶来品は人気がありますから」

 澄乃は控え目に言った。

 夫人の気持ちはわかる。

 訪問着を褒められて鼻高々だったのが、舶来品の手巾(ハンケチ)ふぜいに話題をさらわれておもしろくないのだろう。

「舶来というだけでありがたがってもてはやすのはどうかと思いますわ。皆様お着物なのに、レースをあんなにひらひらさせた手巾(ハンケチ)なんか膝に広げて……。なんだかちぐはぐですわ」

「さようでございますね」

 なだめるように同意しながら、別にかまわないのではと澄乃自身は感じていた。

 どんな手巾(ハンケチ)だったのか知らないが、篠田夫人が憤っているのは礼儀作法の問題ではないのだろう。

 注目や称賛をさらわれたのが気に食わないのだ。

 彼女は悪い人ではないのだけれど、だいぶ見栄っ張りなところがある。

「ですけれど、伝統的な古典柄をそのまま使っても今の時代にはねぇ。南天の刺繍は、とてもよかったのよ。でも裾だから、テーブル席で椅子に座ると全然目につかないし……。そこでわたくし、いいことを思いつきましたの」

 夫人が目を爛々とさせて身を乗り出したものだから、澄乃は気圧されそうになった。

「な、なんでしょう……」