大正恋刺繍 ~押しかけ婿様の寡黙な溺愛~

「お気に召していただけて、嬉しいですわ」

 ホッとして澄乃は微笑んだ。

 折よく給仕たちが現れた。ひとりが銀のスープ入れを持ち、もうひとりが蓋を開けると湯気とともに美味しそうな匂いが立ち上った。三人目が銀の長柄杓子で各自のスープ皿にコンソメスープを静かに注いでいく。

 久々の洋食なので少し緊張したが、手順に迷うほどではない。子どもの頃には洋食を作れる料理人が家にいたし、女学校でも改めてお作法を学んだ。

 久しぶりのコンソメスープはとても美味しかった。父にもこういうものを飲ませたい。自分で作れるだろうか。

 スープ皿が下げられると、修治郎は白い布ナフキンで軽く口許をぬぐい、斜め向かいの朔也に目を向けた。

「しばらく顔を見なかったが、変わりないか」

「問題ありません」

 淡々と朔也が返答すると、修治郎はフンと鼻息をついた。

「おまえの『問題ない』は昔から当てにならん」

 給仕がサラダを運んできて会話が途切れる。

 硝子の器に盛られたサラダにはレタスの上に胡瓜と蕪の薄切りが乗り、酸味のある白いソースがかかっている。

「朔也兄さんは、昔からこうなんですよ」

 サラダを口に運びながら道明が言い出した。

「熱が出ても『問題ない』、怪我をしても『支障ない』。本人が平然としてるもんだから、いっそう周りは慌てるんです」

「問題があるなら、はっきり言う」

「これだもんなぁ」

 はぁっと道明は嘆息し、訴えるように澄乃を見た。

「こういう人なので、朔也兄さんの言うことは義姉(ねえ)さんも信用しすぎないほうがいいですよ」

 突然の『義姉さん』呼びに思わず目を瞠る。

 修治郎がたしなめた。

「初対面でなれなれしいぞ」

「いや、僕は二回目なんで。あ、すみません。まだ早かったですかね」

 澄乃は急いでかぶりを振った。

「いいえ、そんなことは。そんなふうに呼ばれたことがないので、少し驚いてしまって……」

 聡子が取り持つように微笑む。

「道明さんは末っ子で、まだ学生だから子どもっぽいところがおありなの。悪気はありませんのよ」

「甘えているだけだ。二十五にもなって」

 容赦ない長兄の言葉に、道明はしゅんと肩をすぼめた。

 続いて白身魚のバター焼きが運ばれてきた。淡い焼き色のついた魚に刻んだパセリが散らされている。

 グラスに白葡萄酒が注がれた。

 澄乃はやわらかな舌平目にナイフを入れながら尋ねた。

「道明さんは医学校に通われているのでしたね」