大正恋刺繍 ~押しかけ婿様の寡黙な溺愛~

 一瞬、気後れしたが、会釈して腰を下ろした。

「ありがとうございます」

 朔也は軽く返礼すると自分の席に着いた。

 あまりに自然な動作だったので、かえってびっくりしてしまった。

 将校として、洋式の席にも慣れているのだろう。

 外地にいたこともあると聞いている。

 篤之は満足げに朔也を見やり、佐和に頷きかけた。

 控えていた佐和が給仕を始める。

 お櫃から布巾を外し、炊きたての御飯をよそい、各自の前に置いた。

「いただきます」

 篤之の言葉にふたりも唱和する。

 黒塗りの吸物椀の蓋を取ると、澄んだ出汁に浮いた手鞠麩(てまりふ)と三つ葉の香りがふわりと立ち上った。

 菊花かぶらの酢の物。

 こんがりと焼いて大根おろしを添えた(ぶり)の切り身。

 箸を入れるとほろりとほぐれ、脂の甘味が口中に広がった。

 旬のものはやはり美味しい。

 ここ数年は食費も切り詰めていたので、器は立派でも上に載っている魚は手頃な(さば)の切り身や(いわし)の丸干し、(あじ)の干物などが多かった。

 乏しい家計の中から佐和が懸命に遣り繰りしてくれたのだ。

 美味しそうに鰤を食べている父を見て澄乃は嬉しくなった。

 朔也への当惑はまだ消えていないけれど、この食卓を父に用意できたことだけは素直に感謝しなければ。

 向かいの朔也に目を向けると、彼は端正に箸を進めていた。

 祝言の時にも思ったが、元は武士だった旧家の出身だけあって、何をするにも折り目正しく所作が整っている。

 旧家の出というだけでなく、性格的なものなのだろう。

 軍人という職業も関係しているのかもしれない。

 佐和におかわりを頼む朔也を、篤之は好もしそうに眺めた。

 ねぎらいの口調で朔也に話しかける。

「今日は、いろいろと忙しかったろう。任せきりで申し訳ない」

「いえ」

 佐和から受け取った茶碗を置き、朔也は礼儀正しく篤之に目礼した。

「できる限りのことはしたいと思っております。どうぞ、お気になさらず」

 朔也は出された料理をきれいに平らげ、「ごちそうさまでした」と合掌した。

 佐和はなんだか嬉しそうだ。

 これからは、父とふたりきりではなく朔也が食卓に加わるのだと、澄乃は改めて考えてみた。

 厭ではない、と思った。

 厭ではないと感じられたことに、まず安堵した。

 これから生活を共にする相手なのだ。

 食事の仕方が癇に触るようではとてもやっていけそうにない。

 椅子を引いてくれた動作もごく自然で、押しつけがましさはなかった。

 あれだけ強引に、一方的に婿入りしてきたというのに、節度のある態度をけっして崩さない。

 変に武張(ぶば)ったところもなく、泰然としている。

 ふとしたことに気付くたび、不思議な人だと思う。

 だがその『不思議』の意味は、少しずつ変化しているようだった。