大正恋刺繍 ~押しかけ婿様の寡黙な溺愛~

「……っ」

「澄乃さん」

「は、はい……?」

「今夜から、こちらの部屋で休みませんか」

 耳元に落ちた低い声に、ぞくりと肌が粟立つ。

「え……」

「もともとここは主寝室だと聞きました」

「そ、そうです……けど……」

「つまり、夫婦のための部屋です。この家の夫婦は私たちだけ。ふたりで使ってもかまわないと、思いませんか?」

 彼の鼻先が、澄乃の耳裏を撫でる。匂いをかがれているようで、羞恥で全身がカーッと熱くなった。

 一昨日、初めて契りを交わしてからも、澄乃はそれまでの習慣どおりに自室でひとり休んでいた。何も考えなかったわけではない。ただ、当然のように主寝室へ移るのがどうにも気恥ずかしく……。

「……いやですか?」

 低く問われ、ぎゅっと目を閉じたままぷるぷるとかぶりを振る。かすかに朔也が笑う気配がした。

「では、今夜、湯浴みを終えたらこちらに来てください。これまでのように、扉を敲(たた)いてお知らせするだけではだめですよ」

「わ、わかりました……」

 必死の思いで答えると、いきなりくるんと身体を回されて、正面から顔を覗き込まれた。くす、と笑い声がして固く瞑(つぶ)っていた目をおそるおそる開けると、朔也が苦笑していた。

「泣かせてしまいましたか」

 囁いて、指先で目許をぬぐわれる。

「あ……。ち、違います。これは目を、きつく瞑り過ぎたせいで──」

 額に唇が落とされる。思わず肩をすくめると、涙をぬぐった指先で優しく頬を撫でられ、顎を掬い取られ……。気がつけば、唇が重なっていた。

 そっと合わされた唇が離れると同時に額がくっついて、ついばむように唇を吸われた。おずおずと彼の背に腕を回す。着物越しでも、しっかりした骨格としなやかな筋肉の手応えが伝わってくる。

 初めて身体を重ねたときの感触が、否応なく蘇った。