大正恋刺繍 ~押しかけ婿様の寡黙な溺愛~

「……っ!?」

「もう支度しないと」

「そ、そうですね」

「あなたはもう少し休んでいるといい」

 笑みを含んだ声音で囁き、朔也は身を起こした。

 寝台から下りた朔也は、洋服箪笥を開けると無造作に着替えを始めた。帯を解き、浴衣をはだけた瞬間、ハッとして澄乃は頭から布団をかぶった。

 昨夜、薄暗がりで目にした彼の裸身が目の前にちらちらする。ぎゅっと目を閉じ、身体を固くして、転げ回りたいような心情を懸命に押さえ込んでいると、そっと頭を撫でられた。

 布団から目だけ出して見上げると、朔也が微苦笑まじりに見下ろしていた。

「私は階下(した)の洗面室を使います。急がなくていいですから」

 こくんと頷くと、彼は澄乃の頭をもうひと撫でして部屋を出ていった。

 澄乃は布団を肩まで引き上げたまま身体を起こし、撫でられた頭に手をやった。

 子ども扱いされた……わけではないだろうが、親密なしぐさがなんだか嬉しい。

 部屋を見回すと、寝台の足元に自分の浴衣と丹前が置かれていた。澄乃が頭から布団をかぶって内心で身悶えしている間に、朔也が畳んでくれたらしい。

 なんだか申し訳なく恥ずかしい気分になる。

 そそくさと浴衣を羽織ると、昨夜の名残のような痛みが走って思わず肩をすくめる。また記憶が蘇りそうになり、赤面した澄乃は慌ててかぶりを振り、急いで部屋を出た。

 二階の洗面室で身繕いを済ませ、袷に着替える。毛糸のショールを羽織って階下へ下りた。

 ちょうど食堂から出てきた佐和と階段下で行き会った。

「おはようございます、お嬢様」

 いつものように丁寧にお辞儀をした佐和は、顔を上げると何故かじっと澄乃を見つめ、急ににっこりと破顔した。