「これが、この辺りの現風景だったものだ。」
白い防護服に身を包んだ男性が一枚の写真を手渡してくれた。
朝陽なのか、夕陽なのか…とにかく傾いた太陽を背に3人の少女がこちらに歩いて来る。
丁度、河川の遊歩道を歩いているのだろう、彼女達の奥には橋が架かり、そこを渡る人々が見える。
夏を思わせる雲に、カモメのような白い鳥が飛び交っている。
写真から視線を外して、周りを見渡す。
立っているこの地は、黒一色の岩石地。
向こうに見える土地は、地肌がむき出しに広がり、丘陵も見当たらない。
霞むように見えるのは、自然林なのか、ビル群なのか、それは判然としない。
「あの事故さえなければ、この子達にも、明るい未来があっただろうに…。」
男は深く溜息をついた。
重水素と三重水素をプラズマ化した上で、線形加速器内で衝突させ、常温核融合を目指す実験。
実験が成功すれば、ヘリウムと一つの中性子、そしてエネルギーが取り出されるはずであった。
実験は、プラズマ同士の衝突の瞬間までは成功していた。
しかし、衝突から5ミリ秒後、直径20mmの石炭袋が出現してしまう。
「実験によって、失ったものは多かったね。」
男はカンペを眺めながら、惨状を読み上げて行く。
「線形加速器が施設込みで消失…原発1基分の費用がオジャンってね。」
カンペを片手に肩を竦め
「施設従業員を始めとする関係者二百名前後が行方不明…まぁ、施設が消失している時点でお察しというところかな。
オマケに、変電変圧施設一式まで消し飛んで、そこで働いていたであろう電力会社従業員十数名も行方不明…。」
カンペを読み上げながら後頭部をかいている
「施設の消失に巻き込まれた街が一つ、衝撃波の影響で消し飛んだ街が一つ…それ以外の近隣自治体にも、家屋損壊など少なからず影響が及んでいて、行方不明者数は事故発生から半年が経過したにも関わらず、今でも数千人単位で膨らむ一方。」
そう言って、辺りをゆっくり見渡した男。
「地軸のズレから始まる、天候や四季の激変と地震に代表される地殻活動の極端な活性化等、地球そのものへの影響。」
足元の地面に視線を落とし
「大半の衛星群も軌道を見失い、あるものは落下、あるものは衝突、あるものはスイングバイで遠くに旅立ってしまい、衛星即位システム等は完全に機能不全に陥り、気象は勿論、通信衛星の消失により通信障害が全世界に拡散し混迷と混乱を巻き起こしている。」
天を仰いだ
「そして、未だに公開されていない秘密…。」
そう言って、防護服越しにニヤリと笑う男。
出現した石炭袋は40秒後に蒸発している。
しかし、石炭袋が発生した事実は隠蔽されているままだ。
石炭袋発生中は、線形加速器などを始めとする各種施設、および、近隣空間の地表や大気が事象の地平面を乗り越えていった。
石炭袋蒸発後、消えた空間を埋め合わせるように地面からはマグマが溢れ、梅雨時の湿気を帯びた大気も急激に流れ込む。
圧縮された大気から搾り出された水と、こちらも熱っせられ暴発寸前のマグマ…その二つが触れ合えば、短時間で水は蒸発し、気体の体積も一気に膨張を始める。
そう、盛大過ぎる水蒸気爆発が発生してしまったのだ。
その威力は凄まじく、爆発に伴う爆炎だけで一つの街が消し飛んでしまった。
そして衝撃波は辺り一面に拡散し、多数の建物の倒壊も招いている。
眼前に広がる風景こそ、水蒸気爆発の結果の全てなのだ。
「さて、石炭袋に引き込まれた魂は、どうなるんでしょうね?
永遠の暗闇で悶絶するしかないのでしょうか?
それとも…」
そう言うと、哀愁感たっぷりの表情で男はゆっくりと空を見上げるのだった。
白い防護服に身を包んだ男性が一枚の写真を手渡してくれた。
朝陽なのか、夕陽なのか…とにかく傾いた太陽を背に3人の少女がこちらに歩いて来る。
丁度、河川の遊歩道を歩いているのだろう、彼女達の奥には橋が架かり、そこを渡る人々が見える。
夏を思わせる雲に、カモメのような白い鳥が飛び交っている。
写真から視線を外して、周りを見渡す。
立っているこの地は、黒一色の岩石地。
向こうに見える土地は、地肌がむき出しに広がり、丘陵も見当たらない。
霞むように見えるのは、自然林なのか、ビル群なのか、それは判然としない。
「あの事故さえなければ、この子達にも、明るい未来があっただろうに…。」
男は深く溜息をついた。
重水素と三重水素をプラズマ化した上で、線形加速器内で衝突させ、常温核融合を目指す実験。
実験が成功すれば、ヘリウムと一つの中性子、そしてエネルギーが取り出されるはずであった。
実験は、プラズマ同士の衝突の瞬間までは成功していた。
しかし、衝突から5ミリ秒後、直径20mmの石炭袋が出現してしまう。
「実験によって、失ったものは多かったね。」
男はカンペを眺めながら、惨状を読み上げて行く。
「線形加速器が施設込みで消失…原発1基分の費用がオジャンってね。」
カンペを片手に肩を竦め
「施設従業員を始めとする関係者二百名前後が行方不明…まぁ、施設が消失している時点でお察しというところかな。
オマケに、変電変圧施設一式まで消し飛んで、そこで働いていたであろう電力会社従業員十数名も行方不明…。」
カンペを読み上げながら後頭部をかいている
「施設の消失に巻き込まれた街が一つ、衝撃波の影響で消し飛んだ街が一つ…それ以外の近隣自治体にも、家屋損壊など少なからず影響が及んでいて、行方不明者数は事故発生から半年が経過したにも関わらず、今でも数千人単位で膨らむ一方。」
そう言って、辺りをゆっくり見渡した男。
「地軸のズレから始まる、天候や四季の激変と地震に代表される地殻活動の極端な活性化等、地球そのものへの影響。」
足元の地面に視線を落とし
「大半の衛星群も軌道を見失い、あるものは落下、あるものは衝突、あるものはスイングバイで遠くに旅立ってしまい、衛星即位システム等は完全に機能不全に陥り、気象は勿論、通信衛星の消失により通信障害が全世界に拡散し混迷と混乱を巻き起こしている。」
天を仰いだ
「そして、未だに公開されていない秘密…。」
そう言って、防護服越しにニヤリと笑う男。
出現した石炭袋は40秒後に蒸発している。
しかし、石炭袋が発生した事実は隠蔽されているままだ。
石炭袋発生中は、線形加速器などを始めとする各種施設、および、近隣空間の地表や大気が事象の地平面を乗り越えていった。
石炭袋蒸発後、消えた空間を埋め合わせるように地面からはマグマが溢れ、梅雨時の湿気を帯びた大気も急激に流れ込む。
圧縮された大気から搾り出された水と、こちらも熱っせられ暴発寸前のマグマ…その二つが触れ合えば、短時間で水は蒸発し、気体の体積も一気に膨張を始める。
そう、盛大過ぎる水蒸気爆発が発生してしまったのだ。
その威力は凄まじく、爆発に伴う爆炎だけで一つの街が消し飛んでしまった。
そして衝撃波は辺り一面に拡散し、多数の建物の倒壊も招いている。
眼前に広がる風景こそ、水蒸気爆発の結果の全てなのだ。
「さて、石炭袋に引き込まれた魂は、どうなるんでしょうね?
永遠の暗闇で悶絶するしかないのでしょうか?
それとも…」
そう言うと、哀愁感たっぷりの表情で男はゆっくりと空を見上げるのだった。

