君に捧げる特製スイーツ~初恋はレシピ通りにはいかないけど~



 スイーツ部の活動日。
 唯一の男子のオレは、今日も女子達と、せっせと美味しいスイーツ作りに励んでいた。
 すると、ノックが響いて、「お邪魔しまーす」と聞き慣れた声。
 えっ。と振り返ると、案の定、翔斗だった。
 タオルを首にひっかけた絶賛片思い中のイケメンが、調理室に入ってきた。

 顔を洗ってきたのか、タオルを肩にかけたまま。ちょっと前髪濡れてて、カッコいい。
 オレは、ドアの近くまで急いでむかえて、翔斗を見上げた。周りの女子がなにやらとてもきゃっきゃっとはしゃぎだす。
 
「翔斗、どしたの?」
「今日サッカー部、すげー早く終わった。なんか野球部が明日試合だから広く使いたいとか言ってさ。澪が終わるまでここで待ってていい?」
「え? ここで?」
「いつも澪がサッカー部見学してるだろ。だから、オレも、スイーツ部見学しようと思って。いいかなあ?」

  いや、スイーツ部を見学って何……と思ったのだけれど、そんなことを言って、周りを見た翔斗にこいつに、女子は皆、きゃー、と喜んで、挨拶しにきたり、翔斗のために椅子を出したりしてる。

 翔斗がイケメンっていうのもあるとは思うけど、オレの気持ちがすっかりバレてる女子部員たちは、ライバルというよりは……この状況の、観客? みたいな気がする。すげー楽しそう……。
 苦笑いしながら、皆がきゃっきゃっと楽しそうなのを見て、言葉が出ない。

「手洗わせて」

 そう言った翔斗に、案内しようとしたら「こちらどうぞー!」と、テンション高い女子達。すげー浮かれてる……。
 翔斗は手を洗い終えると、出された椅子には座らず、オーブンの前にいるオレの隣に来た。

「お菓子、焼けた?」
「うん。ちょうど今、焼けたとこなんだけど。まだ熱いよ」
「ふーん……マドレーヌ、だっけ?」
「これはマフィン」

 ふふ、と笑いながら答える。

「何が違うの?」
「んー。材料は大体同じかな。形も違うし。卵をねね白身だけ使うとか、全部使うとかの違いとか。バターの使い方も違かったり」
「そうなのか。詳しいなー」
「作ってるからね」

 全部、翔斗のためにね。なんて心の中で思いながら、焼き立てのマフィンを取り出す。
 いつも、おいしそうに食べてくれるだけで、嬉しい。

「食べたい?」
「食べたい」

 まだ熱いかなぁ、と手に持って、包みをぴりぴりと開けていると。
 ぐ、と手首を掴まれて、え。と思ってる間に引かれて、そのまま、ぱく、と食いつかれた。

「――――っ」

 っ絶対赤くなってる、オレ。
 オレは、間近のカッコよすぎる顔に、硬直。

 すると、翔斗がちょっと目を細めた。

「あち」
「え、熱かった?」

 焦ったオレに、「……嘘」と翔斗が笑う。
 クスクス笑って、その至近距離のまま。

「すげーうまい」

 ニッと笑われて、もはや息も止まる。

 ちかいってば……!

 遠巻きに、密かに、きゃーきゃー、と騒いでる女子達。ていうか、密かに、は大きくはみ出ていると思うけれど。
 うう。今黙っててほしい。もっと恥ずかしくなるから。

「っ……はい、食べてて、いいから」

 オレが手に持ってたマフィンを渡して、「片付けてくるから」と言うと、ん、と笑顔で頷く。

 くっそー、ほんとカッコいいな。あ、飲み物出してあげようか、と気づいて、お茶を飲むか聞こうと振り返ると、超気の利く女子達が、翔斗が座った机に、もう飲み物を持っていこうとしていた。
 なにやら楽しそうに翔斗と話している。

 ――モテモテだなあ。ほんとに。
 まあもう、カッコいいもんね。仕方ない。

 そんなことを思いながら、オーブンの台を洗い始める。オーブンは複数台あって使うから、結構この大きいのが何枚もある。
 しばらく洗っていると、隣から、翔斗の声。

「手伝おっか」
 いつの間にか隣に立って、そんなことを言う。

「え、いいよ」
「オレ流すから」
「ん。……ありがと」

 オレが洗うのを受け取って、水で流してくれる。……なんか楽しい。

「これもしかして、お前がいつも洗ってんの?」
「ん。これ結構重いし。オレ洗うよって言ってる」
「……ふうん」

 二人で洗い終えて、「ありがと」と言った翔斗に、よしよし、と撫でられた。

「え」
 オレが完全に固まる。
 周りの女子たちは、きゃ、と言いかけて、今度は止まった。
 邪魔しちゃだめだ、みたいな雰囲気がひしひしと。皆、口押さえてるし。

 いやむしろ、今こそ、きゃーきゃー言っててほしい。

「いつも、ありがとな」

 ふ、と笑うと、「あとなにか手伝うことある?」と聞いてくる。「すぐ終わるから座ってて」と言うしかできない。

「分かった。待ってる」

 また翔斗はテーブルに戻っていく。うう。なんなん、もう。 ……もうほんと、なんなんだ。
 大好きになりすぎちゃうから、やめてほしいんだけど……。
 なんて考えながら、片づけを終えた。

 これから、イイ感じに冷めたマフィンと紅茶で、皆で食べる時間なんだけど。
 ……まあオレはいつもそこは抜けて、翔斗のサッカー見に行っちゃうんだけど。

 オレが片付け終えたのを見た翔斗は、オレの隣に立って、オレの方に手を回した。

「こいつ、もう連れて帰っていい?」

 皆は「どーぞどーぞ連れ帰って」と、超笑顔。「帰ろ」と翔斗がオレを見て笑う。
 オレはもう言うがまま、エプロンを外して、帰る支度をした。

「じゃあ、お先に、です」

 オレが言うと、揃って皆、ハイテンションで何か言ってる。バイバイとかお疲れとかその他聞き取れないけど、すごく色々。

「よし、帰ろ」

 優しい声でオレに言ってから、皆にも「お邪魔しましたー」と声をかける。
 二人で部屋を出ると、少し間をおいて、中が一気に騒がしくなった。びくっと震えて、振り返り、翔斗と顔を見合わせてしまう。

「なんか、スイーツ部って、楽しそうだな。皆、テンション高い」

 翔斗はクスクス笑ってるけど。さすがにいつもはこんなじゃない。

「……イケメンが来たからだよ」

 まあ今騒がしいのはそれだけじゃないと思うけど。次の部活、絶対いろいろからかわれる―。
 まあもうばれちゃってるからなぁ……。
 何で男子一人なのに入ったんだって話になって、幼なじみに食べさせたいからとか、つい正直に言っちゃったら、なんかもう知らない間に勝手に片思い確定してて、応援され続けているのだ。

「エプロン姿、すげえ良いな」
「ん? ……ああ。エプロンしてるとなんか、女子っぽくて可愛いよね」

 普通に答えると、変な顔をして見られて、ん? と首を傾げると。

「澪のことだけど」

 と、頭をまたポンポンされて、数秒置いて、真っ赤になってしまう。
 ふ、と笑う翔斗に、「からかわないでよ」と言うと、優しく微笑まれる。

「からかってないし。似合ってたし」

 クスクス笑われながら、背中にぽんぽん、と触れられる。
 ――もう翔斗には、どうやっても、なにも勝てないな。そう思いながら。

 あー。
 次の部活だけは、休んで、時間おきたいかも……なんて思ってしまった。