五分ほど走ったところでメアリーの姿が見えた。
「い、いくぞっ、ファイアーデトネーション!」
火球が撃ち出された。
拳大のサイズで、速度はそれなりに出ている。
獣が食らいつくようにして、獲物に着弾……爆発した。
紅蓮の炎が吹き荒れる。
数百度に達するであろう高熱の炎が渦を巻いて、対象を焼き払う。
熱波がこちらまで届いてきた。
これが魔法の力だ。
非常に強力な力を秘めていて、無から有を生み出すことができる。
神の御業といってもいいだろう。
「ほうほう」
ヒカリが感心するような声をあげた。
現代の魔法の力を見て、感心しているみたいだ。
シャルアクと戦った時に、攻撃魔法は目にしていたのだけど……
あの時は決闘の最中だから、気にする余裕はなかったのだろう。
「あの人、なかなかやりますね。あれでFランクというのなら大したものですね」
「それだけ魔法の力が優れている、ってことだ」
「ですが……あれでは足りませんね」
やがて、炎の渦が晴れる。
その中から、巨大な体を持つ魔物が姿を見せる。
闘牛の全身をさらに筋肉で覆い、直立歩行させたような姿をしていた。
丸太のような太さを持つ腕で、巨大な戦斧を手にしている。
ミノタウロス。
Cランクの魔物だ。
討伐するには、同じくCランク並の力が……
あるいは、複数のDランクの冒険者が必要と言われている。
その豪腕から繰り出す攻撃は、一撃で人を死にいたらしめる。
並の魔法使いでは、結界は簡単に破壊されてしまうし……
なによりも驚異なのは、高い魔法耐性を持っているということだ。
下級魔法はほぼ無効化してしまい、中級魔法以上でないとダメージを与えることができない。
メアリーが使用したファイアーデトネーションは下級魔法なので、ミノタウロスに傷らしい傷は見当たらない。
軽く皮膚は焦げた程度だ。
怒りを買うだけに終わり、メアリーは絶望的な表情を浮かべた。
「ふむ。なぜ、こんなところにミノタウロスが……?」
ダンジョンの1層は雑魚しかいないはずだ。
最下級のFランクの魔物のみ。
家を出る前に、ダンジョンについての予習をしたが……稀にEランクの魔物が紛れ込むだけで、Cランクのミノタウロスが現れたなんて話、聞いたことがない。
「マスター、どうしますか?」
ヒカリに問いかけられて我に返る。
考えるのは後回しにしないといけないか。
「正直なところ、ミノタウロスが相手だと苦戦するかもしれません……逃げますか? それとも、応援を呼びに行いきますか? どちらにしても、あの人たちは助かりませんが……まあ、仕方ないですね。ダンジョンに挑む以上、命を落とす覚悟はしているでしょう」
「いや。助けよう」
「え?」
「いくらなんでも、助けられる命を見捨てるのは後味が悪い。気に食わないヤツだが、助けることにしよう」
「あんな人のために命を賭けるのですか?」
「そこまでがんばるつもりはない」
「命を賭けるつもりはないけど、ミノタウロスと戦う……? えっと……私はマスターがなにを言いたいか、よくわからないのですが?」
「時間がない。ヒカリ、頼めるか?」
「は、はい。構いませんが……」
不思議そうな顔をしながらも、ヒカリは剣になってくれた。
俺は剣を手にして、ミノタウロスに向けて駆ける。
「おおおおおぉっ!」
あえて声をあげて、ミノタウロスの注意をこちらに向けた。
ミノタウロスは戦斧を振り上げて、俺を迎撃しようとした。
ゴォッ!!!
直上からの一撃。
大地を断つような勢いで戦斧が振り下ろされた。
俺は剣を盾のように構えて……
戦斧が触れた瞬間、斜めに傾ける。
傾けた刃に沿わせるようにして、戦斧を受け流した。
戦斧は床に流れて、ミノタウロスの体勢が崩れた。
その隙を見逃すようなことはしない。
剣を鞘に戻して、前かがみになるように構えた。
「一之太刀……疾風!」
一閃。
力だけではなくて、速度も乗せた超速の一撃。
ミノタウロスの首が吹き飛んだ。
やや遅れて胴体が地面に倒れて……その体が魔石に変化した。
「……え?」
ぼんっ、という音と共にヒカリが擬人化をして、目を丸くした。
少し離れたところにいるメアリーも唖然としていた。
「えっと……マスター? 今、なにをしたのですか……?」
「なに、って……ヒカリは一緒に戦っていたんだから、わかるだろう? ミノタウロスの首を切り落とした。それだけだ」
「それだけ、って……ミノタウロスはCランクの魔物ですよ? 魔法に高い耐性を持っていて……それだけではなくて、その体も鉄のように硬いです。なので、いくらマスターでも苦戦は必須と思ったのですが……あんなにもあっさりと。しかも、一撃で倒してしまうなんて……マスターは、想定していた以上にすさまじい力を持っているんですね」
「俺の力なんて大したことないさ。魔法を使えない、落ちこぼれの剣士であることは間違いないからな。ミノタウロスを倒すことができたのは、ヒカリの力によるものが大きいだろう」
「いえいえいえ。いくら私でも、ミノタウロスを一撃で倒すことなんてできませんからね? いえ、本気を出せば可能ですが、今は7割の機能がロックされている状態ですし……」
「この前、ナイフを簡単に斬っていたじゃないか」
「あれは薄いからできたのです。ミノタウロスは鉄の塊みたいなものなので、さすがに無理ですよ。それなのに、どうして……? そういえば、技のようなものを使っていましたが、アレは?」
「抜刀術だ。超高速の一撃を叩き込む、必殺技だ。力だけではなくて速度もプラスされるから、切れ味が何倍、何十倍にも上昇する」
「な、なるほど……そんなトンデモ技を身に着けていたのですね。もしかして、それも漫画で覚えて……?」
「よくわかったな。そのとおりだ」
「マスターは、私が思っていた以上にとんでもないですね……これからは、トンデモ剣士と呼びましょうか……?」
「俺は普通の剣士だぞ?」
「ぜんぜん普通じゃないですから」
ツッコミを入れられてしまう。
最近、このパターンが多いような気がした。
「ひとまず、この話は置いておいて……おい、大丈夫か?」
メアリーに声をかけた。
見た目、怪我をしているようには見えない。
「そ、そんな……あのミノタウロスを一撃で……? しかも、魔法を使わずに剣で倒した……? そんなバカなことが……いや、でもこの目でしっかりと見て……幻覚? いや、そんなことは……」
「おい、大丈夫か?」
なにやらブツブツとつぶやいていた。
恐怖で気が触れてしまったのだろうか?
「おいこら、聞いているのか?」
「えっ?」
パチパチと軽く頬を叩いてやると、ようやくメアリーがこちらを見た。
「大丈夫か?」
「あ、うん……大丈夫だよ。問題ないと思う」
「ならよかった。それで……なにがあったんだ?」
「なにが……って?」
「ミノタウロスだよ。1層にミノタウロスが出るなんて聞いたことがない。異常事態だ。なにかしらおかしな現象を目撃したとか……心当たりはないのか?」
「そ、それは……」
メアリーが気まずそうな顔をした。
まるで、いたずらがバレた子供みたいだ。
「心当たりがあるんだな? しかも、お前が原因と見た」
「うっ……」
「答えろ」
「……わ、わかったよ、素直に答えるよ。手っ取り早く功績を立てようとして、その……蠱毒の法を使ったんだ」
「こどくのほう? 魔法の一種なのでしょうか?」
ヒカリが不思議そうな顔をした。
「外法と呼ばれるタイプの魔法だ。複数の魔物を生贄にして、強力な魔物を生み出すことができる」
「なかなかえげつない魔法ですね」
「禁呪に指定されている。普通は、Eランクが使えるような魔法じゃないが……なぜメアリーが?」
「たまたま、蠱毒の法の効果を持つ魔道具を手に入れたんだ。それで、手柄というか、名声を手に入れようと思って……でも……」
「ミノタウロスっていう予想以上の大物が飛び出した、っていうわけか。納得だ」
話の筋は通っているし、メアリーがウソをついている様子もない。
想像もできないような異常事態ではないと判明して、安心した。
「蠱毒の法を使うなんて、バカなことをしたな。こいつは強い魔物を生み出すが、そのせいでダンジョン内の魔物の生態系を崩すことがある。そうなると、強い魔物が上層で湧くようになったり……最悪、魔物の山が出現するスタンピードが発生するんだぞ。知っていたのか?」
「そ、そんなことが……」
そのことは知らなかったらしく、メアリーは愕然とした顔になる。
ウソはついていないみたいだ。
それなら、強く責めるのも酷というものか。
「わ、私をどうするつもりなの……?」
「うん?」
「禁呪を無断で使用した者には罰が与えられる……ギルドに報告すれば、許可証は一発で剥奪されちゃう……キミは、私をどうするつもりなの?」
「別になにも?」
「……え?」
メアリーがぽかんとした。
それに構うことなく、俺はミノタウロスの魔石を回収した。
さすがにCランクの魔物だけあり、魔石のサイズは大きい。
ずしりとした感触がある。
3キログラム……というところか?
「俺は運がいいな。まさか、ダンジョンの攻略初日で、30万も稼げるなんて思ってもいなかった。取り分は俺が9で、お前が1でいいな?」
「え? え?」
「なんだ、不満なのか? ミノタウロスを召喚したのはお前だから、少しは分け前はやるが……でも、お前の命を助けて、ミノタウロスを倒したのは俺だ。9対1が妥当なところだと思うが……」
「そ、そうじゃなくて……私をギルドに突き出さないの?」
「しない。面倒事は嫌いだ。それに、反省しているんだろう? なら、これ以上とやかく言う必要はない」
「……」
メアリーはぽかんとして……
ややあって、ポロポロと涙を流し始めた。
「な、なんていう人なんだろう……バカな私を咎めないで、その罪を見逃して、更生の機会を与えてくれるなんて……」
「マスターはそこまで考えていないと思いますよ」
「そこ、うるさいぞ」
ヒカリがこそこそとささやくので、睨みつけてやる。
すると明後日の方向を見て、ひゅーひゅーと口笛を吹く真似をした。
「くっ……私は自分が恥ずかしいよ! 魔法が使えるっていうだけの理由で、キミほどの力を持つ剣士を侮辱しちゃうなんて……過去の自分に出会えるなら、その場で殴り倒してやりたいくらいだよ! ごめんなさいっ、本当にごめんなさい!!!」
「あー……そんなに気にするな。間違いは誰にでもあるものだから……な?」
「でも、私は自分が許せないよ……! 力があるとうぬぼれて……いや、それだけじゃないよ。それ以前の問題だ。私はキミみたいな高潔な心は持っていない……最初から、人としての格が違っていたということだね……くっ、それなのになんて態度を!」
「えっと……俺の話、聞いているか? ホント、そんなえらい人間じゃないからな、俺は?」
「照れていますね」
「だからそこ、うるさいぞ」
ヒカリがニヤニヤと笑っていた。
ちょっと腹立たしいものの……
ヒカリと話をしていると、不思議と和んだ。
思えば、こんな風に気軽に話をしたことがなかった。
誰も彼も俺を落ちこぼれと蔑み、哀れみ……
まともな会話が成立したことがない。
でも、ヒカリは違う。
普通に話をしてくれて……
ありのままの俺を見てくれている。
「……仲間っていうのも、悪くないかもな」
「はい? 今、なにか言いましたか?」
「なんでもない」
照れくさい気持ちになり、適当にごまかすのだった。
「い、いくぞっ、ファイアーデトネーション!」
火球が撃ち出された。
拳大のサイズで、速度はそれなりに出ている。
獣が食らいつくようにして、獲物に着弾……爆発した。
紅蓮の炎が吹き荒れる。
数百度に達するであろう高熱の炎が渦を巻いて、対象を焼き払う。
熱波がこちらまで届いてきた。
これが魔法の力だ。
非常に強力な力を秘めていて、無から有を生み出すことができる。
神の御業といってもいいだろう。
「ほうほう」
ヒカリが感心するような声をあげた。
現代の魔法の力を見て、感心しているみたいだ。
シャルアクと戦った時に、攻撃魔法は目にしていたのだけど……
あの時は決闘の最中だから、気にする余裕はなかったのだろう。
「あの人、なかなかやりますね。あれでFランクというのなら大したものですね」
「それだけ魔法の力が優れている、ってことだ」
「ですが……あれでは足りませんね」
やがて、炎の渦が晴れる。
その中から、巨大な体を持つ魔物が姿を見せる。
闘牛の全身をさらに筋肉で覆い、直立歩行させたような姿をしていた。
丸太のような太さを持つ腕で、巨大な戦斧を手にしている。
ミノタウロス。
Cランクの魔物だ。
討伐するには、同じくCランク並の力が……
あるいは、複数のDランクの冒険者が必要と言われている。
その豪腕から繰り出す攻撃は、一撃で人を死にいたらしめる。
並の魔法使いでは、結界は簡単に破壊されてしまうし……
なによりも驚異なのは、高い魔法耐性を持っているということだ。
下級魔法はほぼ無効化してしまい、中級魔法以上でないとダメージを与えることができない。
メアリーが使用したファイアーデトネーションは下級魔法なので、ミノタウロスに傷らしい傷は見当たらない。
軽く皮膚は焦げた程度だ。
怒りを買うだけに終わり、メアリーは絶望的な表情を浮かべた。
「ふむ。なぜ、こんなところにミノタウロスが……?」
ダンジョンの1層は雑魚しかいないはずだ。
最下級のFランクの魔物のみ。
家を出る前に、ダンジョンについての予習をしたが……稀にEランクの魔物が紛れ込むだけで、Cランクのミノタウロスが現れたなんて話、聞いたことがない。
「マスター、どうしますか?」
ヒカリに問いかけられて我に返る。
考えるのは後回しにしないといけないか。
「正直なところ、ミノタウロスが相手だと苦戦するかもしれません……逃げますか? それとも、応援を呼びに行いきますか? どちらにしても、あの人たちは助かりませんが……まあ、仕方ないですね。ダンジョンに挑む以上、命を落とす覚悟はしているでしょう」
「いや。助けよう」
「え?」
「いくらなんでも、助けられる命を見捨てるのは後味が悪い。気に食わないヤツだが、助けることにしよう」
「あんな人のために命を賭けるのですか?」
「そこまでがんばるつもりはない」
「命を賭けるつもりはないけど、ミノタウロスと戦う……? えっと……私はマスターがなにを言いたいか、よくわからないのですが?」
「時間がない。ヒカリ、頼めるか?」
「は、はい。構いませんが……」
不思議そうな顔をしながらも、ヒカリは剣になってくれた。
俺は剣を手にして、ミノタウロスに向けて駆ける。
「おおおおおぉっ!」
あえて声をあげて、ミノタウロスの注意をこちらに向けた。
ミノタウロスは戦斧を振り上げて、俺を迎撃しようとした。
ゴォッ!!!
直上からの一撃。
大地を断つような勢いで戦斧が振り下ろされた。
俺は剣を盾のように構えて……
戦斧が触れた瞬間、斜めに傾ける。
傾けた刃に沿わせるようにして、戦斧を受け流した。
戦斧は床に流れて、ミノタウロスの体勢が崩れた。
その隙を見逃すようなことはしない。
剣を鞘に戻して、前かがみになるように構えた。
「一之太刀……疾風!」
一閃。
力だけではなくて、速度も乗せた超速の一撃。
ミノタウロスの首が吹き飛んだ。
やや遅れて胴体が地面に倒れて……その体が魔石に変化した。
「……え?」
ぼんっ、という音と共にヒカリが擬人化をして、目を丸くした。
少し離れたところにいるメアリーも唖然としていた。
「えっと……マスター? 今、なにをしたのですか……?」
「なに、って……ヒカリは一緒に戦っていたんだから、わかるだろう? ミノタウロスの首を切り落とした。それだけだ」
「それだけ、って……ミノタウロスはCランクの魔物ですよ? 魔法に高い耐性を持っていて……それだけではなくて、その体も鉄のように硬いです。なので、いくらマスターでも苦戦は必須と思ったのですが……あんなにもあっさりと。しかも、一撃で倒してしまうなんて……マスターは、想定していた以上にすさまじい力を持っているんですね」
「俺の力なんて大したことないさ。魔法を使えない、落ちこぼれの剣士であることは間違いないからな。ミノタウロスを倒すことができたのは、ヒカリの力によるものが大きいだろう」
「いえいえいえ。いくら私でも、ミノタウロスを一撃で倒すことなんてできませんからね? いえ、本気を出せば可能ですが、今は7割の機能がロックされている状態ですし……」
「この前、ナイフを簡単に斬っていたじゃないか」
「あれは薄いからできたのです。ミノタウロスは鉄の塊みたいなものなので、さすがに無理ですよ。それなのに、どうして……? そういえば、技のようなものを使っていましたが、アレは?」
「抜刀術だ。超高速の一撃を叩き込む、必殺技だ。力だけではなくて速度もプラスされるから、切れ味が何倍、何十倍にも上昇する」
「な、なるほど……そんなトンデモ技を身に着けていたのですね。もしかして、それも漫画で覚えて……?」
「よくわかったな。そのとおりだ」
「マスターは、私が思っていた以上にとんでもないですね……これからは、トンデモ剣士と呼びましょうか……?」
「俺は普通の剣士だぞ?」
「ぜんぜん普通じゃないですから」
ツッコミを入れられてしまう。
最近、このパターンが多いような気がした。
「ひとまず、この話は置いておいて……おい、大丈夫か?」
メアリーに声をかけた。
見た目、怪我をしているようには見えない。
「そ、そんな……あのミノタウロスを一撃で……? しかも、魔法を使わずに剣で倒した……? そんなバカなことが……いや、でもこの目でしっかりと見て……幻覚? いや、そんなことは……」
「おい、大丈夫か?」
なにやらブツブツとつぶやいていた。
恐怖で気が触れてしまったのだろうか?
「おいこら、聞いているのか?」
「えっ?」
パチパチと軽く頬を叩いてやると、ようやくメアリーがこちらを見た。
「大丈夫か?」
「あ、うん……大丈夫だよ。問題ないと思う」
「ならよかった。それで……なにがあったんだ?」
「なにが……って?」
「ミノタウロスだよ。1層にミノタウロスが出るなんて聞いたことがない。異常事態だ。なにかしらおかしな現象を目撃したとか……心当たりはないのか?」
「そ、それは……」
メアリーが気まずそうな顔をした。
まるで、いたずらがバレた子供みたいだ。
「心当たりがあるんだな? しかも、お前が原因と見た」
「うっ……」
「答えろ」
「……わ、わかったよ、素直に答えるよ。手っ取り早く功績を立てようとして、その……蠱毒の法を使ったんだ」
「こどくのほう? 魔法の一種なのでしょうか?」
ヒカリが不思議そうな顔をした。
「外法と呼ばれるタイプの魔法だ。複数の魔物を生贄にして、強力な魔物を生み出すことができる」
「なかなかえげつない魔法ですね」
「禁呪に指定されている。普通は、Eランクが使えるような魔法じゃないが……なぜメアリーが?」
「たまたま、蠱毒の法の効果を持つ魔道具を手に入れたんだ。それで、手柄というか、名声を手に入れようと思って……でも……」
「ミノタウロスっていう予想以上の大物が飛び出した、っていうわけか。納得だ」
話の筋は通っているし、メアリーがウソをついている様子もない。
想像もできないような異常事態ではないと判明して、安心した。
「蠱毒の法を使うなんて、バカなことをしたな。こいつは強い魔物を生み出すが、そのせいでダンジョン内の魔物の生態系を崩すことがある。そうなると、強い魔物が上層で湧くようになったり……最悪、魔物の山が出現するスタンピードが発生するんだぞ。知っていたのか?」
「そ、そんなことが……」
そのことは知らなかったらしく、メアリーは愕然とした顔になる。
ウソはついていないみたいだ。
それなら、強く責めるのも酷というものか。
「わ、私をどうするつもりなの……?」
「うん?」
「禁呪を無断で使用した者には罰が与えられる……ギルドに報告すれば、許可証は一発で剥奪されちゃう……キミは、私をどうするつもりなの?」
「別になにも?」
「……え?」
メアリーがぽかんとした。
それに構うことなく、俺はミノタウロスの魔石を回収した。
さすがにCランクの魔物だけあり、魔石のサイズは大きい。
ずしりとした感触がある。
3キログラム……というところか?
「俺は運がいいな。まさか、ダンジョンの攻略初日で、30万も稼げるなんて思ってもいなかった。取り分は俺が9で、お前が1でいいな?」
「え? え?」
「なんだ、不満なのか? ミノタウロスを召喚したのはお前だから、少しは分け前はやるが……でも、お前の命を助けて、ミノタウロスを倒したのは俺だ。9対1が妥当なところだと思うが……」
「そ、そうじゃなくて……私をギルドに突き出さないの?」
「しない。面倒事は嫌いだ。それに、反省しているんだろう? なら、これ以上とやかく言う必要はない」
「……」
メアリーはぽかんとして……
ややあって、ポロポロと涙を流し始めた。
「な、なんていう人なんだろう……バカな私を咎めないで、その罪を見逃して、更生の機会を与えてくれるなんて……」
「マスターはそこまで考えていないと思いますよ」
「そこ、うるさいぞ」
ヒカリがこそこそとささやくので、睨みつけてやる。
すると明後日の方向を見て、ひゅーひゅーと口笛を吹く真似をした。
「くっ……私は自分が恥ずかしいよ! 魔法が使えるっていうだけの理由で、キミほどの力を持つ剣士を侮辱しちゃうなんて……過去の自分に出会えるなら、その場で殴り倒してやりたいくらいだよ! ごめんなさいっ、本当にごめんなさい!!!」
「あー……そんなに気にするな。間違いは誰にでもあるものだから……な?」
「でも、私は自分が許せないよ……! 力があるとうぬぼれて……いや、それだけじゃないよ。それ以前の問題だ。私はキミみたいな高潔な心は持っていない……最初から、人としての格が違っていたということだね……くっ、それなのになんて態度を!」
「えっと……俺の話、聞いているか? ホント、そんなえらい人間じゃないからな、俺は?」
「照れていますね」
「だからそこ、うるさいぞ」
ヒカリがニヤニヤと笑っていた。
ちょっと腹立たしいものの……
ヒカリと話をしていると、不思議と和んだ。
思えば、こんな風に気軽に話をしたことがなかった。
誰も彼も俺を落ちこぼれと蔑み、哀れみ……
まともな会話が成立したことがない。
でも、ヒカリは違う。
普通に話をしてくれて……
ありのままの俺を見てくれている。
「……仲間っていうのも、悪くないかもな」
「はい? 今、なにか言いましたか?」
「なんでもない」
照れくさい気持ちになり、適当にごまかすのだった。



