魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 今の手持ちは3万リム。
 宿に泊まるとしたら、安いところでも一泊5000リムくらいはかかる。
 このままだと一週間も保たない。

 早急に金を稼ぐ必要がある。
 さっそくダンジョンへ向かうことにした。

 レッドフォグのダンジョンは街の中心に位置している。

 この街は、ダンジョンの調査を行う人々が集まってできたと言われている。
 最初はダンジョンの周囲にキャンプ地を建てて……
 やがて、商人が目をつけて宿を整備して、商いを始めて……
 そうすることで人が集まり、今のような街へ成長したらしい。

 街の中心にダンジョンがあると不安に思うかもしれないが……
 魔物はダンジョンの中でしか生きられないと言われている。
 ダンジョンの中に満ちる瘴気が魔物の生命線なのだ。
 瘴気のない地上に出ると、魚が丘に上がったように死んでしまう。

 そのため、ダンジョンが街中にあっても問題はないと言われている。
 もっとも、放置しておくわけにはいかないので、ダンジョンギルドなどが入り口を厳重に管理しているが。

「止まれ」

 ダンジョンに入り口に来たところで、武装した男に止められた。
 ダンジョンギルドの関係者だろう。

「見ない顔だな」
「最近、この街へやってきたばかりなんだ」
「ダンジョンへ?」
「ああ、そのつもりだ。許可証ならある」

 許可証を見せると、男は一歩後ろに下がった。

「確かに」
「問題はないな?」
「そちらは?」

 男がヒカリを見た。

「俺の……仲間だ」

 迷いながらも、結局、仲間と言うことにした。

「ふむ……まあ、問題はないだろう」

 男が横に移動して道を開けてくれた。

「見たところ、新人だな? 無理はしないで、自分の力に見合ったところで活動をするように」
「わかった、気をつけよう」

 男に軽く手を振り、入り口へ移動する。
 脇にカードをかざすような魔道具が設置されていた。
 これが入り口のキーか。

 カードをかざすと扉が開いて、ダンジョンへの道ができる。
 さあ、いよいよだ。



――――――――――



「ふっ!」

 剣になったもらったヒカリを横に薙いだ。
 ゴブリンの体が上下に分断される。
 その体は天に送られて、小さな宝石が残された。

 全ての魔物は、この小さな宝石……魔石が核となって動いている。
 人でいう心臓のようなものだ。

 ダンジョンは魔石と瘴気を生み出すことができる。
 大小様々な魔石が生み出されて……
 それに瘴気がまとい、魔物という存在になる。

 魔石は魔力が秘められているため、魔法全盛期の今の時代、貴重な鉱物としてそれなりの価格で取引されている。
 大体、1グラムで100リムというところか。

 ゴブリンの魔石は3グラムほどなので、300リムの稼ぎになる。
 強い力を持つ魔物ほど、魔石も大きくなる。
 また特殊な形をした魔石、特殊な輝きを持つ魔石もあり、それは価値が高くなる。

(さっきからゴブリンばかりですね。せっかくなので、もっと強い魔物と戦いませんか? ミノタウロスとかジャイアントワームとか……1層をうろうろしてないで、もっと下に降りましょう)

 ヒカリが念話で話しかけてきた。

(却下だ。多少の知識は持っているとはいえ、俺たちはダンジョン初心者だ。まずは最上層……1層で無理なく戦い、知識と経験を蓄える必要があるからな。いきなり無理はできない)
(なるほど、マスターは堅実な方法を選ぶのですね。どんなに力があったとしても、油断することなく周囲の足場を固めていく……さすが、私の自慢のマスターです)
(納得してくれたのなら……ん?)

 ヒカリと話をしながら1層を歩いていると、女の冒険者と遭遇した。

 かなり若い……15くらいだろうか?
 ぎりぎりで成人しているという感じだ。
 なにも手にしていないところを見ると、やはり魔法使いなのだろう。
 魔法があれば攻撃だけではなくて防御もできる。
 体を張るタンクなんてものは、今の時代必要とされていない。

「こんにちは!」
「……ああ」

 挨拶をされたので、適当に頷いておいた。

「見ない顔だね。もしかして、街にやってきたばかりなのかな?」
「ああ、そうだ」
「そうなんだ。私はメアリー。Eランクの冒険者だよ」

 ダンジョンに挑む冒険者は、その力、功績に応じてランク分けされている。
 一番低いのがFで、一番上がSだ。

「イクス・シクシスだ。Fランクだ」
「ということは、冒険者になったばかり? 一つしかランクは違わないけど、先輩として、できることはしてあげたいかな。なにかわからないことがあれば、なんでも聞いてちょうだい!」
「その時は頼りにさせてもらう」
「ところで……もしかして、イクスは剣士なの?」

 帯剣しているので、俺の職業を当てるのは簡単だ。
 ごまかすつもりもないので、素直に頷いておいた。

「ぷっ」

 我慢できないといった様子でメアリーは小さく笑った。

「あはは、ごめんね。今の時代、剣士なんてものがまだ存在しているなんて……少し驚いちゃってさ。悪気があったわけじゃないんだ」

 ウソつけ。
 おもいきりバカにしてただろうが。

「失礼な人ですね。あなたには、マスターを笑えるほどの力があるのですか?」

 我慢できないという様子で、ヒカリが擬人化してメアリーに噛みついた。

「え? 今、なにもないところから現れた……?」

 メアリーがきょとんとした。
 ただ、あまり気にしなかったらしく、話を続ける。

「キミは、もしかしてイクスの仲間?」
「仲間というよりは従者のようなものですが……それが?」
「キミはけっこう強そうだね。強者のオーラっていうものを感じるよ。それなのに、どうしてイクスの仲間をしているの? うーん、もったいないなあ……そうだ。私と一緒に来ない? 今なら私がキミの面倒を見てあげるよ」
「頭が沸いているのですか?」
「え?」
「なぜ、マスターよりも遥かに格下の人についていかないといけないんですか? 普通に考えて、そんなことはありえないですね」
「……私が剣士より劣るっていうのかな?」
「その通りですね。あなたとマスターでは、天と地ほどの力の差がありますから」
「ぐっ……!」

 メアリーが顔を赤くするが……

「……まあいいや。私はこんなところで時間をつぶしているわけにはいかないし。せっかくのチャンスを逃すわけにはいかないからね」
「チャンス?」
「それじゃあ、私は行くよ。役立たずの剣士と一緒に、せいぜいがんばるといいよ。じゃあね、あはははっ」

 メアリーはうざい笑い声を残して、奥に消えた。

「なんですか、あの女は……? 私のマスターを馬鹿にするなんて許せません。ちょっと斬り刻んできてもいいですか?」
「買い物してきていい、みたいな気軽なノリで恐ろしいことを言うな。放っておけばいいさ」
「どうしてですか? マスターは頭に来ないのですか?」
「いつものことだ。慣れている」

 魔法が使えず、剣士として生きてきて……
 その中で、何度、バカにされてきただろうか?
 俺にとってはそれが当たり前のことなので、今更、特に思うことはない。

 すると、ヒカリは複雑な表情を浮かべる。

「そんなの……寂しいです。そんなことに慣れてしまうなんて……それは、ダメなことだと思います」
「それは……そうかもしれないな」

 でも、本当に今更なのだ。
 小さい頃から染み付いた感情は、簡単に消えることはない。

「モヤモヤしますが……ですが、マスターがなにもしないというのなら、私はそれに従います。ですが、覚えておいてください。私は、マスターをはダメなんて思っていません。むしろ、飛び抜けた力を持つ、すさまじい剣士だと思っています。私はマスターの味方です」
「……ありがとな」

 心に染み付いた感情は二度と取れないと思っていたのだけど……
 ヒカリと一緒にいると、不思議な感覚がした。
 イヤな思い出が消えていくような……そんな気がした。

「さて……メアリーのことなんて忘れて、俺たちは俺たちで狩りを続けるか」
「やはり、下に降りませんか?」
「ダメだ」
「残念です……」
「退屈なのか?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、下層を攻略すれば、自然とマスターの名声も高まると思いまして」
「色々と考えてくれてるんだな」
「マスターのためですから」
「まあ……それでも、今はパスだ。やはり堅実にいこう」
「わかりました」

 ヒカリが納得してくれたところで、一層の探索を再開しようと……

「ひいいいいいぃーーー!!!?」

 探索を再開しようとしたところで、奥の方から悲鳴が聞こえてきた。
 メアリーのものだ。

「マスター、どうしますか?」
「さすがに放っておくわけにはいかないな」

 俺たちは悲鳴の方に駆け出した。