「ところで、お金を稼ぐと言っていましたが、どこで稼ぐのですか? そこら辺の人を斬りつけて、金を奪うのですか?」
「あのな。それじゃあ、ただの辻斬りじゃないか」
そこまで堕ちるつもりはない。
「ちゃんとした手段で稼ぐさ」
「ですが、剣士は格下に見られているのですよね? そんな状況で、まっとうな仕事を斡旋してもらえるのですか?」
「剣士だとしても、稼ぐ方法はあるんだよ」
「それはなんですか?」
マイペースに、ヒカリがそう問いかけてきた。
「ダンジョンへ潜る」
――――――――――
今から100年ほど前……世界の各地にダンジョンと呼ばれる迷宮が現れた。
街よりも広く、深さは計り知れない。
ダンジョンを攻略するために、日々、人々は挑み続けているが、未だ最下層に到達した者はいない。
やがて……
ダンジョンは人々の生活の一部となった。
ダンジョンへ潜り、中に落ちている色々な素材を手に入れる。
あるいは、ダンジョンに徘徊する魔物を倒すことで、魔石という特殊な素材を手に入れる。
それらを売ることで金を得る者……冒険者が誕生した。
家を出た俺がレッドフォグを目的地にしたのも、ここにダンジョンがあるからという理由が大きい。
金に困ったとしても、冒険者となってダンジョンに潜れば金を稼ぐことができる。
ただ、一つ問題があった。
誰でもダンジョンに潜ることができるというわけじゃない。
中は魔物が徘徊していて罠も存在する。
力のない者が挑むと命を落としてしまうかもしれない。
そういった事態を避けるために、ダンジョンギルドが存在していた。
ダンジョンギルトというのは、ダンジョンに関するありとあらゆる事柄を管理している組織だ。
ダンジョンで手に入れたアイテムをギルドで買い取ってもらう。
そして、ギルドは商店にアイテムを下ろす。
忙しい冒険者に代わり、そういった仲介業者のようなことをしているのだ。
他にも、ダンジョンの出入り口に人を配置して、中に入る人を管理したり……
ダンジョンの攻略情報を販売しているなど、色々なことに手を伸ばしている。
ダンジョンに潜るには、ギルドが発行した許可証が必要だ。
勝手に中に入ることはできない。
バレたら捕まってしまうし、アイテムを買い取ってもらうこともできない。
なので、許可証を発行してもらうためにギルドを訪ねた。
「こんにちは。私は、ダンジョンギルドの受付を担当しているサナリー・クラウネルと言います。よろしくおねがいします」
「イクス・シクシスだ」
明るく元気な受付嬢だ。
これなら、スムーズに話が進むかもしれない。
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「許可証を発行してほしい」
「新規の発行ですか? それとも、紛失などの理由での再発行ですか?」
「新規だ。新しく冒険者になろうと思っている」
「なるほど……はい、わかりました。では、こちらの書類に記載をおねがいします」
サナリーから書類を受け取り、名前、年齢、職業などの項目を埋めていく。
全ての項目を埋めた後、書類を渡す。
すると、サナリーが顔を曇らせた。
「職業……剣士? え? 剣士……ですか?」
「ああ、そうだ」
「そういえば帯剣していますね……」
俺の腰の聖剣を見て、サナリーは納得顔になる。
ちなみに、ヒカリは剣になってもらっている。
パーティーを組んでいると、手続きが面倒になるのだ。
ヒカリは俺の剣なので、パーティーとは微妙に違うため、今は剣になってもらい姿を隠してもらうことにした。
ちなみに、ヒカリとは別に、もう一本、帯剣している。
こちらは実家から持ち出した剣だ。
刃が潰れているが、幼い頃から使っているので愛着があり、いつも身につけている。
「今の時代に剣士なんて珍しいですね」
「色々とあってな」
「冒険者といえば、昔は剣士や槍士の方ばかりでしたから、前例がないわけではありませんが……うーん。ちなみに、イクスさんはどの程度の魔法を使うことができるんですか?」
「魔法は使えない」
「え?」
「まったく使えない。生まれつき魔力がゼロなんだ」
「となると……うーん、難しいですね。魔法が使えないのにダンジョンに潜るなんて、自殺行為ですよ? 死ぬとわかっていて送り出すことなんて、できませんよ」
「無理はしないと約束する」
「ですが……」
「上層だけでもいい。1層のFランク魔物しか相手にしない。それなら、剣でも戦うことができるだろう。それでもダメか?」
「うーん……そうですね。それなら……」
「なんていうことでしょう。すばらしい勘違い野郎がいますね」
突然、見知らぬ男が会話に割り込んできた。
整った顔をしていて、その気になれば初対面の10分で女を口説き落とせるだろう。
「キミ、あまり無茶を言うものではありませんよ」
「なんだ、あんたは?」
「私は、キミがなろうとしている冒険者ですよ。キミの先輩であり……そして、善意の忠告者というところですね」
一つ一つの仕草がキザったらしい。
早くもイライラしてきた。
「魔法を使えないのにダンジョンに挑むなんて、無知無謀の極み。愚かとしか言いようがありませんね。悪いことは言いません、やめておきなさい」
「俺がどうしようと勝手だろう。あんたに、俺の行動に口を出す権利なんてないはずだが?」
「無謀なことをしようとしている若者を止めることが、私たち大人の義務ですよ」
コイツも父さんや母さんと似たようなことを言う。
どうして人の人生に口を出してくるのか?
俺の人生は俺だけのものだ……どうするかは俺が決める!
「忠告ありがとう。でも、俺はダンジョンに挑むのをやめるつもりはない」
「やれやれ、聞き入れが悪いのですね。魔法を使えないと聞きましたが、魔力が失われているだけではなくて、礼節と知識も失われてしまったみたいですね」
さすがにカチンと来た時……
「さっきから黙って聞いていれば……つまらないことばかり口にしてくれますね。いい加減にしてくれませんか? 私のマスターを馬鹿にするのならば、それ相応の考えがありますよ」
ぼんっ、という音と共にヒカリが現れた。
「な、なんだ!? いきなり女の子が……突然現れたように見えたけれど、誰なんですか?」
「私のことはどうでもいいです。それよりも、マスターに対する暴言の数々、とても見逃せたものではありません。謝罪してください」
「ふんっ。なぜ彼に謝罪しなければいけないのか理解できませんね。彼は魔法が使えない。つまり、無能ということ。剣士などという無能しかいない職についているのだから、どのようなことを言われても仕方ないと思いますが?」
「私のマスターをここまで馬鹿にするなんて……!」
「どこの誰か知りませんが、このような無能と一緒にいない方がいいですよ?」
「私は望んでマスターと一緒にいるのです。余計なお世話です」
「魔法を使えない無能なのに? ふむ……もしかして、キミも残念な子なのですか? 無能は無能を呼ぶ、ということですか」
「……なら、俺と試合をしてくれないか?」
俺は無能だ。
魔力はゼロで魔法を使うことができない。
だから、俺についてだけならば、まだ我慢はできた。
しかし、ヒカリは関係ない。
ヒカリまでバカにされると、非常にイライラした。
我慢できずに口を出す。
「試合だと?」
「そこまで言うんだから、あんたはさぞかし優秀なんだろ? 稽古をつけてくれよ。俺のような無能に、魔法使いの力を教えてくれないか? なあ、いいだろう。とても優秀な魔法使いさん」
「……キミは、やはり口の聞き方がなっていないようですね。いいでしょう。特別に、この私が相手をしてあげましょう」
「あ、あのー……勝手に私闘をされると、すごく困るんですが……というか、ここで暴れないでくださいね?」
サナリーがおずおずと口を挟んできた。
――――――――――
広場に移動した。
どこからか話を聞きつけたらしく、たくさんの見物人がいる。
「なになに? どうしたの、これ?」
「閃光のシャルアクさんに噛みついたバカがいるんだってさ。しかも、そいつは魔力ゼロの無能らしい」
「ありえなくない? シャルアクさんにボッコボコにされるといいんじゃない」
どうやら男はシャルアクという名前らしい。
それなりの力があるらしく、知名度は高いみたいだ。
「えー……では、僭越ながら私が審判を務めますね」
騒動に巻き込まれたサナリーが、睨み合う俺とシャルアクの間に立つ。
「ルールは単純明快で、相手を気絶させるか動けなくした方が勝ち。ただ、やりすぎには注意してください。ひどい怪我を負わせたり、万が一、殺害したら普通に憲兵隊に突き出しますからね? ホント、くれぐれも自重してくださいね?」
「心配する必要はないですよ、サナリーさん。この私を誰だと? 閃光の二つ名を持つ、Dランクの冒険者ですよ。無能を相手に本気を出すなんてことはありえませんね。すぐに終わらせてやりますよ」
生意気がヤツだけど……
力はあるらしく、大きな魔力を感じる。
二つ名を持つ冒険者というのは伊達じゃないらしい。
さて……勢いで戦いを挑んだものの、どうするか?
剣で魔法に勝つなんて不可能だ。
しかし、ここまできて引き下がるわけにはいかない。
できることならば、最低限、引き分けに持ち込みたいが……
「マスター。私を使ってください。一緒にあのいけすかない男を叩きのめしましょう! 私のマスターを馬鹿にしたこと、後悔させてやります」
「……やれやれ。頼りになるヤツだな、ヒカリは」
こんな時でも、ヒカリは一切臆することはない。
そんな彼女を見ていると、悩んでいたのがバカらしくなる。
全力でぶつかり、一矢報いてやるか。
「いきます!」
ぼんっ! という音と共にヒカリが消えて、剣となり、俺の右手に収まる。
その異様な光景に周囲がざわついた。
シャルアクも唖然としていた。
「な、なんですかそれは……? 女の子が剣になったように見えましたが……さきほどもいきなり現れましたし……」
「お前に教える義務も義理もないな」
「私に向かって、またそのような口を……さっきは一瞬で終わらせると言いましたが、気が変わりました。徹底的にいたぶり、調教してあげますよ」
シャルアクの魔力が膨れ上がる。
ピリピリと肌が刺激されるようで、頭の中で警報が鳴る。
俺は努めて冷静を保ち、剣を構える。
「それでは……始め!」
サナリーの合図で試合が開始された。
「サンダーデトネーション!」
シャルアクが電撃を放つ。
紫電の一撃は、地を這う獣のように疾走して、俺に食らいつこうとした。
俺は横に跳んで避けようとして……
(大丈夫です、逃げる必要はありません)
頭の中でヒカリの声が響いた。
(な、なんだ!?)
(剣の状態だと声が出せませんからね。なので、代わりに、こうして念話で話をすることができるんです)
(なるほど……とことん規格外の剣だな)
(それよりも、逃げる必要なんてありませんよ。アレを斬ればいいだけの話です)
(アレって……魔法を斬れ、っていうのか!? そんなことができるなんて話、聞いたことがないぞ)
(大丈夫です。私とマスターなら、なんとかなると思います。そのための聖剣。そのための修練。マスター、あなたは剣士なのでしょう? なら、アレを斬ってみせてください。私のマスターには、それだけの力があるはずですよ。私を信じてくれませんか?)
ヒカリの言葉は、不思議と俺に自信を与えてくれた。
やれるというのならば……
やってやろうじゃないか!
俺は剣士だ。
魔法だろうとなんだろうと、斬ってみせる!
覚悟を決めて、その場に踏みとどまる。
そして剣を構えて……一閃。
シャルアクの電撃を一文字に切り裂いた。
「な、なんだと!? 私の魔法を……斬った!? そんなバカな! ありえません、そのようなことは聞いたことがありません! 歴史書を見てもそのようなことを成し遂げた人はいません! あ、ありえませんっ!?」
魔法を斬るという前代未聞の出来事に、シャルアクが大きな動揺を見せた。
ここだ!
その隙を見逃すことなく、一気に駆けて懐に潜り込む。
「くっ!? だ、だが、私たち魔法使いには結界があります! 武器なんかで結界を突破することは不可能ですよ!」
魔法使いの強力なところは、攻撃だけではなく防御も優れているところだ。
戦闘の際は、常時、結界と呼ばれる防護壁を周囲に展開させている。
鋼鉄の盾に守られているようなもので、普通の武器ではまず突破することができない。
故に、武器は時代遅れの代物として扱われるようになった。
突破することができない結界……しかし、俺はそれを突破する!
聖剣を横に薙いで……
キィンッ! と結界が砕ける音が響いた。
「なぁっ!!!? 結界まで斬ったというのですか!? あ、ありえない、バカな!!!?」
驚愕するシャルアクを聖剣の腹で殴りつける!
「ぐあああっ!!!?」
ホームラン!
野球のボールになったように、シャルアクが大きく吹き飛んだ。
そのままゴミ捨て場に頭から突っ込む。
ピクピクと痙攣しているところを見ると、生きているみたいだ。
「えっと……」
唖然とするサナリー。
「お、おい……シャルアクさんが負けたぞ。しかも、一撃で……あいつ、実はとんでもないヤツなのか?」
「今、魔法を斬っていたよな……? そんなこと聞いたことがない……すごい、すごすぎる……」
「剣士が魔法使いに勝つなんて……なんて人だ。すごいなんてものじゃない、歴史に残る偉業だ……お、おい。ここに世界記録の審査員はいないのか!?」
周囲の見物人たちも、なにが起きたか理解できない様子で目を丸くしていた。
「す、すごいです……! イクスさんは剣士なのに、シャルアクさんに勝つなんて……ううん、勝つというレベルじゃなくて、圧勝……まるで相手にしていなかった。なんて人なんでしょう……」
サナリーも驚いていた。
そんなサナリーに声をかける。
「審判、勝負はついたと思うが?」
「え? あっ……そ、そうですね! えっと……勝者、マスター!」
「やりましたね♪」
ヒカリが擬人化して、笑顔でVサインを決めた。
「おめでとうございます、マスター」
ヒカリが祝福してくれるものの、いまいち実感が湧いてこない。
「すごいな……まさか、本当に魔法を斬ることができるなんて……」
自分でやったことなのだけど、実感が湧いてこない。
それほどまでに、俺がしたことはありえないことなのだ。
不可能を可能にしてしまう力……それが、聖剣エクスカリバー。
改めて、その力を思い知る。
「ヒカリの力に素直に感動したよ。すごい。いや、すごいっていうものじゃないな、これは……語彙が貧弱で悪いが、とにかくすごいな」
「やっ、えっと、あの……そこまでべた褒めされると、さすがに恥ずかしいのですが……」
「照れているのか?」
「それは、まあ……照れますよ。大事なマスターが、私のことを褒めてくれているのですから……ありがとうございます。マスターのお役に立てたみたいで、とてもうれしいです」
ヒカリは頬を染めながらも、ニッコリと笑う。
とても綺麗な笑顔だ。
「改めて、ありがとな」
「どういたしましてです」
パートナーであるヒカリに感謝の言葉を捧げた。
「あのな。それじゃあ、ただの辻斬りじゃないか」
そこまで堕ちるつもりはない。
「ちゃんとした手段で稼ぐさ」
「ですが、剣士は格下に見られているのですよね? そんな状況で、まっとうな仕事を斡旋してもらえるのですか?」
「剣士だとしても、稼ぐ方法はあるんだよ」
「それはなんですか?」
マイペースに、ヒカリがそう問いかけてきた。
「ダンジョンへ潜る」
――――――――――
今から100年ほど前……世界の各地にダンジョンと呼ばれる迷宮が現れた。
街よりも広く、深さは計り知れない。
ダンジョンを攻略するために、日々、人々は挑み続けているが、未だ最下層に到達した者はいない。
やがて……
ダンジョンは人々の生活の一部となった。
ダンジョンへ潜り、中に落ちている色々な素材を手に入れる。
あるいは、ダンジョンに徘徊する魔物を倒すことで、魔石という特殊な素材を手に入れる。
それらを売ることで金を得る者……冒険者が誕生した。
家を出た俺がレッドフォグを目的地にしたのも、ここにダンジョンがあるからという理由が大きい。
金に困ったとしても、冒険者となってダンジョンに潜れば金を稼ぐことができる。
ただ、一つ問題があった。
誰でもダンジョンに潜ることができるというわけじゃない。
中は魔物が徘徊していて罠も存在する。
力のない者が挑むと命を落としてしまうかもしれない。
そういった事態を避けるために、ダンジョンギルドが存在していた。
ダンジョンギルトというのは、ダンジョンに関するありとあらゆる事柄を管理している組織だ。
ダンジョンで手に入れたアイテムをギルドで買い取ってもらう。
そして、ギルドは商店にアイテムを下ろす。
忙しい冒険者に代わり、そういった仲介業者のようなことをしているのだ。
他にも、ダンジョンの出入り口に人を配置して、中に入る人を管理したり……
ダンジョンの攻略情報を販売しているなど、色々なことに手を伸ばしている。
ダンジョンに潜るには、ギルドが発行した許可証が必要だ。
勝手に中に入ることはできない。
バレたら捕まってしまうし、アイテムを買い取ってもらうこともできない。
なので、許可証を発行してもらうためにギルドを訪ねた。
「こんにちは。私は、ダンジョンギルドの受付を担当しているサナリー・クラウネルと言います。よろしくおねがいします」
「イクス・シクシスだ」
明るく元気な受付嬢だ。
これなら、スムーズに話が進むかもしれない。
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「許可証を発行してほしい」
「新規の発行ですか? それとも、紛失などの理由での再発行ですか?」
「新規だ。新しく冒険者になろうと思っている」
「なるほど……はい、わかりました。では、こちらの書類に記載をおねがいします」
サナリーから書類を受け取り、名前、年齢、職業などの項目を埋めていく。
全ての項目を埋めた後、書類を渡す。
すると、サナリーが顔を曇らせた。
「職業……剣士? え? 剣士……ですか?」
「ああ、そうだ」
「そういえば帯剣していますね……」
俺の腰の聖剣を見て、サナリーは納得顔になる。
ちなみに、ヒカリは剣になってもらっている。
パーティーを組んでいると、手続きが面倒になるのだ。
ヒカリは俺の剣なので、パーティーとは微妙に違うため、今は剣になってもらい姿を隠してもらうことにした。
ちなみに、ヒカリとは別に、もう一本、帯剣している。
こちらは実家から持ち出した剣だ。
刃が潰れているが、幼い頃から使っているので愛着があり、いつも身につけている。
「今の時代に剣士なんて珍しいですね」
「色々とあってな」
「冒険者といえば、昔は剣士や槍士の方ばかりでしたから、前例がないわけではありませんが……うーん。ちなみに、イクスさんはどの程度の魔法を使うことができるんですか?」
「魔法は使えない」
「え?」
「まったく使えない。生まれつき魔力がゼロなんだ」
「となると……うーん、難しいですね。魔法が使えないのにダンジョンに潜るなんて、自殺行為ですよ? 死ぬとわかっていて送り出すことなんて、できませんよ」
「無理はしないと約束する」
「ですが……」
「上層だけでもいい。1層のFランク魔物しか相手にしない。それなら、剣でも戦うことができるだろう。それでもダメか?」
「うーん……そうですね。それなら……」
「なんていうことでしょう。すばらしい勘違い野郎がいますね」
突然、見知らぬ男が会話に割り込んできた。
整った顔をしていて、その気になれば初対面の10分で女を口説き落とせるだろう。
「キミ、あまり無茶を言うものではありませんよ」
「なんだ、あんたは?」
「私は、キミがなろうとしている冒険者ですよ。キミの先輩であり……そして、善意の忠告者というところですね」
一つ一つの仕草がキザったらしい。
早くもイライラしてきた。
「魔法を使えないのにダンジョンに挑むなんて、無知無謀の極み。愚かとしか言いようがありませんね。悪いことは言いません、やめておきなさい」
「俺がどうしようと勝手だろう。あんたに、俺の行動に口を出す権利なんてないはずだが?」
「無謀なことをしようとしている若者を止めることが、私たち大人の義務ですよ」
コイツも父さんや母さんと似たようなことを言う。
どうして人の人生に口を出してくるのか?
俺の人生は俺だけのものだ……どうするかは俺が決める!
「忠告ありがとう。でも、俺はダンジョンに挑むのをやめるつもりはない」
「やれやれ、聞き入れが悪いのですね。魔法を使えないと聞きましたが、魔力が失われているだけではなくて、礼節と知識も失われてしまったみたいですね」
さすがにカチンと来た時……
「さっきから黙って聞いていれば……つまらないことばかり口にしてくれますね。いい加減にしてくれませんか? 私のマスターを馬鹿にするのならば、それ相応の考えがありますよ」
ぼんっ、という音と共にヒカリが現れた。
「な、なんだ!? いきなり女の子が……突然現れたように見えたけれど、誰なんですか?」
「私のことはどうでもいいです。それよりも、マスターに対する暴言の数々、とても見逃せたものではありません。謝罪してください」
「ふんっ。なぜ彼に謝罪しなければいけないのか理解できませんね。彼は魔法が使えない。つまり、無能ということ。剣士などという無能しかいない職についているのだから、どのようなことを言われても仕方ないと思いますが?」
「私のマスターをここまで馬鹿にするなんて……!」
「どこの誰か知りませんが、このような無能と一緒にいない方がいいですよ?」
「私は望んでマスターと一緒にいるのです。余計なお世話です」
「魔法を使えない無能なのに? ふむ……もしかして、キミも残念な子なのですか? 無能は無能を呼ぶ、ということですか」
「……なら、俺と試合をしてくれないか?」
俺は無能だ。
魔力はゼロで魔法を使うことができない。
だから、俺についてだけならば、まだ我慢はできた。
しかし、ヒカリは関係ない。
ヒカリまでバカにされると、非常にイライラした。
我慢できずに口を出す。
「試合だと?」
「そこまで言うんだから、あんたはさぞかし優秀なんだろ? 稽古をつけてくれよ。俺のような無能に、魔法使いの力を教えてくれないか? なあ、いいだろう。とても優秀な魔法使いさん」
「……キミは、やはり口の聞き方がなっていないようですね。いいでしょう。特別に、この私が相手をしてあげましょう」
「あ、あのー……勝手に私闘をされると、すごく困るんですが……というか、ここで暴れないでくださいね?」
サナリーがおずおずと口を挟んできた。
――――――――――
広場に移動した。
どこからか話を聞きつけたらしく、たくさんの見物人がいる。
「なになに? どうしたの、これ?」
「閃光のシャルアクさんに噛みついたバカがいるんだってさ。しかも、そいつは魔力ゼロの無能らしい」
「ありえなくない? シャルアクさんにボッコボコにされるといいんじゃない」
どうやら男はシャルアクという名前らしい。
それなりの力があるらしく、知名度は高いみたいだ。
「えー……では、僭越ながら私が審判を務めますね」
騒動に巻き込まれたサナリーが、睨み合う俺とシャルアクの間に立つ。
「ルールは単純明快で、相手を気絶させるか動けなくした方が勝ち。ただ、やりすぎには注意してください。ひどい怪我を負わせたり、万が一、殺害したら普通に憲兵隊に突き出しますからね? ホント、くれぐれも自重してくださいね?」
「心配する必要はないですよ、サナリーさん。この私を誰だと? 閃光の二つ名を持つ、Dランクの冒険者ですよ。無能を相手に本気を出すなんてことはありえませんね。すぐに終わらせてやりますよ」
生意気がヤツだけど……
力はあるらしく、大きな魔力を感じる。
二つ名を持つ冒険者というのは伊達じゃないらしい。
さて……勢いで戦いを挑んだものの、どうするか?
剣で魔法に勝つなんて不可能だ。
しかし、ここまできて引き下がるわけにはいかない。
できることならば、最低限、引き分けに持ち込みたいが……
「マスター。私を使ってください。一緒にあのいけすかない男を叩きのめしましょう! 私のマスターを馬鹿にしたこと、後悔させてやります」
「……やれやれ。頼りになるヤツだな、ヒカリは」
こんな時でも、ヒカリは一切臆することはない。
そんな彼女を見ていると、悩んでいたのがバカらしくなる。
全力でぶつかり、一矢報いてやるか。
「いきます!」
ぼんっ! という音と共にヒカリが消えて、剣となり、俺の右手に収まる。
その異様な光景に周囲がざわついた。
シャルアクも唖然としていた。
「な、なんですかそれは……? 女の子が剣になったように見えましたが……さきほどもいきなり現れましたし……」
「お前に教える義務も義理もないな」
「私に向かって、またそのような口を……さっきは一瞬で終わらせると言いましたが、気が変わりました。徹底的にいたぶり、調教してあげますよ」
シャルアクの魔力が膨れ上がる。
ピリピリと肌が刺激されるようで、頭の中で警報が鳴る。
俺は努めて冷静を保ち、剣を構える。
「それでは……始め!」
サナリーの合図で試合が開始された。
「サンダーデトネーション!」
シャルアクが電撃を放つ。
紫電の一撃は、地を這う獣のように疾走して、俺に食らいつこうとした。
俺は横に跳んで避けようとして……
(大丈夫です、逃げる必要はありません)
頭の中でヒカリの声が響いた。
(な、なんだ!?)
(剣の状態だと声が出せませんからね。なので、代わりに、こうして念話で話をすることができるんです)
(なるほど……とことん規格外の剣だな)
(それよりも、逃げる必要なんてありませんよ。アレを斬ればいいだけの話です)
(アレって……魔法を斬れ、っていうのか!? そんなことができるなんて話、聞いたことがないぞ)
(大丈夫です。私とマスターなら、なんとかなると思います。そのための聖剣。そのための修練。マスター、あなたは剣士なのでしょう? なら、アレを斬ってみせてください。私のマスターには、それだけの力があるはずですよ。私を信じてくれませんか?)
ヒカリの言葉は、不思議と俺に自信を与えてくれた。
やれるというのならば……
やってやろうじゃないか!
俺は剣士だ。
魔法だろうとなんだろうと、斬ってみせる!
覚悟を決めて、その場に踏みとどまる。
そして剣を構えて……一閃。
シャルアクの電撃を一文字に切り裂いた。
「な、なんだと!? 私の魔法を……斬った!? そんなバカな! ありえません、そのようなことは聞いたことがありません! 歴史書を見てもそのようなことを成し遂げた人はいません! あ、ありえませんっ!?」
魔法を斬るという前代未聞の出来事に、シャルアクが大きな動揺を見せた。
ここだ!
その隙を見逃すことなく、一気に駆けて懐に潜り込む。
「くっ!? だ、だが、私たち魔法使いには結界があります! 武器なんかで結界を突破することは不可能ですよ!」
魔法使いの強力なところは、攻撃だけではなく防御も優れているところだ。
戦闘の際は、常時、結界と呼ばれる防護壁を周囲に展開させている。
鋼鉄の盾に守られているようなもので、普通の武器ではまず突破することができない。
故に、武器は時代遅れの代物として扱われるようになった。
突破することができない結界……しかし、俺はそれを突破する!
聖剣を横に薙いで……
キィンッ! と結界が砕ける音が響いた。
「なぁっ!!!? 結界まで斬ったというのですか!? あ、ありえない、バカな!!!?」
驚愕するシャルアクを聖剣の腹で殴りつける!
「ぐあああっ!!!?」
ホームラン!
野球のボールになったように、シャルアクが大きく吹き飛んだ。
そのままゴミ捨て場に頭から突っ込む。
ピクピクと痙攣しているところを見ると、生きているみたいだ。
「えっと……」
唖然とするサナリー。
「お、おい……シャルアクさんが負けたぞ。しかも、一撃で……あいつ、実はとんでもないヤツなのか?」
「今、魔法を斬っていたよな……? そんなこと聞いたことがない……すごい、すごすぎる……」
「剣士が魔法使いに勝つなんて……なんて人だ。すごいなんてものじゃない、歴史に残る偉業だ……お、おい。ここに世界記録の審査員はいないのか!?」
周囲の見物人たちも、なにが起きたか理解できない様子で目を丸くしていた。
「す、すごいです……! イクスさんは剣士なのに、シャルアクさんに勝つなんて……ううん、勝つというレベルじゃなくて、圧勝……まるで相手にしていなかった。なんて人なんでしょう……」
サナリーも驚いていた。
そんなサナリーに声をかける。
「審判、勝負はついたと思うが?」
「え? あっ……そ、そうですね! えっと……勝者、マスター!」
「やりましたね♪」
ヒカリが擬人化して、笑顔でVサインを決めた。
「おめでとうございます、マスター」
ヒカリが祝福してくれるものの、いまいち実感が湧いてこない。
「すごいな……まさか、本当に魔法を斬ることができるなんて……」
自分でやったことなのだけど、実感が湧いてこない。
それほどまでに、俺がしたことはありえないことなのだ。
不可能を可能にしてしまう力……それが、聖剣エクスカリバー。
改めて、その力を思い知る。
「ヒカリの力に素直に感動したよ。すごい。いや、すごいっていうものじゃないな、これは……語彙が貧弱で悪いが、とにかくすごいな」
「やっ、えっと、あの……そこまでべた褒めされると、さすがに恥ずかしいのですが……」
「照れているのか?」
「それは、まあ……照れますよ。大事なマスターが、私のことを褒めてくれているのですから……ありがとうございます。マスターのお役に立てたみたいで、とてもうれしいです」
ヒカリは頬を染めながらも、ニッコリと笑う。
とても綺麗な笑顔だ。
「改めて、ありがとな」
「どういたしましてです」
パートナーであるヒカリに感謝の言葉を捧げた。



