魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 翌日。
 メアリーに仲介を頼み、ロズウェルの屋敷を訪ねた。

 アトリーがスタンピードを引き起こしたこと。
 そのために使用した魔道具は、まだダンジョン内に残されていること。
 その目的は不明で、おそらく、もう街にはいないこと。

 それらの事実を報告した。

「ふむ……まさか、アトリーが……」

 俺の報告を受けたロズウェルは苦い顔をした。
 それなりにアトリーに信頼を寄せていたのだろう。

 アトリーは一冒険者として活動していたが……
 ロズウェルに対しても、それなりの繋がりを持っていたみたいだ。
 だからこそ、冒険者が遭難した時、捜索隊に組み込まれたのだろう。

 ただ……
 今になって思うと、あの時からすでにアトリーの計画は動いていたのだろう。
 捜索に参加したのは下見なのだろう。
 それと、魔道具の試し打ちというところか?
 大量のモンスターは、その副産物だろう。

 それらの推理を伝えると、ますますロズウェルの顔が渋いものになる。

「むぅ……」

 一方で、ヒカリも微妙な顔をしていた。
 いつもの落ち着いた顔ではなくて、ジト目でこちらを睨んでいる。

「どうした?」
「マスター、どうして私を連れて行ってくれなかったんですか?」

 小声で問いかけると、拗ねたような声が返ってきた。

「一人で真犯人と対峙するなんて……」
「ヒカリは酔いつぶれていたから、仕方ないだろう?」
「うぐ……それを言われると弱いですが……ですが、無理矢理に起こしてでも連れていってほしかったです。私とマスターは、一心同体なのですから」
「……それもそうだな」

 剣士が剣を手放して行動するなんて、よくよく考えたらありえないことだ。

「悪かったな。今度、同じようなことがあれば、その時は叩き起こしてでも連れて行く」
「はい、約束ですよ?」

 機嫌が直ったらしく、ヒカリは笑顔になった。

 一方で……

「むううう……」

 メアリーも膨れていた。
 たぶん、ヒカリと同じ理由だろう。

 が、まだまだ未熟な弟子を危険地帯に連れて行く理由なんてないので、フォローはしないでおく。

「ううむ……にわかには信じがたい話だが……しかし、辻褄は合う。いや、だが……」

 すぐに俺の話を信じることができないらしく、ロズウェルは唸り声をあげていた。
 それも仕方ない。
 俺はただの冒険者で、身元が保証されていない。
 そんなヤツの言葉をいきなり信用することなんて、なかなかできないだろう。

 まあ、実家の話をして、ヴァルハイトの名前を使えば、あるいは信じてもらえるかもしれないが……
 実家とは縁を切った。
 そんなことは死んでもしない。

「父上、イクス殿はウソをついていないと、私はそう思いますが」

 同席していたスタックがそんなことを言う。
 思わぬ援護射撃に、俺だけではなくてロズウェルも目を丸くした。

「それは……どうしたというのだ、いきなり? お前は、イクス殿のことを嫌っているように見えたが……」
「ええ、そうですね。昔の自分は浅はかでした。魔法が使えないというだけで、イクス殿のことを下に見るという愚かなことを……過去の自分に会えるのならば、殴り倒してやりたいです」

 少しずつスタックの目が熱を帯びていく。

「しかし、そのような無礼なことをしたにも関わらず、イクス殿はこの街を救ってくれました。自分は、イクス殿がドラゴンを倒すところを見ました。イクス殿がいなければ、スタンピードを乗り越えることはできなかったでしょう。まさに救世主! そして、そのようなイクス殿がウソをつくなんてありえませんっ」

 ……ずいぶんとすさまじい手の平返しだな。

「単純な人なのですね……」
「兄さん、一見するととっつきにくい人なんだけど、実はものすごくわかりやすい性格をしているんですよ……」

 ヒカリとメアリーも呆れた様子だった。

「う、うむ……まあ、お前がそう言うのなら調べてみることにしよう」

 スタックの後押しもあり、ロズウェルを納得させることに成功した。
 調査をしてくれるという約束をして……

 その後、俺たちは屋敷を後にした。

「ねえねえ、師匠。約束してもらうだけでよかったんですか? 追撃隊を編成してもらうとか、あるいは報酬をもらうとか」

 一緒についてきたメアリーがそんなことを言う。

「俺たちの話が本当だという裏付けがなければ、いくらなんでもすぐに動くことはできない。それなりの立場の人間だから、軽はずみな行動はできないだろう? あと、報酬は別にいらん」
「いらないんですか?」
「今は財布は潤っているからな。無理に催促するようなことをしても、面倒になりそうだ」

 一連の事件の解決に協力したこと。
 また、ドラゴンの魔石を手に入れたこと。
 それらのことで財布が一気に潤った。
 まだ換金していない魔石はあるが……
 今の手持ちは1000万くらいなので、当分、食うのに困ることはない。

「うーん、残念。師匠の名声をさらに高めるチャンスなのに」
「マスターの武勇が轟くということなら、そのチャンスを逃してしまうのは惜しいですね」

 ヒカリが話に乗っかる。

「今回の事件でマスターは救世主と呼ばれるようになりましたが、まだ、この街の全ての人がマスターの力を知っているわけではないですからね。この機会に、マスターの武勇、人柄を全ての人に知ってもらいましょう」
「いいですね、それ! ヒカリさんに賛成ですよ」
「やめろ……」

 ただでさえ、救世主という呼び名には辟易としているんだ。
 俺はそんな大層なものじゃないというのに……

 これ以上、話が大げさになると、いずれ羞恥心でどうにかなってしまうかもしれない。

「ところで……メアリー。二つ、話がある」
「はいっ、なんですか!?」

 ビシッと敬礼をして、俺の呼びかけにメアリーが応えた。
 憲兵団みたいで堅苦しい。
 ただ、本人は気に入っているらしく、にこにこしていた。

 気に入っているのならいいか。
 そう思い、メアリーの大げさな反応はスルーして話を進める。

「食料と水。それと旅に必要な道具が欲しい。それらをスムーズに入手できる店を知らないか?」
「そんなもの、普通にお店で買えばいいんじゃないですか?」
「まだ少し、街は混乱しているだろう? そんな中であれこれ買おうとしても、うまくいかないことが多いんじゃないか?」
「あっ、それもそうですね。スタンピードのせいで被害を受けた店もありますし……うん。師匠の言う通り、スムーズに買うにはちょっとした裏技が必要かも」

 メアリーは考えるような仕草をとり、うーんうーんと悩む。
 ややあって、ぽんっ、と手の平を叩く。

「兄さんと父さんに頼んでみますね。二人なら手を回して、色々と入手できると思うので」
「それ、大丈夫なのか? 後で揉めないか?」

 権力を振るうとなると、揉め事の原因になりそうだが……

「あの二人、頭が回るから大丈夫ですよ。無茶はしないし、問題のない方法を選んでくれると思いますよ」
「そうか……なら頼む」
「それにしても、旅支度をするなんてどうしたんですか? もしかして、街を出ていくとか? あっはっはー、そんなことありませんよねー」
「いや、その通りだが?」
「なんですってぇ!?」

 メアリーはひっくり返ったような声をあげて……
 ぐぐぐっ、と勢いよく顔を寄せてきた。

 近い近い。

「し、師匠っ、この街を出ていっちゃうんですか!? ここに永住してくれるんじゃないんですか!?」
「そんなことは一言も言っていない」
「そ、そんなぁ……」

 メアリーは泣き出しそうな顔になり、へなへなとその場に座り込んでしまう。

 そんなメアリーを見て、ヒカリが同情するような顔になる。

「マスター。メアリーさんがかわいそうですよ。マスターの考えていること、なんとなく理解したので……早く二つ目の話をしたらどうですか?」
「わかってる。今しようと思っていたが……コイツが勝手に騒ぐから、なかなか切り出せなかったんだよ」
「ふぇ……?」
「メアリー……二つ目の話をするぞ。俺はこの街を出る。アトリーの調査のことがあるし、準備もあるからすぐにとは言わないが……まあ、一週間後には出ていくだろうな」

 スタンピードが起きたとなれば、周囲の街にも情報が流れるだろう。
 俺の実家にも話が届くかもしれない。
 そうなるとかなり面倒なことになる。

 あの両親のことだ。
 俺を連れ戻すために傭兵を雇い、このレッドフォグに派遣するということもしかねない。

 そんな面倒はごめんだ。
 なので、街を出て……
 両親の力が及ばない他国へ移動するつもりだ。

 それに……消えたアトリーのことも気になるからな。
 他国へ移動して、ヤツの手がかりを探してみようと思っている。

 それらのことをメアリーに告げて……

「メアリーはどうしたい?」
「わ、私は……」
「街に残るか? それとも……俺についてくるか?」