魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 スタンピードの発生から一週間後……
 冒険者たちの間で宴が開かれた。

 一週間の間が空いたのは、怪我人の治療と、街の復興が待っていたからだ。
 かくいう俺も、無理をしたことであちこちを痛めていたので、治療をして静養することになった。

 ただ、重傷ではない。
 治癒院で回復魔法をかけてもらったので、大きな怪我は治った。
 失われた体力までは戻らないので、静養していたのだ。

 本来なら、一ヶ月ほどの静養が必要らしいが……
 そんなに寝ていられない。
 あと、寝ているとヒカリとメアリーがやたらと世話を焼こうとするので、おちおち横になることもできない。
 今回の怪我の半分は、メアリーにトドメを刺されたようなものだからな。

 それはともかく。

 俺と似たような感じで、他の冒険者たちも治療に専念して……
 怪我をしていない者は街の復興に注力して……

 そうしている間に一週間が過ぎた。
 そして、怪我人もある程度回復したし、街の復興もある程度進んだということで、スタンピードを乗り越えた祝の宴を開くことになったのだ。

「「「かんぱーいっ!!!」」」

 エールの入ったジョッキをぶつける音と歓声があちこちから聞こえてきた。

 街の広場にテーブルなどを並べて、臨時の宴会場が設けられた。
 そこにたくさんの冒険者と街の人々が集まり、思い思いに騒いでいる。

「ようっ、救世主! 一杯おごらせてくれないか?」

 一人、静かに飲んでいると、顔を赤くしたほろ酔いの冒険者らしき男に話しかけられた。

「いいのか? ……うん? なんだ、その大層な呼び名は?」
「あんたはこの街を救った英雄だ! だから、救世主だよ。なんらおかしくないだろう?」
「いやいや、おかしいだろ。俺が救世主なんて……俺は魔法を使えない落ちこぼれだぞ?」
「んなことは関係ねーよ。あんたの実力は、ここにいる全員が知っている。なあ、みんな!?」
「おうっ! イクスの旦那は魔法は使えないかもしれないが、でも、ここにいる誰よりも強い! 俺が保証してやるぜ」
「てめえに保証されても仕方ないだろうが。まあ……なかなかやるじゃねーか、それは認めてやるぜ」
「今度、俺にも剣を教えてくれよ! 魔法も剣も使えたら最強じゃね?」
「ばーか。お前が救世主と同じレベルに到達できるわけねーだろ。あんな力を身につけるなんてこと、お前には無理さ。救世主だけのものさ」

 思わず目を丸くしてしまう。

 こいつら……俺のことを褒めているのか?
 魔法を使えない落ちこぼれの俺を……?

 そんなことありえないと思うものの……
 でも、目の前で繰り広げられる会話は確かなもので、夢や幻などではない。

「しーしょー!」

 頬を赤くして、ふらふらと千鳥足のメアリーが抱きついてきた。
 その手には酒が入った瓶が握られている。

「お前、飲んでいるのか?」
「えへへー、飲んでますよ? そりゃもう、飲んでますよー。今日はおめでたい日なんですからぁ、飲まないわけにはいかないじゃないですか! ぐびぐびぐび……ぷはぁーーーっ!!!」

 度数が高いと思われる酒を、水で割ることもなく、直接口をつけて飲む。
 メアリーはおっさんのような、酒臭い吐息をこぼした。

 コイツ、本当に15なのだろうか?
 見た目はこんなだけど、実は40とか言われても今なら納得できそうだ。

「師匠も飲みましょうよー、ほら、ほらぁっ!」
「すでに飲んでいる」
「そんなチビチビとじゃなくて、もっとこう、がーっ! って飲みましょうー!」
「相当酔っているな……」
「だってだって、みんな師匠のことを認めてくれたんですよ? すっごくうれしいじゃないですかー! だからもう、飲まずにはいられないんですぅー!」
「なんでメアリーが喜ぶ……?」
「当たり前じゃないですかぁ。だって私、師匠のことが好きですからねー! 好きな人が褒められるのは、うれしいことなんですよ」

 酔っているせいなのか、大胆なことを口にしているな。
 まあ、こんな状態だから本心なのか怪しいが……

「マスター」

 隣にヒカリが座る。
 片手に酒。
 もう片方の手に、たくさんの料理が盛られた皿。
 色々と調達してきたみたいだ。

「お酒ばかりではなくて、食べ物もどうですか? とてもおいしいですよ」
「ああ……そうだな。助かる」
「いえ、どういたしまして……ひっく」
「ひっく?」

 よくよく見てみると、ヒカリの頬はほんのりと朱色に染まっていた。
 視線もふらふらとしている。

 俺の怪訝な視線を受けて……
 それでも気にすることなく、ヒカリはグラスに入った酒を飲む。

「はふぅ……お酒、おいしいです」

 こいつ……一気飲みしたぞ。
 ますます顔が赤くなる。

「すみません、コレのおかわりをください。あ、それともっと大きいコップはありませんか?」

 近くを通りかかる給仕に、ヒカリが酒のおかわりを要求した。
 給仕が一瞬、え? というような顔になる。

 それも仕方ない。
 すでにヒカリが手にしているコップは、それなりに大きい。
 これ以上のサイズとなると、ヒカリの顔くらいになるのではないか?

「あっ……はい、わかりました!」

 給仕はしばしヒカリを見て……
 やがて納得した様子で、オーダーを通してしまう。

 ヒカリが聖剣であることは、あの戦いを通じて、大半の冒険者が知るところになった。
 そこから話が広がり……
 今の給仕のように、街の人々もヒカリのことを知ったのだろう。

 スタンピードの戦いに参加したといえるヒカリの頼みなら聞かないといけない……というような感じで、給仕は要求された通りに大きいコップになみなみと酒を注ぎ、ヒカリに渡した。

「マスター、マスター。乾杯しましょう?」
「うん?」
「ほら、かんぱーいっ、ですよ? ねえ、しましょうよ」

 ぐいぐいと服を引っ張られる。
 コイツ……
 酔っているせいか、精神年齢が下がっているぞ。

「わかったわかった。乾杯するから、服を引っ張るな。伸びる」
「ふふっ、ありがとうございます。だから、マスター好きです」

 求められるまま乾杯をして、互いに酒を飲む。

「……なあ、ヒカリ」
「はい、なんですか?」
「お前は、俺の剣になったことを後悔していないか?」

 俺も酔っているのかもしれない。
 気がついたら、そんなことを尋ねていた。

「どういう意味ですか?」
「俺は魔法が使えない落ちこぼれだ。そんなヤツに使われるよりも、もっとふさわしい主がいるだろう?」
「ですが、マスター以上の剣の持ち主となると、見つけ出せるとは思いませんが……」
「それでも、探せば一人くらいはいるんじゃないか? 魔法が使えて剣も使えるヤツが。そういうヤツに使われた方が、お前も幸せなんじゃないか、って……むぐっ!?」
「むー」

 ヒカリが不機嫌そうな顔をして、こちらの鼻をつまんできた。
 とりあえず黙ってください、という意思表示のようだ。

「マスターがどのような家に産まれて、生活を送ってきたのか。それは以前、聞いたことがあるのでわからないでもありませんが……それにしても、自己評価が低すぎます。マスターはもっと自信を持ってください」
「と、言われてもな……」

 俺としては自己評価が低いなんて思っていない。
 妥当な評価だと考えている。

「マスターはすごい剣士です。どれくらいすごいかというと……すごい剣士です」

 酔っているせいなのか、語彙力が子供並だ。

「マスター以上の剣士なんて、この世に存在しません。先日のドラゴンとの戦いで、私は、ますます確信を深めました」
「そうか……?」
「それに……マスターならば、例え剣を使えなかったとしても、私は喜んで使われていたと思いますよ」
「それじゃあ意味がないだろう」
「ないですね」

 あっさりと言い放つ。
 でも、その顔は笑顔だ。

「ですが、意味がなくてもいいじゃないですか。私はマスターと一緒にいたい。そう思うんです。それが私の意思なんです。想いであり、願いなんです」
「ヒカリ……」
「私のマスターは、イクス・シクシス……あなた一人だけなんです。他にありえません」

 そっと、ヒカリが俺の手を握る。
 そのまま、こちらの目をじっと見つめてきた。

「私は、マスターと出会うために、500年もの間、眠っていたのかもしれません」
「大げさな……」
「わりと本気ですよ? そんなことを思うくらい、マスターの人柄に惹かれているんです」

 にっこりと笑うヒカリは……なんていうか、綺麗だった。

「だから、私は……これからもマスターと一緒、にぃ……はふぅ」

 今になって酔いが回ってきたらしく、ヒカリがふらふらと左右に揺れて……
 そのままこちらに寄りかかってきた。
 ぐるぐると目を回している。
 完全に酔いつぶれていた。
 やっぱり、かなり酔いが回っていたみたいだ。

「やれやれ」
「おっ、救世主。どこに行くんだ? 宴はまだまだ続くぜ」

 冒険者に気さくに声をかけられる。
 その状況に……俺は心地よさを覚えていた。

「相棒がダウンしてな。宿に戻って寝かせてくる」

 ヒカリを背負い、宿に移動した。
 部屋に入り、ベッドに寝かせる。

「んんぅ……マスタぁ……私がそばに……ずっと、一緒ですよぉ……むにゃ……」

 ヒカリの頭を撫でる。

「……ありがとな」

 すぐに宴が開かれている広場に戻らず……
 少しの間、ヒカリの寝顔を見ていた。