魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 人は無意識のうちに力をセーブしている。
 全力を出したとしても……
 実際は30%ほどの力しか出せていないという。

 100%の力を出すと、その負荷に肉体が耐えられない。
 故に、どれだけ意識しても30%が限界だという。

 その無意識下にかけられているリミッターを解除するのが、『四之太刀・絶空』だ。

 本来、30%しか発揮できない力を100%の状態に引き上げることができる。
 人の持つポテンシャルは相当なものだ。
 100%の力を引き出すことができれば……

「グギャアアアアアッ!!!?」

 返す刃でドラゴンの片腕を切り飛ばす……こんなこともできるようになる、というわけだ。

(す、すごいです……意図的にリミッターを解除するなんて、そんなことができるなんて……)

 戦いながら念話で説明すると、ヒカリの唖然とした声が聞こえてきた。

(これも教本で得た力だ)
(漫画ですか……もはや、なんでもありですね、漫画。というか、こんなことができるのならば、最初から使っていればよかったのでは?)
(できることなら使いたくないんだよ。とんでもない負荷がかかるから、後で相当痛い目に遭う)

 リミッターを解除してまだ一分も経っていないけれど、すでに身体の各部が悲鳴をあげている。
 筋肉がギシギシと鳴り、今にも切れてしまいそうだ。
 100%の力で剣を振るうと、骨がきしみ、耐えられない部分からヒビが入っていく。

 100%の負荷に耐えられるように訓練をしてきたつもりだけど……
 まだ成し遂げることはできず、こうして、反動に苦しめられている。

(長くは保たない。一気に決めるぞ)
(はいっ、マスター!)

 片腕を失いながらも、ドラゴンが怒り狂い、もう片方の腕で俺を押しつぶそうとしてきた。
 振り下ろされる腕を剣の腹で受け止めて……
 即座に反撃に転じて、縦に切り裂いた。

「グアッ、ギャウウウウウッ!!!?」

 要塞のごとき防御力を持つ己の体が簡単に切り裂かれて、ドラゴンは軽いパニックに陥る。
 痛みに苦しみ、体液を撒き散らすようにのたうち回る。
 それでもまだ生命力は途切れていない。
 動き回る体力も残っているらしく、咆哮を撒き散らしている。

 ただ、これ以上の戦闘は避けることを望んだらしい。

 翼を広げ、宙へ羽ばたく。
 撤退を決めて、そのまま飛び去ろうとするが……

「逃さねえよっ!」

 足に力を込めて……跳躍!
 リミッターを解除しているから、羽のように軽い。
 直上に飛び……
 ドラゴンを追い抜いて、遥か上空で反転する。

 その後、重力に引かれて落下して……
 その勢いを剣に乗せて、全力の一撃を叩き込む!

「三之太刀……月影!!!」

 半円を描くように剣を振る。
 刃がドラゴンの首を切り飛ばして、その生命を断つ。

 ドラゴンの巨体は、朝日に消える闇夜のように散り……
 巨大な魔石となって地面に落ちた。

「お……うぉおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!!!」

 誰が最初に声をあげたのか。
 最大の難敵が屠られたことを喜び、冒険者たちが歓声をあげた。
 それは次々と伝染していき、この場にいる者が皆、手を高く掲げて、声を張り上げた。

 その後……
 俺も着地して、そのまま膝をついた。

「マスター、大丈夫ですか!?」

 擬人化したヒカリが駆け寄ってきた。
 ぎゅうっと抱きつかれるのだけど……

「痛い痛い痛いっ……!?」

 リミッターは元に戻したけれど、反動が消えることはない。
 むしろ、悲惨なのはこれからだ。
 筋肉痛のように、後からじわじわと遅れて痛みと苦しみがやってくる。

「あぁっ!? す、すみません、マスター」
「いや……とりあえず、離れてくれるとうれしい」
「は、はいっ」

 ヒカリが素直に離れてくれた。
 危なかった。
 今の俺は、超虚弱体質のようなものだからな。
 今なら、子供にもケンカで負ける自信があるぞ。

「ヒカリ……すまん。ポケットにポーションがあるから、取ってくれないか? 今は体を少し動かすだけでも、ものすごく痛い……」
「わ、わかりました。えっと……これですね? はい、どうぞ」

 ヒカリがポーションを俺の口にあてがう。
 取り出すだけでよかったんだが……
 まあいいか。
 今は、本当に体を動かすだけでも辛いので、素直に甘えることにする。

「……ふう」

 ヒカリにポーションを飲ませてもらい、少しは痛みがマシになった。

「どうですか、マスター? 大丈夫ですか?」
「なんとかな。まだあちこち痛いが……とりあえず、動けるようにはなった」

 立ち上がり、体のあちこちを動かして具合を確認する。
 ヒビが入っているが……
 幸いというか、折れている箇所はなさそうだ。
 治癒院で回復魔法をかけてもらえば、後遺症もなく治るだろう。

「おいっ、あんたすげえな!? まさか、あのドラゴンを倒しちまうなんて……驚いたぜ!」
「他のヤツに話を聞いたが、剣士なんだって? それなのにあんな力を持っているなんて、くううう、反則だろう。すごすぎて、嫉妬を通り越して尊敬しかねえよ!」
「今度、握手をしてくれよ! おまえさんは、この街の英雄だ!」

 残った魔物の掃討を終えた冒険者たちが、皆笑顔で駆け寄ってきた。
 それぞれ、興奮気味に話しかけてくる。

「……」

 思わずぽかんとしてしまう。

 どうして……こんなことに?
 俺は落ちこぼれの剣士で、彼ら彼女らは魔法使いで……
 蔑まれることはあっても、褒められることなんてない。
 そんなことは今まで、一度もなかった。

 それなのに……

「マスター」

 ヒカリがとても優しい顔をしていた。

「あまり引け目を感じないでください。マスターはすごい剣士です。魔法が使えなくても、魔法使い以上の力を出すことができる、すごい剣士です。そのことは、他の皆も認めています。こうして、認めてくれているんです。だから……今は、素直にその賞賛を受け取りましょう。胸を張って、誇りましょう」

 ヒカリの言葉がとても温かい。
 胸に染み渡るみたいだ。

 俺は……誰かに認められたかったのだろうか?
 こうして、よくやった、と声をかけてもらいたかったのだろうか?
 今までに、そんなことは一度もなかったから、そういうことを求めて……
 そういうこと……なのだろうか?

「……」

 わからない。
 ヒカリに言われたけれど、まだ自分の心は整理できない。

 ただ……

 俺は皆の歓声に応えるように、勝利を掴みとったというように、拳を高く高く突き上げた。
 歓声がよりいっそう強くなる。

 どうするべきか、まだわからないが……
 今はヒカリが言ったように、素直に称賛を受け取ることにしよう。
 そして、それに応えることにしよう。

「ふふっ、さすが私のマスターです」

 ヒカリは上機嫌な様子で、にこにこと笑っていた。
 いつも落ち着いているから、そういう顔は珍しい。

 そして……

「しっ、ししょぉおおおおおぉぉぉっ!!!!!」

 満面の笑みを浮かべて、メアリーが駆け寄ってくるのが見えた。
 あ、イヤな予感。

「さすが師匠ですっ! ドラゴンを圧倒するなんて、すごすぎますっ! 師匠、最高ですっ!!!」

 思い切り抱きつかれて……

「ぐあっ!!!?」

 思わず悲鳴をこぼしてしまう俺であった。

 締まらない結果になったものの……
 かくして、レッドフォグを襲う危機を乗り越えることができたのだった。