魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 レッドフォグのダンジョンは街の中心に位置する。
 塔のような外観だ。

 いざという時に備えて、その作りは堅牢なものになっている。
 ギルドカードなしでは出入りすることができず、出入り口は強固に閉ざされている。
 攻城兵器を撃ち込んでも、すぐには壊れないほどの耐久度があった。

 その扉が……今、壊れた。

「グギャッ、ギャギャギャ!」
「キシャアアアアアァッ!!!」
「グルルルルルッ……!」

 扉が吹き飛び、大量の魔物があふれてきた。

 ゴブリン、スライム、オーク、オーガ、リザードマン、ウルフ、ゴーレム、キラービー、ワーム、キャタピラー、ゾンビ、フロッグ、キラースパイダー、アイアンアント、ブラッディベアー、ブラッドスネーク……

 数えきれないほどの魔物が次々と姿を見せる。
 その全てが、血のように紅い目をしていた。
 スタンピードで暴走している状態を示していた。

 ダンジョンの外に出たことで、魔物の体が端から崩れ始める。
 しかし、その速度は遅く、完全に崩れるまで30分はかかるだろう。
 その30分の間に、どれだけの破壊をもたらすことができるだろうか?
 そのことを考えて、スタックは顔を青くした。

 しかし、ここで怯えている場合ではない。
 ロズウェルから迎撃を任されたのだ。
 なんとしても父の期待に応えてみせる!

 スタックは手をあげて……周囲の冒険者たちに号令を下す。

「攻撃開始!」

 砦を囲むように防壁を築いていた。
 急造なので、木材や鉄骨を積み重ねただけの簡易なものだ。
 それでもないよりはマシだ。

 防壁に身を潜めながら、塔を囲む冒険者たちが、一斉に魔法を放つ。

 炎、氷、土、雷、光、闇……ありとあらゆる属性の魔法が吹き荒れて、魔物の群れを消し飛ばした。
 しかし、敵の数は万に届くほどだ。
 撃ち漏らしが損じてしまい、体の小さい魔物などが駆けてきた。

「予備隊、撃て!」

 スタックの合図で、第二射が放たれた。
 撃ち漏らした魔物たちを正確に射抜き、絶命させる。

 これがスタックの考えた作戦だった。
 まずは大火力をもって、敵の大部分を削り取る。
 その後、後発組が撃ち漏らした敵を仕留める。
 念のために、第三陣まで控えている。

(いけるっ、いけるぞ!)

 第一波を掃討することができて、スタックは笑みを浮かべた。

 急造の混成部隊であるにも関わらず、きちんと統制がとれていた。
 事前の打ち合わせ通りに行動してくれている。
 その結果、魔物の第一波を壊滅させることに成功した。

 後は繰り返すだけだ。
 こちらの魔力が尽きるか、魔物が全滅するか。
 どちらが先か?
 そこは賭けになってしまうが、決して勝てない戦ではない。

「いくぞ! 第二射、攻撃開始!」

 必ず勝利してみせると意気込みながら、スタックは強い声で命令を飛ばした。



――――――――――



 どれくらい戦っただろうか?
 どれだけの魔物を倒しただろうか?

 スタックはそんな疑問を抱くが……
 疲労が邪魔をして、まともにものを考えることはできない。
 魔物を迎撃することだけを考えて、ひたすらに魔法を放つ。

「ファイアーデトネーション!」

 途中からスタックも攻撃に参加していた。
 指揮官が直接戦闘に参加することは好ましくないが……
 長時間の戦闘に耐えられず、次々と魔力切れを起こす者が出てきてしまい、その穴を埋めるために参戦せざるをえなかったのだ。

 すでに陽は遥か彼方に沈み、月が輝いている。

 単純計算で、半日は戦い続けている。
 辺り一面に数えきれないほどの魔石が散らばっている。
 街の財源を大幅に潤すことができるだろう。

 ……ただし、この戦いを乗り切ることができれば、の話であるが。

「スタックさま、また魔物の増援が!」
「くっ、まだ続くというのか!」

 倒しても倒してもキリがない。
 無限なのかと思うほどに、魔物は次から次にあふれ出てきた。

 すでに戦線は崩壊しつつある。
 防衛ラインを越えて、街に入り込んでしまった魔物もいる。

 それでも、諦めるわけにはいかないのだ。
 諦めてしまえばそこで終わりだ。

 それに、勝機がないわけではない。
 ダンジョンに潜ったままの冒険者たちが戻ってくれば、戦力の回復が期待できる。
 立て直しを計ることができる。
 やけに遅いことが気になるが……
 もしかしたら、スタンピードの影響でポーターが使用不能になっているのかもしれない。

 絶望的な気分になりながらも、スタックは戦い続けるが……
 その心を決定的に折る出来事が起きた。

「グルァアアアアアァァァッ!!!!!」

 仲間であるはずの魔物を踏み潰し、その巨体を見せつけるように翼を広げながら、ソレが姿を現した。

 大きく口が裂けていて、牙は一つ一つが槍のように大きく鋭い。
 全身を覆う鱗は鋼鉄のように硬く、さらに魔法に対する高い耐性を持つ。
 その巨体を飛ばす力を持つ翼は天を覆うほどに大きい。

 ドラゴン。

 Aランクの魔物だ。
 非常に強力な個体で、ドラゴン一匹で街が壊滅したという話があるほどだ。
 その力はすさまじく、Bランクの冒険者でさえも歯が立たないという。
 国に数人しかいないと言われているAランクの冒険者でなければ倒すことはできない。

 そして……この場にAランクの冒険者はいない。

「くっ……!」

 スタックは絶望に飲み込まれかけるが……必死に気力を奮い立たせて、その場に踏みとどまる。
 自分は指揮官なのだ。
 指揮官が戦意喪失したら、そこで全てが終わってしまう。

「怯むなっ、全員、全力で攻撃をしろ!」

 スタックは冒険者たちに激を飛ばした。
 それに応えるように、冒険者たちは魔法を詠唱する。

 炎の矢。氷の槍。土の弾丸。雷の剣。風の刃。光の奔流。闇の魔法陣。
 ありとあらゆる種類の魔法が放たれる。
 それらは横殴りの雨のように、破壊の嵐を吹き荒れさせる。

 絶え間ない攻撃に、ドラゴンが怯むような仕草を見せた。
 それを見た冒険者たちは、さらに攻撃を加える。
 一時も休むことなく。
 ただただ魔法を唱え続ける。

 数十人もの魔法使いが同時に魔法を放つ。
 一発一発が、小さな魔物なら一撃で倒せるほどの威力がある。
 それを百……いや、千発以上。
 到底、耐えられるものではない。

 そこに、さらにダメ押しの一撃が加えられる。

「ギガ・ファイアーデトネーション!!!」

 スタックが上級魔法を解き放つ。

 巨大な炎の塊が宙に現れた。
 10メートルは越えるだろう。
 小さな家なら丸ごと飲み込んでしまいそうだ。

 炎塊は熱波を撒き散らす。
 その表面温度はいくらだろうか?
 鉄ならば軽く溶けてしまうかもしれない。

 スタックが手を振り下ろして……
 その動きと連動するように、炎塊がドラゴンめがけて落下した。

 まるで隕石だ。
 炎がドラゴンを飲み込み……
 爆炎となって吹き荒れる。
 周囲のものをことごとく吹き飛ばして、天に届きそうなほどの巨大な火柱を立ち上げて……
 全てを塵に返していく。

 冒険者たちが歓声をあげた。

 あれほどの一撃を食らえば、いくらドラゴンでも無傷というわけにはいかない。
 生きていられるわけがない。
 ドラゴンを倒すことができた。
 街を守ることができた。
 スタンピードを乗り越えることができた。

 喜びの声をあげる。
 そんな人々を見て、スタックも笑顔を取り戻した。

 しかし……その笑顔はすぐに固まる。

「グルルルゥ……」

 煙が晴れて……
 その先にドラゴンの姿があった。
 無傷だった。
 ドラゴンの強靭な鱗を突破できた攻撃は皆無だった。
 怒りを買うだけであり、意味のない行動だった。

「そ、そんな……」

 心が折れて、スタックはその場に膝をついた。
 他の冒険者たちも似たような様子だ。
 ドラゴンの圧倒的な力を思い知り、それに抗う術はない。

 ドラゴンは冒険者たちをなぶるように、ゆっくりと巨大な口を開いた。
 鋭い牙が並んでいるのが見える。
 その奥に炎が収束していき、破壊を撒き散らそうと……

 ガァンッ!!!

 突如、空から降ってきたなにかがドラゴンの頭を叩いた。
 ドラゴンはその打撃に耐えきれず、頭を地面にめりこませてしまう。

 ドラゴンが初めてまともなダメージを負う。
 それを成し遂げたのは……

「間に合ったか」

 イクスだった。