トラップを解除した後……
俺たちは地上へ戻った。
今まで通り、なにか予想外のことが起きた時のために待機する。
そのまま陽が暮れた。
夜になり、A班が地上へ帰還して、B班にバトンタッチされる。
ダンジョン攻略は順調で、8層に到達したらしい。
その後……
夜にトラブルが起きることもなく、俺たちはぐっすりと寝ることができた。
俺たちが出動したのは、面倒なトラップを解除する時の一回だけだ。
他に事件らしい事件はない。
翌朝……
C班が出動した。
攻略している階層は9層だ。
しかも、10層に繋がる階段も見つけているという。
ここから先は未知の領域だ。
なにが起きるかわからない。
常識では計り知れないトラブルが起きるかもしれない。
いざという時に備えて、俺たちも最初から同行することにした。
そして……レッドフォグのダンジョンの未踏地。
10層へ足を踏み入れる。
「ここが10層ですか……意外と普通ですね」
隣を歩くメアリーがそんな感想を漏らした。
メアリーの言う通り、10層になったからといって目新しいことはなかった。
今までの階層と大して変わらない。
魔物の強さは増しているが、十分に対処可能なレベルだ。
冒険者たちが魔法を使い、周囲の魔物を掃討していた。
(マスターは戦わないのですか?)
すでに剣になってもらっているヒカリは、念話で話しかけてきた。
普通に声を出してもヒカリは聞き取れるのだけど……
傍から見ると独り言をつぶやいているように見えるので、念話で返す。
(戦いたいところではあるが……)
遊撃隊とはいえ、のんびりしていたら魔石も何も手に入れることはできない。
ただ……剣士なんて呼んでいない、という雰囲気なんだよな。
他の冒険者たちは、ほとんどの者が第一線で活躍するベテランだ。
そんな者が、ぽっと出の剣士を……しかもFランクの冒険者を頼りにするわけがない。
ここに来てから厳しい視線を向けられてばかりで、有効的なものはまるでない。
こうして戦いになったとしても、剣士の出番はないというように、即座に魔法が発動されて魔物が駆逐されている。
(まあいいさ。俺の場合は、1階層奥に進むだけでも報酬がもらえる。かなりの額だ。それで十分だ)
(……私は不十分ですが)
(なぜだ?)
(私の大事なマスターをバカにされるのは許せません)
(……ありがとな)
(え?)
(ヒカリがそう思ってくれているなら、それでいいさ。他のヤツにどう思われようと知ったことじゃない。だから、俺はまったく気にしていない)
(マスター……はいっ、私はいつまでもマスターの味方ですからね!)
今のヒカリは剣になっているのだけど……
にっこりと笑っているような気がした。
――――――――――
10層の探索が無事に終わり、11層へ続く階段を見つけた。
多少の怪我人は出ているが、脱落者はいない。
いいペースだった。
11層へ降りる前に、ポーターを設置することになった。
周囲を警戒しつつ、冒険者たちが作業にあたる。
「やあ、イクスじゃないか」
のんびりと作業を眺めていると、聞き覚えのある声が。
振り返ると、アトリーの姿があった。
「アトリーか。久しぶりだな」
「久しぶり。イクスも攻略に参加していたんだね」
「ああ。アトリーもな」
「これでも、一応、Cランクだからね。ロズウェルさまから声をかけてもらったよ。イクスもロズウェルさまから?」
「そういうことだ。誰かさんの推薦があったおかげでな」
「あはは、余計なことをしたかな?」
「いや。素直に助かる。今は仕事が欲しいからな」
「そうか。ならよかったよ」
「アトリー、誰と話をして……むっ」
もう一人、見覚えのある顔が現れた。
ただ、アトリーのように親しげな笑みは見せていない。
こちらを睨みつけている男は……スタックだった。
「貴様か……このようなところでのんびりしているとは、良い身分だな」
「俺は魔法が使えない。日常的な魔道具ならともかく、ポーターのような専門的な魔道具を設置することはできない。なら、周囲の警戒をする方が効率がいいと思わないか?」
「無駄話をしているように見えたが?」
「これでも警戒は続けている。事実、周囲に魔物はいないだろう?」
図星らしく、スタックはなにも言えない。
俺に対して悪感情を持つのは勝手で、理由もわからなくはないが……
俺がおとなしく言われるがままにされると思わないでほしい。
頭に来た時は、普通に嫌味を混ぜて言い返す。
「ちっ……まあいい。お前に構っている時間は私にはない。アトリー、ついてこい」
「どうしたんですか?」
「10層の一部で妙な魔力反応があった。我々で調査に赴く」
「攻略はどうするんですか?」
「そちらは別に進めておく。我々も、そこの男と同じような遊撃隊なのだ。妙な魔力反応……気になるから捨て置くことはできない」
「わかりました。お供します」
「準備ができたら声をかけろ。急げよ」
言うだけ言って、スタックはこの場を立ち去る。
俺の近くにいたくないという感じだ。
そんなスタックの気持ちを察したらしく、アトリーが苦笑する。
「すまないね。スタックさまも悪い人ではないのだけど、ちょっと気の難しいところがあって……」
「アトリーも大変だな、あんなヤツと一緒にいないといけないなんて」
スタックは、アトリーも遊撃隊と言っていたから……
常に一緒に行動しているのだろう。
すごいな、と尊敬する。
あんな男と一緒にいたら、俺なら、ストレスで円形脱毛症になる自信があるぞ。
「じゃあ、僕は行くよ。イクスは、このまま11層へ?」
「その予定だ」
「そっか。がんばってほしい。それと、気をつけて」
「アトリーもな」
互いの健闘を祈り、俺たちは別れた。
「「むぅ」」
近くで話を聞いていたヒカリとメアリーが、揃って頬を膨らませた。
「あの男……私の大事なマスターをバカにしすぎでは? 許されることではありませんね」
「兄さんったら、しつこいんだから……おはようの挨拶を大嫌い! に変えてやろうかな?」
近頃、息の合う二人であった。
――――――――――
スタックとアトリーは本隊から離れて、別行動をとっていた。
スタックが感じたという、妙な魔力反応を調べるためだ。
踏破したばかりの階層を二人だけで……というのは、多少、不安がある。
ただ、攻略隊が大半の魔物を倒している。
魔物は周期的に湧いてくるが、さすがに数時間で復活はしない。
早くても半日はかかる。
故に、二人だけで行動をしても安全なのだ。
「ところで、妙な魔力反応というのはどの辺りで?」
「この先だ」
スタックはマッピングした地図を取り出して、ダンジョンの左端を指さした。
ちなみに、本隊は右端にいる。
「本隊からだいぶ離れてしまいますね」
「すでに大半の魔物は掃討されている。それに、この階の魔物の力は判明したし、階層主の部屋も避ければ問題はないだろう」
「そうですね。でも、気をつけていきましょう」
「わかっている」
二人はしばし無言で歩いた。
少しして、スタックが不思議そうにアトリーに問いかける。
「お前は、あの男と仲が良いのか?」
「あの男? ……もしかして、イクスのことですか?」
「ああ、ソイツだ」
「うーん、どうでしょうね。僕としては仲良くなりたいと思っていますが……彼の方はどう思っているのか」
「剣士を友にしたいと言うのか? ヤツは魔法を使えない役立たずなんだぞ?」
「確かに、魔法は使えないみたいですが……でも、剣士としてはとんでもない力を持っていますからね」
「アトリーもヤツを持ち上げるのか……」
「事実ですから。持ち上げているつもりはありませんよ」
「ふん……どいつもこいつも、目がおかしいのではないか? たかが剣士なのだぞ。我々魔法使いにひざまずくべきなのだ」
「……そうですね」
スタックはぶつぶつと文句を並べるが……
悪態ばかりをついていたため、アトリーが浮かべた表情に気づくことはなかった。
アトリーはひどく暗い顔をして、冷たい笑みを浮かべていた。
「ここだな」
1時間ほど歩いたところで、スタックとアトリーは目的地に到着した。
小さな部屋だ。
一辺が5メートルほどで、高さは2メートルほど。
行き止まりで、なにも置かれていない。
「……なんだ、あれは?」
部屋の中央に漆黒があった。
黒い……果てしなく黒い霧が渦を巻いている。
黒い渦は少しずつ大きくなっている。
時折、黒い渦の中央に別の光景が見えた。
魔法で別の場所と繋げているかのように、なにかが見える。
目を凝らして見ると……
「ひっ!?」
「これは……なんて数の魔物だ」
スタックとアトリーは顔を青くした。
千を越える……いや。
万に届きそうな魔物の群れが蠢いているのが見えた。
魔物の群れはこちらに手を伸ばしていて、今にも這い上がってきそうだ。
それを見たアトリーは、最悪の可能性を思いついた。
「もしかして、これは……スタンピードの予兆か!?」
俺たちは地上へ戻った。
今まで通り、なにか予想外のことが起きた時のために待機する。
そのまま陽が暮れた。
夜になり、A班が地上へ帰還して、B班にバトンタッチされる。
ダンジョン攻略は順調で、8層に到達したらしい。
その後……
夜にトラブルが起きることもなく、俺たちはぐっすりと寝ることができた。
俺たちが出動したのは、面倒なトラップを解除する時の一回だけだ。
他に事件らしい事件はない。
翌朝……
C班が出動した。
攻略している階層は9層だ。
しかも、10層に繋がる階段も見つけているという。
ここから先は未知の領域だ。
なにが起きるかわからない。
常識では計り知れないトラブルが起きるかもしれない。
いざという時に備えて、俺たちも最初から同行することにした。
そして……レッドフォグのダンジョンの未踏地。
10層へ足を踏み入れる。
「ここが10層ですか……意外と普通ですね」
隣を歩くメアリーがそんな感想を漏らした。
メアリーの言う通り、10層になったからといって目新しいことはなかった。
今までの階層と大して変わらない。
魔物の強さは増しているが、十分に対処可能なレベルだ。
冒険者たちが魔法を使い、周囲の魔物を掃討していた。
(マスターは戦わないのですか?)
すでに剣になってもらっているヒカリは、念話で話しかけてきた。
普通に声を出してもヒカリは聞き取れるのだけど……
傍から見ると独り言をつぶやいているように見えるので、念話で返す。
(戦いたいところではあるが……)
遊撃隊とはいえ、のんびりしていたら魔石も何も手に入れることはできない。
ただ……剣士なんて呼んでいない、という雰囲気なんだよな。
他の冒険者たちは、ほとんどの者が第一線で活躍するベテランだ。
そんな者が、ぽっと出の剣士を……しかもFランクの冒険者を頼りにするわけがない。
ここに来てから厳しい視線を向けられてばかりで、有効的なものはまるでない。
こうして戦いになったとしても、剣士の出番はないというように、即座に魔法が発動されて魔物が駆逐されている。
(まあいいさ。俺の場合は、1階層奥に進むだけでも報酬がもらえる。かなりの額だ。それで十分だ)
(……私は不十分ですが)
(なぜだ?)
(私の大事なマスターをバカにされるのは許せません)
(……ありがとな)
(え?)
(ヒカリがそう思ってくれているなら、それでいいさ。他のヤツにどう思われようと知ったことじゃない。だから、俺はまったく気にしていない)
(マスター……はいっ、私はいつまでもマスターの味方ですからね!)
今のヒカリは剣になっているのだけど……
にっこりと笑っているような気がした。
――――――――――
10層の探索が無事に終わり、11層へ続く階段を見つけた。
多少の怪我人は出ているが、脱落者はいない。
いいペースだった。
11層へ降りる前に、ポーターを設置することになった。
周囲を警戒しつつ、冒険者たちが作業にあたる。
「やあ、イクスじゃないか」
のんびりと作業を眺めていると、聞き覚えのある声が。
振り返ると、アトリーの姿があった。
「アトリーか。久しぶりだな」
「久しぶり。イクスも攻略に参加していたんだね」
「ああ。アトリーもな」
「これでも、一応、Cランクだからね。ロズウェルさまから声をかけてもらったよ。イクスもロズウェルさまから?」
「そういうことだ。誰かさんの推薦があったおかげでな」
「あはは、余計なことをしたかな?」
「いや。素直に助かる。今は仕事が欲しいからな」
「そうか。ならよかったよ」
「アトリー、誰と話をして……むっ」
もう一人、見覚えのある顔が現れた。
ただ、アトリーのように親しげな笑みは見せていない。
こちらを睨みつけている男は……スタックだった。
「貴様か……このようなところでのんびりしているとは、良い身分だな」
「俺は魔法が使えない。日常的な魔道具ならともかく、ポーターのような専門的な魔道具を設置することはできない。なら、周囲の警戒をする方が効率がいいと思わないか?」
「無駄話をしているように見えたが?」
「これでも警戒は続けている。事実、周囲に魔物はいないだろう?」
図星らしく、スタックはなにも言えない。
俺に対して悪感情を持つのは勝手で、理由もわからなくはないが……
俺がおとなしく言われるがままにされると思わないでほしい。
頭に来た時は、普通に嫌味を混ぜて言い返す。
「ちっ……まあいい。お前に構っている時間は私にはない。アトリー、ついてこい」
「どうしたんですか?」
「10層の一部で妙な魔力反応があった。我々で調査に赴く」
「攻略はどうするんですか?」
「そちらは別に進めておく。我々も、そこの男と同じような遊撃隊なのだ。妙な魔力反応……気になるから捨て置くことはできない」
「わかりました。お供します」
「準備ができたら声をかけろ。急げよ」
言うだけ言って、スタックはこの場を立ち去る。
俺の近くにいたくないという感じだ。
そんなスタックの気持ちを察したらしく、アトリーが苦笑する。
「すまないね。スタックさまも悪い人ではないのだけど、ちょっと気の難しいところがあって……」
「アトリーも大変だな、あんなヤツと一緒にいないといけないなんて」
スタックは、アトリーも遊撃隊と言っていたから……
常に一緒に行動しているのだろう。
すごいな、と尊敬する。
あんな男と一緒にいたら、俺なら、ストレスで円形脱毛症になる自信があるぞ。
「じゃあ、僕は行くよ。イクスは、このまま11層へ?」
「その予定だ」
「そっか。がんばってほしい。それと、気をつけて」
「アトリーもな」
互いの健闘を祈り、俺たちは別れた。
「「むぅ」」
近くで話を聞いていたヒカリとメアリーが、揃って頬を膨らませた。
「あの男……私の大事なマスターをバカにしすぎでは? 許されることではありませんね」
「兄さんったら、しつこいんだから……おはようの挨拶を大嫌い! に変えてやろうかな?」
近頃、息の合う二人であった。
――――――――――
スタックとアトリーは本隊から離れて、別行動をとっていた。
スタックが感じたという、妙な魔力反応を調べるためだ。
踏破したばかりの階層を二人だけで……というのは、多少、不安がある。
ただ、攻略隊が大半の魔物を倒している。
魔物は周期的に湧いてくるが、さすがに数時間で復活はしない。
早くても半日はかかる。
故に、二人だけで行動をしても安全なのだ。
「ところで、妙な魔力反応というのはどの辺りで?」
「この先だ」
スタックはマッピングした地図を取り出して、ダンジョンの左端を指さした。
ちなみに、本隊は右端にいる。
「本隊からだいぶ離れてしまいますね」
「すでに大半の魔物は掃討されている。それに、この階の魔物の力は判明したし、階層主の部屋も避ければ問題はないだろう」
「そうですね。でも、気をつけていきましょう」
「わかっている」
二人はしばし無言で歩いた。
少しして、スタックが不思議そうにアトリーに問いかける。
「お前は、あの男と仲が良いのか?」
「あの男? ……もしかして、イクスのことですか?」
「ああ、ソイツだ」
「うーん、どうでしょうね。僕としては仲良くなりたいと思っていますが……彼の方はどう思っているのか」
「剣士を友にしたいと言うのか? ヤツは魔法を使えない役立たずなんだぞ?」
「確かに、魔法は使えないみたいですが……でも、剣士としてはとんでもない力を持っていますからね」
「アトリーもヤツを持ち上げるのか……」
「事実ですから。持ち上げているつもりはありませんよ」
「ふん……どいつもこいつも、目がおかしいのではないか? たかが剣士なのだぞ。我々魔法使いにひざまずくべきなのだ」
「……そうですね」
スタックはぶつぶつと文句を並べるが……
悪態ばかりをついていたため、アトリーが浮かべた表情に気づくことはなかった。
アトリーはひどく暗い顔をして、冷たい笑みを浮かべていた。
「ここだな」
1時間ほど歩いたところで、スタックとアトリーは目的地に到着した。
小さな部屋だ。
一辺が5メートルほどで、高さは2メートルほど。
行き止まりで、なにも置かれていない。
「……なんだ、あれは?」
部屋の中央に漆黒があった。
黒い……果てしなく黒い霧が渦を巻いている。
黒い渦は少しずつ大きくなっている。
時折、黒い渦の中央に別の光景が見えた。
魔法で別の場所と繋げているかのように、なにかが見える。
目を凝らして見ると……
「ひっ!?」
「これは……なんて数の魔物だ」
スタックとアトリーは顔を青くした。
千を越える……いや。
万に届きそうな魔物の群れが蠢いているのが見えた。
魔物の群れはこちらに手を伸ばしていて、今にも這い上がってきそうだ。
それを見たアトリーは、最悪の可能性を思いついた。
「もしかして、これは……スタンピードの予兆か!?」



