一悶着あったものの……
メアリーもダンジョン攻略に参加することになった。
魔法を使うことができず、剣で戦う俺は、遊撃隊として編成されることになった。
基本は前衛。
状況に応じて、臨機応変に立ち回る。
自由に動いていいのは、楽といえば楽だが……
その分、責任は大きい。
戦線が崩壊しないように、各所をサポートしていかないといけないからな。
メアリーは俺と一緒に行動することになった。
本来ならば、別の隊に組み込まれる予定だったのだけど……
俺と一緒がいいと、メアリーがダダをこねたのだ。
ロズウェルが、「俺と一緒なら安心だ」とか過保護なことを言い出して……
結局、俺とパーティーを組むことになった。
まあ、今のメアリーの力なら足を引っ張られることはないだろう。
俺としても、後衛は望むところなので、素直にメアリーのパーティー参加を受け入れた。
こうして……
俺、ヒカリ、メアリーの三人が遊撃隊となった。
ヒカリは剣になってもらうので、俺とメアリーの二人だ。
それでも、俺たちならばうまくやっていけるだろう。
不思議とそう思うことができた。
そして……
ダンジョンの大規模攻略を開始する日が訪れた。
――――――――――
冒険者、サポートのスタッフを含めて、総勢100人近くがダンジョンの前に集まっている。
なかなか壮観な光景だ。
「いくぞ!」
A班のリーダーが大きな声をあげて、ダンジョンへ突入した。
残りの23人が後に続く。
冒険者たちは、たくさんの街の人に見送られて、歓声を受けていた。
街の人々にとっても、ダンジョンの攻略が進むことはうれしいことだ。
それだけ多くの魔石が手に入るし、未だ見ぬ素材が落ちているかもしれない。
それらを活用すれば、さらに街は発展できる。
「師匠、師匠。私たちはいつ突入するんですか?」
メアリーが子犬のようにまとわりついてきた。
尻尾があれば、ぶんぶんと横に振っていそうだ。
わかりやすいヤツだなあ。
「俺たちは、しばらく待機だ」
「そうなんですか? 先陣を切って突入して、たくさんの手柄を立てないんですか?」
「そうしたいところだけど……」
「マスターは妙なところで慎重なので」
俺の代わりに、というようにヒカリが口を開いた。
「未踏の階層に挑むのだから、なにかしらトラブルが発生する……とのことです。怪我人が出たり、想定以上の魔物が現れたり……遊撃隊は、そういう時に備えておかないといけません。なので、今はここで待機……というのがマスターの考えです」
「なるほどー、そう考えると、とても重要な役ですね。でもでも、応援に駆けつけるとしても、どうするんですか? ダンジョンはとても広いですから、マッピングされていたとしても、追いつくのには相当な時間がかかると思いますが」
冒険者を目指しているだけあって、いい着眼点を持っている。
メアリーは将来、良い冒険者になるかもしれないな。
……などと、冒険者になったばかりの俺がそんなことを考えてみる。
「移動にはポーターを使う」
「ぽーたー?」
「魔道具だ。設置に少し時間がかかるが……あらかじめ設置しておけば、そこに一瞬で移動できるという優れた魔道具だ」
「おぉ、そんなものがあったんですね! あれ? でも、そんな便利なものがあるのなら、もっとダンジョン攻略が進んでいてもいいんじゃあ?」
「ダンジョンは一定期間で……おおよそ一週間毎に構造が変化するからな。構造が変化した後にポーターを使おうとしても、座標がズレているから正常に作動しないんだよ」
「なるほどなるほど。短期決戦の時にしか役に立たないというわけですね」
「そういうことだ」
「それにしても、さすが師匠! ダンジョンについて、とても詳しいですね。ただ強いだけじゃなくて、たくさんのことを知っているなんて、さすがです!」
「あー……まあな」
実のところ……
メアリーの修行に付き合う一方で、ダンジョンについての知識を叩き込んでいた。
未踏階層へ挑み、最下層を目指すとなると、力だけではなくて知識も求められるだろう。
そう思い、色々と勉強していたのだ。
あらかじめ知っていたわけではないので、そこまでキラキラした目を向けられると、なんていうか……メアリーを騙しているみたいで、ちょっと心が痛い。
「それにしても、マスターはすごいですね」
なぜか、ヒカリまでのっかってきた。
「なにがだ?」
「私はマスターと一緒にいたので、勉強のことも知っていますが……この一週間で、ダンジョンに関する基礎知識は全て習得して、かなりディープな情報もあらかた覚えてしまったではありませんか」
「それのなにがすごいんだ?」
「自覚なしですか……さすがマスター」
尊敬と呆れが混じったような、そんな複雑な目を向けられた。
「あれほどの膨大な知識を一週間で覚えるなんて、普通の人はできませんよ? 習得が追いつかなかったり、どこかで忘れてしまったりするものです。ですが、マスターはそんなことはなくて……マスターは剣技だけではなくて、記憶回路も特別なのですか?」
「これくらいは他のヤツもできると思うが……まあ、記憶力にはそれなりに自信はあるな」
小さい頃から魔法に関する書物を読み続けてきた。
途中、剣技に切り替えたものの……
その後も両親によって、半ば強制的に読まされてきた。
そんな経験があるものだから、物を覚えることは得意になったのかもしれない。
「なるほど、そういう理由があったのですね。納得です。苦手なことも手を抜くことなく真正面から向き合う……マスターはしっかりとした努力ができる方なのですね。尊敬します」
渋々やっていたのだけど……
手を抜いていないことは確かなので、なんとも言い返しづらい。
「それじゃあ、師匠は魔法の知識も豊富なんですか?」
「一通りの教本は読んだし、魔導書なんかも何冊か手につけていたが……その中身を実践できる機会がなかったからな。正しいかわからない、曖昧な知識だ」
「残念。師匠に魔法も教えてもらおうと思ったのに」
「最初に言っただろう。俺は魔法を教えることはできない、と。なんなら、今から他のヤツの弟子入りし直すか?」
「そんなことしません!!!」
軽い冗談で言ってみると、ものすごい勢いで反論された。
「私の師匠は師匠だけです! 他の人なんて、絶対に考えられませんっ!!!」
「お、おう……そうか」
「だから、これからもよろしくおねがいしますね、師匠!」
「わ、わかった……わかったから、顔が近い」
メアリーは本当にわんこみたいなヤツだな。
直情的で、とにかくまっすぐに行動する。
そんなヤツに慕われるのは……
少しくすぐったいながらも、悪い気分ではなかった。
師匠なんて柄ではないのだが……
それでも、メアリーのためにできることはやろう。
そんなことを思った。
「マスター、なにか起きたみたいですよ」
ヒカリの視線の先を追うと、待機していた冒険者たちが慌ただしい姿を見せていた。
なにかあったのだろうか?
俺は立ち上がり、話を聞くために移動した。
――――――――――
A班は順調に下層へ降りていき、5層へ到達したらしい。
しかし、そこで特殊なギミックがしかけられている部屋を見つけたらしい。
道が二手に分かれていて、片方は堅牢な扉。
片方にスイッチ。
スイッチを押すと扉が開くが、地面に大きな穴が空いて戻れなくなってしまうという。
スイッチをもう一度押せば、穴は元に戻るが、扉も閉まってしまう。
魔法を使い飛行すればいいのかもしれないが、その部屋では魔法が使えないらしい。
まだ5層だ。
ここで戦力を分散させるようなことをしたら、この先を進むことはできない。
どうしたものかと迷い、進行が止まってしまったらしい。
「というわけで、俺たちの出番だ」
ポーターを経由して、5層へ降りた。
そして、問題のスイッチがある部屋に移動した。
部屋は広く、一辺が50メートルほど。
高さは15メートルほどだろうか?
そして、最奥に小さな凹みがあり、そこにスイッチがある。
その手前まで移動して、試しにスイッチを押してみると……
ゴゴゴッ!
大きな音と共に床が消えてしまい、大穴ができた。
スイッチの手前、3メートルほどの床を残して、部屋の床が全て消えてしまう。
もう一度スイッチを押すと、床がせり上がり、元に戻った。
「シンプルですが、なかなか厄介なトラップですね……」
「これって、もしかして私たちがスイッチを押して、ここに残って救助を待つ……って流れですか?」
「スイッチを押すのは間違いないが、救助を待つ必要なんてないぞ」
「え?」
「それじゃあ、いくぞ」
改めてスイッチを押した。
床が消えて、遠くで扉が開く音がした。
手を振り、入り口で様子を見ていた冒険者に合図を送る。
すると、冒険者は頷くような仕草をして部屋を出ていく。
本隊に合流したのだろう。
「え? あれ? 師匠、あの人、行っちゃいましたけど……?」
「俺たちは自力でなんとかするから、構うことなく先に進んで欲しい、とあらかじめ伝えておいたからな」
「えええぇっ!? 自力で、って……ど、どうするんですか!? この部屋、魔法が使えないんですよね!?」
「マスターは、なにか解決策が?」
「魔法を使う必要はない。跳んで、乗り越えればいい」
「「はい?」」
ヒカリとメアリーが揃って首を傾げた。
この人なにを言っているんだろう? というような目をしていた。
「ヒカリは剣に。メアリーは俺にしがみついてくれ」
「わかりました」
「は、はい」
言われた通り、ヒカリは剣になる。
俺はそれを腰に収めた。
メアリーが抱きついてきたので、片手で支えてやる。
「いくぞ」
「え? いくって……ひやあああああぁっ!!!?」
床を蹴り、大きく跳んだ。
助走する場がないものの、5メートルほどを跳ぶことができた。
そこで体が重力に引かれてしまい、穴に落ちていく。
「おち、落ちるぅ!? 師匠、落ちてますよぉおおおおおっ!!!?」
(マスター!? どうするつもりなんですか!? このままだと……!)
慌てる二人とは別に、俺は落ち着いていた。
足に感覚を集中させて……
そして、空気を蹴る!
「へ?」
(は?)
メアリーとヒカリの声が重なったような気がした。
「こうして戻ればいい」
空気を蹴り、その反動で跳ぶ。
特殊な体術を用いた技で、名前を『虚空舞』と呼ぶ。
これを使えば、生身で空を駆けることができるのだ。
俺は何度も空気を蹴り……
そして、大穴のある部屋を抜けて、床のあるフロアへ戻ることに成功した。
「……」
「……」
擬人化したヒカリとメアリーは、唖然としていた。
「あの……マスター、今のはいったい……?」
「『虚空舞』って呼ばれている特殊な体術の一種だ。ごらんのように、宙を駆けることができる」
「そ、それも、もしかして、漫画で覚えた技なのですか……?」
「そうだけど……よくわかったな? 空を飛べるかもしれないと、わくわくしながら練習して習得したんだが……思いの外、使い勝手が悪くてな。短距離しか跳ぶことはできないし、それほど移動速度は早くないし、魔法の方が便利だな。やはり、俺なんかよりも魔法の方が優れているということか」
「「マスター(師匠)の方がよっぽど優れてるんですけどねぇ!!!?」」
ヒカリとメアリーが揃って大きな声をあげるのだった。
メアリーもダンジョン攻略に参加することになった。
魔法を使うことができず、剣で戦う俺は、遊撃隊として編成されることになった。
基本は前衛。
状況に応じて、臨機応変に立ち回る。
自由に動いていいのは、楽といえば楽だが……
その分、責任は大きい。
戦線が崩壊しないように、各所をサポートしていかないといけないからな。
メアリーは俺と一緒に行動することになった。
本来ならば、別の隊に組み込まれる予定だったのだけど……
俺と一緒がいいと、メアリーがダダをこねたのだ。
ロズウェルが、「俺と一緒なら安心だ」とか過保護なことを言い出して……
結局、俺とパーティーを組むことになった。
まあ、今のメアリーの力なら足を引っ張られることはないだろう。
俺としても、後衛は望むところなので、素直にメアリーのパーティー参加を受け入れた。
こうして……
俺、ヒカリ、メアリーの三人が遊撃隊となった。
ヒカリは剣になってもらうので、俺とメアリーの二人だ。
それでも、俺たちならばうまくやっていけるだろう。
不思議とそう思うことができた。
そして……
ダンジョンの大規模攻略を開始する日が訪れた。
――――――――――
冒険者、サポートのスタッフを含めて、総勢100人近くがダンジョンの前に集まっている。
なかなか壮観な光景だ。
「いくぞ!」
A班のリーダーが大きな声をあげて、ダンジョンへ突入した。
残りの23人が後に続く。
冒険者たちは、たくさんの街の人に見送られて、歓声を受けていた。
街の人々にとっても、ダンジョンの攻略が進むことはうれしいことだ。
それだけ多くの魔石が手に入るし、未だ見ぬ素材が落ちているかもしれない。
それらを活用すれば、さらに街は発展できる。
「師匠、師匠。私たちはいつ突入するんですか?」
メアリーが子犬のようにまとわりついてきた。
尻尾があれば、ぶんぶんと横に振っていそうだ。
わかりやすいヤツだなあ。
「俺たちは、しばらく待機だ」
「そうなんですか? 先陣を切って突入して、たくさんの手柄を立てないんですか?」
「そうしたいところだけど……」
「マスターは妙なところで慎重なので」
俺の代わりに、というようにヒカリが口を開いた。
「未踏の階層に挑むのだから、なにかしらトラブルが発生する……とのことです。怪我人が出たり、想定以上の魔物が現れたり……遊撃隊は、そういう時に備えておかないといけません。なので、今はここで待機……というのがマスターの考えです」
「なるほどー、そう考えると、とても重要な役ですね。でもでも、応援に駆けつけるとしても、どうするんですか? ダンジョンはとても広いですから、マッピングされていたとしても、追いつくのには相当な時間がかかると思いますが」
冒険者を目指しているだけあって、いい着眼点を持っている。
メアリーは将来、良い冒険者になるかもしれないな。
……などと、冒険者になったばかりの俺がそんなことを考えてみる。
「移動にはポーターを使う」
「ぽーたー?」
「魔道具だ。設置に少し時間がかかるが……あらかじめ設置しておけば、そこに一瞬で移動できるという優れた魔道具だ」
「おぉ、そんなものがあったんですね! あれ? でも、そんな便利なものがあるのなら、もっとダンジョン攻略が進んでいてもいいんじゃあ?」
「ダンジョンは一定期間で……おおよそ一週間毎に構造が変化するからな。構造が変化した後にポーターを使おうとしても、座標がズレているから正常に作動しないんだよ」
「なるほどなるほど。短期決戦の時にしか役に立たないというわけですね」
「そういうことだ」
「それにしても、さすが師匠! ダンジョンについて、とても詳しいですね。ただ強いだけじゃなくて、たくさんのことを知っているなんて、さすがです!」
「あー……まあな」
実のところ……
メアリーの修行に付き合う一方で、ダンジョンについての知識を叩き込んでいた。
未踏階層へ挑み、最下層を目指すとなると、力だけではなくて知識も求められるだろう。
そう思い、色々と勉強していたのだ。
あらかじめ知っていたわけではないので、そこまでキラキラした目を向けられると、なんていうか……メアリーを騙しているみたいで、ちょっと心が痛い。
「それにしても、マスターはすごいですね」
なぜか、ヒカリまでのっかってきた。
「なにがだ?」
「私はマスターと一緒にいたので、勉強のことも知っていますが……この一週間で、ダンジョンに関する基礎知識は全て習得して、かなりディープな情報もあらかた覚えてしまったではありませんか」
「それのなにがすごいんだ?」
「自覚なしですか……さすがマスター」
尊敬と呆れが混じったような、そんな複雑な目を向けられた。
「あれほどの膨大な知識を一週間で覚えるなんて、普通の人はできませんよ? 習得が追いつかなかったり、どこかで忘れてしまったりするものです。ですが、マスターはそんなことはなくて……マスターは剣技だけではなくて、記憶回路も特別なのですか?」
「これくらいは他のヤツもできると思うが……まあ、記憶力にはそれなりに自信はあるな」
小さい頃から魔法に関する書物を読み続けてきた。
途中、剣技に切り替えたものの……
その後も両親によって、半ば強制的に読まされてきた。
そんな経験があるものだから、物を覚えることは得意になったのかもしれない。
「なるほど、そういう理由があったのですね。納得です。苦手なことも手を抜くことなく真正面から向き合う……マスターはしっかりとした努力ができる方なのですね。尊敬します」
渋々やっていたのだけど……
手を抜いていないことは確かなので、なんとも言い返しづらい。
「それじゃあ、師匠は魔法の知識も豊富なんですか?」
「一通りの教本は読んだし、魔導書なんかも何冊か手につけていたが……その中身を実践できる機会がなかったからな。正しいかわからない、曖昧な知識だ」
「残念。師匠に魔法も教えてもらおうと思ったのに」
「最初に言っただろう。俺は魔法を教えることはできない、と。なんなら、今から他のヤツの弟子入りし直すか?」
「そんなことしません!!!」
軽い冗談で言ってみると、ものすごい勢いで反論された。
「私の師匠は師匠だけです! 他の人なんて、絶対に考えられませんっ!!!」
「お、おう……そうか」
「だから、これからもよろしくおねがいしますね、師匠!」
「わ、わかった……わかったから、顔が近い」
メアリーは本当にわんこみたいなヤツだな。
直情的で、とにかくまっすぐに行動する。
そんなヤツに慕われるのは……
少しくすぐったいながらも、悪い気分ではなかった。
師匠なんて柄ではないのだが……
それでも、メアリーのためにできることはやろう。
そんなことを思った。
「マスター、なにか起きたみたいですよ」
ヒカリの視線の先を追うと、待機していた冒険者たちが慌ただしい姿を見せていた。
なにかあったのだろうか?
俺は立ち上がり、話を聞くために移動した。
――――――――――
A班は順調に下層へ降りていき、5層へ到達したらしい。
しかし、そこで特殊なギミックがしかけられている部屋を見つけたらしい。
道が二手に分かれていて、片方は堅牢な扉。
片方にスイッチ。
スイッチを押すと扉が開くが、地面に大きな穴が空いて戻れなくなってしまうという。
スイッチをもう一度押せば、穴は元に戻るが、扉も閉まってしまう。
魔法を使い飛行すればいいのかもしれないが、その部屋では魔法が使えないらしい。
まだ5層だ。
ここで戦力を分散させるようなことをしたら、この先を進むことはできない。
どうしたものかと迷い、進行が止まってしまったらしい。
「というわけで、俺たちの出番だ」
ポーターを経由して、5層へ降りた。
そして、問題のスイッチがある部屋に移動した。
部屋は広く、一辺が50メートルほど。
高さは15メートルほどだろうか?
そして、最奥に小さな凹みがあり、そこにスイッチがある。
その手前まで移動して、試しにスイッチを押してみると……
ゴゴゴッ!
大きな音と共に床が消えてしまい、大穴ができた。
スイッチの手前、3メートルほどの床を残して、部屋の床が全て消えてしまう。
もう一度スイッチを押すと、床がせり上がり、元に戻った。
「シンプルですが、なかなか厄介なトラップですね……」
「これって、もしかして私たちがスイッチを押して、ここに残って救助を待つ……って流れですか?」
「スイッチを押すのは間違いないが、救助を待つ必要なんてないぞ」
「え?」
「それじゃあ、いくぞ」
改めてスイッチを押した。
床が消えて、遠くで扉が開く音がした。
手を振り、入り口で様子を見ていた冒険者に合図を送る。
すると、冒険者は頷くような仕草をして部屋を出ていく。
本隊に合流したのだろう。
「え? あれ? 師匠、あの人、行っちゃいましたけど……?」
「俺たちは自力でなんとかするから、構うことなく先に進んで欲しい、とあらかじめ伝えておいたからな」
「えええぇっ!? 自力で、って……ど、どうするんですか!? この部屋、魔法が使えないんですよね!?」
「マスターは、なにか解決策が?」
「魔法を使う必要はない。跳んで、乗り越えればいい」
「「はい?」」
ヒカリとメアリーが揃って首を傾げた。
この人なにを言っているんだろう? というような目をしていた。
「ヒカリは剣に。メアリーは俺にしがみついてくれ」
「わかりました」
「は、はい」
言われた通り、ヒカリは剣になる。
俺はそれを腰に収めた。
メアリーが抱きついてきたので、片手で支えてやる。
「いくぞ」
「え? いくって……ひやあああああぁっ!!!?」
床を蹴り、大きく跳んだ。
助走する場がないものの、5メートルほどを跳ぶことができた。
そこで体が重力に引かれてしまい、穴に落ちていく。
「おち、落ちるぅ!? 師匠、落ちてますよぉおおおおおっ!!!?」
(マスター!? どうするつもりなんですか!? このままだと……!)
慌てる二人とは別に、俺は落ち着いていた。
足に感覚を集中させて……
そして、空気を蹴る!
「へ?」
(は?)
メアリーとヒカリの声が重なったような気がした。
「こうして戻ればいい」
空気を蹴り、その反動で跳ぶ。
特殊な体術を用いた技で、名前を『虚空舞』と呼ぶ。
これを使えば、生身で空を駆けることができるのだ。
俺は何度も空気を蹴り……
そして、大穴のある部屋を抜けて、床のあるフロアへ戻ることに成功した。
「……」
「……」
擬人化したヒカリとメアリーは、唖然としていた。
「あの……マスター、今のはいったい……?」
「『虚空舞』って呼ばれている特殊な体術の一種だ。ごらんのように、宙を駆けることができる」
「そ、それも、もしかして、漫画で覚えた技なのですか……?」
「そうだけど……よくわかったな? 空を飛べるかもしれないと、わくわくしながら練習して習得したんだが……思いの外、使い勝手が悪くてな。短距離しか跳ぶことはできないし、それほど移動速度は早くないし、魔法の方が便利だな。やはり、俺なんかよりも魔法の方が優れているということか」
「「マスター(師匠)の方がよっぽど優れてるんですけどねぇ!!!?」」
ヒカリとメアリーが揃って大きな声をあげるのだった。



