魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 明け方……まだ父さんも母さんも寝ている時間に俺は家を出た。
 いや、家を捨てた。
 その後、すぐに馬車に乗り街を離れた。
 そのまま最東端に位置する街、レッドフォグに移動した。

 このウルグ王国は、大陸の南に位置する国で広大な領地を持っている。
 実家がある街とレッドフォグは、馬車で一週間はかかるほどに遠い。
 俺が家を捨てたことをしれば、両親は追手を放つだろう。
 あの人たちは、自分の思い通りにならないと気が済まないタイプなのだ。
 だが、これだけの距離があれば、そうそう簡単に見つかることはないだろう。

 できることならば国境を越えて、隣国のエンデュミオン魔法国へ行きたいところなのだけど……
 あいにくと、俺は通行許可証を持っていない。
 誰も彼も受け入れていたら、やがて国がパンクしてしまうし、犯罪者が紛れ込んでしまうこともある。
 なので、通行許可証を持たない者は入国することはできないのだ。

 通行許可証はいくらかの金と、第三者に身分を保証してもらわないと発行できない。
 今の俺には無理だ。
 いずれなんとかしないといけないな。

「ここがレッドフォグか」

 馬車に揺られること一週間……俺はレッドフォグに着いた。

 あちこちに露天が並んでいて、行き交う人々を呼び込む威勢のいい声が響く。
 活気のある街だ。
 レッドフォグはエンデュミオン魔法国に一番近い街なので、交易が盛んなのだ。
 巷では商業都市と呼ばれている。

「さてと……まずは金を作るか」

 家を出る際に、自分の金だけではなくて、金になりそうな物をいくつか持ち出している。
 貴族の家に飾られていた美術品などだ。
 きっと、それなりの値段で売れてくれるだろう。

 とはいえ、そんなものを普通の店で売れば怪しまれてしまい、憲兵隊に通報されてしまうかもしれない。

 でも、これだけの規模の街だ。
 探せば、裏の売買ルートを見つけることができるだろう。



――――――――――



 街の中心部から離れたところにある酒場を訪ねた。
 なけなしの金などを使い情報収集をしたところ、この酒場で違法品の売買が行われているらしい。

 昼ということもあり、客はまったくいない。
 カウンターの向こうにいるマスターらしき壮年の男が、ちらりとこちらを見た。

「……いらっしゃい」

 愛想のないマスターだ。

「注文は?」
「エンデュミオン魔法国産の酒をロックで」
「……度数は?」
「50%」

 マスターは無言でカウンターの奥にある棚に手を伸ばした。
 棚が横にスライドして、隠し通路が現れる。
 この奥に違法品を売買している店がある。
 さきほどのやりとりは一種の暗号で、知らないものは店に入ることができないという仕組みだ。

 隠し通路を移動して地下に降りると、広い空間に出た。
 倉庫のように、あちらこちらに色々な物が置かれている。

「いらっしゃい」

 奥に店主らしき……男? が見えた。
 疑問形になったのは、全身をローブで隠しているせいだ。
 顔もすっぽりと覆われている。
 声と背丈から男だろうと判断した。

「おや? お客さん、見たことのない顔だね」
「旅をしてる」
「ほうほう。それなのにウチを見つけたのかい。なかなか優秀じゃないか」

 店主はクックッと気味の悪い笑い声をあげた。

「それで、どんなものをお望みかな?」
「売りたいものがある」

 家から持ち出した美術品を店主の前に並べた。

「ほうほう。これはこれは、なかなかの品だ」
「いくらで売れる?」
「鑑定しないといけないから、すぐに答えることはできないね。ただ、パッと見でわかるくらいのいい品だ。値は期待していいよ」
「そうさせてもらおう」
「鑑定するのに時間をもらえるかい?」
「どれくらいかかる?」
「30分ほどだろうね。その間は、店を見てるといい」

 違法品を取り扱う店なんて初めて訪れる。
 興味がないといえばウソになるので、商品を見て回ることにした。

「色々なものがあるな……」

 剣や斧といった武具に始まり、高級店で取り扱うようなドレスも並んでいた。
 武具は今は使われることなんてないから、ただの観賞用だろう。
 それだけではなくて、用途のわからない謎の薬や、動物の剥製。
 明らかにこの国のものではない美術品なども見えた。

 高く売れるのならばなんでも……という感じだろうか?

 色々なものが並んでいて、けっこうおもしろい。
 見ているだけで楽しむことができて、いい時間つぶしになった。

「ん?」

 店の奥に移動したところで、ふと、目を惹かれるものを見つけた。
 ゴミ箱のようなところに、無造作に剣が詰め込まれていた。
 どこか惹かれるものを感じて、手に取る。

「店主、コイツは?」
「ん? ああ、それかい。ソイツは聖剣エクスカリバーだよ」
「もしかして……これは神具なのか?」
「ああ、そうだよ」

 神具。
 神が作ったと言われている武具のことだ。
 その数は限られていて、世界で12本しかないらしい。

 曰く、100年使い続けても刃こぼれ一つしない。
 曰く、鉄をバターのように切り裂く。
 曰く、戦況を一人で覆すような秘めた力が存在する。

 その真偽は不明だが、絶大な力を秘めていると言われている。
 俺は剣士なので、当たり前のように神具のことを知っているが……
 そうでない世間の魔法使いたちも、神具のことを知っている。
 それほどまでに知名度が高い。

「エクスカリバー……」

 まさか、こんなところで伝説の神具と出会えるなんて……
 不思議と目を離すことができなかった。
 運命というのだろうか?
 輝く剣は俺の心をがっちりと掴み、離してくれない。

「かつて魔王を倒したと言われている、聖剣エクスカリバー。ウチのおすすめの品……だったものさ」
「だった? どういうことだ?」
「今は魔法全盛期の時代だろう? 神具とはいえ、誰も剣なんて求めていなくてねえ……観賞用ですら手にとってもらえない。置いといても店のスペースを圧迫するだけでね。捨てようと思っていたところさ」
「神具を捨てる? 冗談か?」
「本気だよ」

 神具だとしても、剣ならば価値はまるでないということか……

 剣は時代遅れの代物。
 実際に手に取ることはなくて、観賞用にすら扱ってもらえない。
 世知辛い世の中だ。

「お客さん、そいつが気に入ったのかい?」
「ああ」
「なら、買うかい? 今なら、100万リムにまけておくよ。おっと、金がないなんて言わないでくれよ? お客さんが持ってきたものは、なかなかの品でね。100万で買い取ろうと思う」
「ってことは、あれらの美術品と交換……っていうことか」
「ケチはつけていない。適正な鑑定額だよ。いい買い物だと思うが……どうする?」
「買った」
「まいどあり!」



――――――――――



 非合法の店を後にして……
 それから宿にチェックインした。

 部屋に移動して、聖剣エクスカリバーを机の上に置いた。

「おもいきった買い物をしたんだけど……不思議と後悔していないんだよな」

 この剣を手元に置いておきたい。
 そんな欲求があり、今は満たされた気分だ。

 それに、俺は剣士だ。
 一応、家を出る時に愛用の剣を持ち出しているが……
 それは刃が潰れていて、ほぼほぼ鈍器のようなものなので心もとない。
 なので、伝説の聖剣を使えるというのなら心強い。

「とはいえ、これで新たに金を稼ぐ必要が出てきたな……多少の金はあるが、すぐに尽きてしまうだろうし……うん?」

 今、聖剣が動いたような……?
 不思議に思いながら、じっと見る。

 カタッ。

「動いた……よな?」

 カタカタカタッ。

「絶対に動いてるぞ!?」

 触れていないのに、聖剣が小刻みに振動した。
 その動きはどんどん激しくなり……

 ぼんっ。

 ……という音と共に、剣が消えた。
 その代わりに女の子が現れる。

「ふぅ、よく寝ましたね」
「なっ……なっ……」
「あなたが……私のマスターですね? この度は、廃棄される予定だった私を助けていただき、ありがとうございます」

 女の子がペコリと頭を下げた。
 対する俺は、頭を抱えて絶叫する。

「ど、どういうことだっ!?!?!?」

 聖剣が……女の子になった!?