強者との戦いは強くなるための近道だ。
そんな俺の言葉を信じて、メアリーは毎日俺と戦い続けた。
もちろん、実戦形式の訓練だ。
相手に怪我をさせないということ以外は、本気の戦いだ。
一切手を抜くことなく、容赦なく殺気も浴びせる。
メアリーは俺に一度も勝てない。
もはや、何秒耐えられるかという勝負になっている。
それでも、メアリーは諦めなかった。
何度負けても立ち上がり、必死になって向かってくる。
それだけ強くなりたいのだろう。
強くなることに貪欲なのだろう。
その姿は、昔の俺を彷彿とさせた。
少しばかりの感情移入をして、俺はメアリーを鍛えた。
徹底的に鍛え抜いた。
そして……一週間が経過した。
――――――――――
「師匠っ、おはようございます!」
宿で朝食を食べていると、メルルが元気な挨拶と共にやってきた。
「メアリーはいつでも元気だな……」
「あ、マスター。そこのジャムをとってくれませんか? やっぱり、トーストにはジャムですね」
「俺はシンプルにバター派だけどな……ほら」
「ありがとうございます。もぐもぐ」
ヒカリはメアリーの登場にすっかり慣れているらしく、朝食の手を止めることはない。
まあ、毎朝、こうしてやってくれば慣れもするだろう。
単に食い意地が張っているだけなのかもしれないが。
「さっそく、今日も訓練といきましょう!」
「まてまて、まだ飯の途中だ。食い終わるまで待て」
「えー、待ちきれないんですけど。早く食べてくださいよー」
「マスター、女の子を待たせるなんて……もぐもぐ……マナー違反ですよ。すぐに朝食を終わらせて……ぱくぱく……メアリーさんに付き合わないといけませんよ」
「あのな……」
自分は関係ないというように、ヒカリはマイペースにごはんを食べていた。
実際、メアリーの訓練にヒカリは関係ない。
いつも見学しているだけで、口を出してくることはない。
一度、なにか教えてみたらどうだ? と声をかけてみたのだけど……
「マスターみたいなとんでも訓練術なんて、私は身につけていないので……私が教えるよりも、マスターのとんでも訓練術の方が効率がよさそうです」
……なんてことを言われた。
とんでも訓練術って、どういうことだ?
俺は普通に指導をしているだけだ。
……普通だよな?
「ししょー」
「わかった、わかったから服を引っ張るな。子供じゃあるまいし……ん?」
宿の扉が開いて、新たな来訪者が。
どこか見覚えのある男だ。
だが、どこで会ったのか覚えていない。
「失礼。イクス・シクシス殿ですか?」
「ああ、そうだが……あんたは?」
「私はロズウェルさまに仕える者です」
納得した。
ロズウェルの屋敷を尋ねた時に、どこかで男を見かけていたのだろう。
「ロズウェルさまが話をしたいとのこと。ご足労ですが、屋敷まで来ていただけませんか?」
「わかった」
どうやら、今日は訓練はできないようだ。
「師匠……私もついていっていいですか?」
「俺は構わないが……」
「お願いしますっ、邪魔はしません!」
「……好きにするといい」
「ありがとうございます!」
父親と向き合う覚悟を決めたのかもしれない。
メアリーは緊張した様子ながらも、どこか力強い目をしていた。
「ぱくぱく」
「はいそこ。シリアスな空気を出しているのに、のんきに飯を食い続けてるんじゃない」
困った聖剣だった。
――――――――――
予想していた通り、ロズウェルの話というのはダンジョンの攻略についてのものだった。
冒険者を集めて、必要な物資を確保した。
情報を広く集めて、それを元に作戦を練り上げた。
あとは日時を決めて、攻略に挑むだけだ。
そんな話を聞いた。
ただ、話はそれだけではないらしい。
俺に対しては、なにか特別な話があるという。
ただ……
「それで……どうして、ここにメアリーがいるのだ?」
どこか呆れたような感じで、ロズウェルは娘を見た。
メアリーは居心地が悪そうにしながらも、逃げ出そうとはしないで、父親と向き合う。
「私、師匠の弟子なの!」
「師匠? ……それはもしかして、イクス殿のことか?」
「そうよ。この前、師匠に弟子入りしたの!」
「なんと……イクス殿。娘が迷惑をかけていないだろうか?」
「いや、そんなことはない」
「最初は迷惑そうにしていましたが……あの時のマスターに、今のセリフを聞かせてげたいですね」
「ヒカリは黙ろうな?」
この聖剣……擬人化して今の世界に慣れてきているせいか、日に日に、図々しくなってきているような気がした。
ここらで一度、しつけた方がいいかもしれない。
「……まあ、お前が冒険者として活動することについては、一応、容認している。口を挟むつもりはないから、好きにするといい」
「やった! 師匠、ダンジョン攻略も一緒にがんばりましょうねっ」
「待て。それについては話は別だ。お前をダンジョン攻略に参加させるつもりはない」
「えっ、なんで!?」
「当たり前だろう。私は、イクス殿に協力を求めたのであって、メアリーに協力を求めたわけではない。お前は無関係なのだ。ダンジョン攻略に関わることは許さん」
「無関係なんてことないし! 私は師匠の弟子だから、師匠が参加するなら私も参加するよ!」
「そのようなことは許さん!」
「許されなくても参加するからね!?」
「ええいっ、聞き分けろ! このバカ娘がっ」
「バカって言う方がバカなんですー!」
親子ケンカが勃発してしまう。
一応、客人の前なのだから、ケンカなんてするなよな。
呆れながら様子を見ていると、ちょいちょいとヒカリに小声で話しかけられる。
「どうしてぼーっとしているのですか? マスターはメアリーさんの師匠なので、止める義務があると思いますよ?」
「どう考えても面倒だから、放っておく」
「ものすごい薄情な発言ですね……」
「考えてもみろ。あの二人のケンカに巻き込まれたら、相当面倒なことになるぞ。もちろん、二人も無関係ではいられない。あの騒ぎの中心に飛び込むことになるんだ。それでいいのか?」
「親子の問題は親子で片付けるしかないですね。時に温かく見守ることが大事です」
わかりやすい聖剣だった。
「……ならば、メアリーの力を見せてもらおうではないか」
知らぬ間に話がまとまっていた。
曰く……
俺に弟子入りしたというのならば、それ相応の力を身に着けているはず。
それだけの力を示すことができたのならば、その時はダンジョンの攻略に同行することを認めよう。
しかし、まだその域に達していないと判断した場合は、おとなしく退くこと。
そして、冒険者などというものはやめて、おとなしく家に帰ること。
話を聞く限り、かなり分の悪い話だ。
こちらは一発アウトなのに対して、ロズウェル側は、メアリーが勝利したとしてもあまり痛くない。
あれこれと難癖をつけて、ダンジョンの攻略を阻止すればいいだけの話なのだから。
それでも……
「いいわっ、その挑戦……受けて立つ!」
メアリーはロズウェルの申し出を受けてしまう。
「おい……大丈夫なのか? そんな簡単に勝負を受けて、後で後悔しても知らないぞ?」
「大丈夫ですよ、師匠。私、絶対に勝ちますから!」
「その自信はどこから出てくるんだ?」
「え? だって、師匠に稽古をつけてもらっているんですよ?」
「……」
「強くなれて当然! 父さんの出す試練なんて、簡単にクリアーできるくらい、強くなっていますよ! なんたって、師匠が師匠ですからね!」
メアリーの自信の根拠は、俺に対する絶対の信頼だった。
まったく……どうして、そこまで俺を信用できるのか?
俺なんて、魔法を使えない落ちこぼれにすぎないというのに。
「落ちこぼれとか、そんな風に思っているのはマスターだけですよ。私のように近くにいる人は、皆、マスターのことを高く評価していますよ」
ヒカリが笑いながらそう言って……
俺はくすぐったい気持ちになり、二人から視線を逸らすのだった。
そんな俺の言葉を信じて、メアリーは毎日俺と戦い続けた。
もちろん、実戦形式の訓練だ。
相手に怪我をさせないということ以外は、本気の戦いだ。
一切手を抜くことなく、容赦なく殺気も浴びせる。
メアリーは俺に一度も勝てない。
もはや、何秒耐えられるかという勝負になっている。
それでも、メアリーは諦めなかった。
何度負けても立ち上がり、必死になって向かってくる。
それだけ強くなりたいのだろう。
強くなることに貪欲なのだろう。
その姿は、昔の俺を彷彿とさせた。
少しばかりの感情移入をして、俺はメアリーを鍛えた。
徹底的に鍛え抜いた。
そして……一週間が経過した。
――――――――――
「師匠っ、おはようございます!」
宿で朝食を食べていると、メルルが元気な挨拶と共にやってきた。
「メアリーはいつでも元気だな……」
「あ、マスター。そこのジャムをとってくれませんか? やっぱり、トーストにはジャムですね」
「俺はシンプルにバター派だけどな……ほら」
「ありがとうございます。もぐもぐ」
ヒカリはメアリーの登場にすっかり慣れているらしく、朝食の手を止めることはない。
まあ、毎朝、こうしてやってくれば慣れもするだろう。
単に食い意地が張っているだけなのかもしれないが。
「さっそく、今日も訓練といきましょう!」
「まてまて、まだ飯の途中だ。食い終わるまで待て」
「えー、待ちきれないんですけど。早く食べてくださいよー」
「マスター、女の子を待たせるなんて……もぐもぐ……マナー違反ですよ。すぐに朝食を終わらせて……ぱくぱく……メアリーさんに付き合わないといけませんよ」
「あのな……」
自分は関係ないというように、ヒカリはマイペースにごはんを食べていた。
実際、メアリーの訓練にヒカリは関係ない。
いつも見学しているだけで、口を出してくることはない。
一度、なにか教えてみたらどうだ? と声をかけてみたのだけど……
「マスターみたいなとんでも訓練術なんて、私は身につけていないので……私が教えるよりも、マスターのとんでも訓練術の方が効率がよさそうです」
……なんてことを言われた。
とんでも訓練術って、どういうことだ?
俺は普通に指導をしているだけだ。
……普通だよな?
「ししょー」
「わかった、わかったから服を引っ張るな。子供じゃあるまいし……ん?」
宿の扉が開いて、新たな来訪者が。
どこか見覚えのある男だ。
だが、どこで会ったのか覚えていない。
「失礼。イクス・シクシス殿ですか?」
「ああ、そうだが……あんたは?」
「私はロズウェルさまに仕える者です」
納得した。
ロズウェルの屋敷を尋ねた時に、どこかで男を見かけていたのだろう。
「ロズウェルさまが話をしたいとのこと。ご足労ですが、屋敷まで来ていただけませんか?」
「わかった」
どうやら、今日は訓練はできないようだ。
「師匠……私もついていっていいですか?」
「俺は構わないが……」
「お願いしますっ、邪魔はしません!」
「……好きにするといい」
「ありがとうございます!」
父親と向き合う覚悟を決めたのかもしれない。
メアリーは緊張した様子ながらも、どこか力強い目をしていた。
「ぱくぱく」
「はいそこ。シリアスな空気を出しているのに、のんきに飯を食い続けてるんじゃない」
困った聖剣だった。
――――――――――
予想していた通り、ロズウェルの話というのはダンジョンの攻略についてのものだった。
冒険者を集めて、必要な物資を確保した。
情報を広く集めて、それを元に作戦を練り上げた。
あとは日時を決めて、攻略に挑むだけだ。
そんな話を聞いた。
ただ、話はそれだけではないらしい。
俺に対しては、なにか特別な話があるという。
ただ……
「それで……どうして、ここにメアリーがいるのだ?」
どこか呆れたような感じで、ロズウェルは娘を見た。
メアリーは居心地が悪そうにしながらも、逃げ出そうとはしないで、父親と向き合う。
「私、師匠の弟子なの!」
「師匠? ……それはもしかして、イクス殿のことか?」
「そうよ。この前、師匠に弟子入りしたの!」
「なんと……イクス殿。娘が迷惑をかけていないだろうか?」
「いや、そんなことはない」
「最初は迷惑そうにしていましたが……あの時のマスターに、今のセリフを聞かせてげたいですね」
「ヒカリは黙ろうな?」
この聖剣……擬人化して今の世界に慣れてきているせいか、日に日に、図々しくなってきているような気がした。
ここらで一度、しつけた方がいいかもしれない。
「……まあ、お前が冒険者として活動することについては、一応、容認している。口を挟むつもりはないから、好きにするといい」
「やった! 師匠、ダンジョン攻略も一緒にがんばりましょうねっ」
「待て。それについては話は別だ。お前をダンジョン攻略に参加させるつもりはない」
「えっ、なんで!?」
「当たり前だろう。私は、イクス殿に協力を求めたのであって、メアリーに協力を求めたわけではない。お前は無関係なのだ。ダンジョン攻略に関わることは許さん」
「無関係なんてことないし! 私は師匠の弟子だから、師匠が参加するなら私も参加するよ!」
「そのようなことは許さん!」
「許されなくても参加するからね!?」
「ええいっ、聞き分けろ! このバカ娘がっ」
「バカって言う方がバカなんですー!」
親子ケンカが勃発してしまう。
一応、客人の前なのだから、ケンカなんてするなよな。
呆れながら様子を見ていると、ちょいちょいとヒカリに小声で話しかけられる。
「どうしてぼーっとしているのですか? マスターはメアリーさんの師匠なので、止める義務があると思いますよ?」
「どう考えても面倒だから、放っておく」
「ものすごい薄情な発言ですね……」
「考えてもみろ。あの二人のケンカに巻き込まれたら、相当面倒なことになるぞ。もちろん、二人も無関係ではいられない。あの騒ぎの中心に飛び込むことになるんだ。それでいいのか?」
「親子の問題は親子で片付けるしかないですね。時に温かく見守ることが大事です」
わかりやすい聖剣だった。
「……ならば、メアリーの力を見せてもらおうではないか」
知らぬ間に話がまとまっていた。
曰く……
俺に弟子入りしたというのならば、それ相応の力を身に着けているはず。
それだけの力を示すことができたのならば、その時はダンジョンの攻略に同行することを認めよう。
しかし、まだその域に達していないと判断した場合は、おとなしく退くこと。
そして、冒険者などというものはやめて、おとなしく家に帰ること。
話を聞く限り、かなり分の悪い話だ。
こちらは一発アウトなのに対して、ロズウェル側は、メアリーが勝利したとしてもあまり痛くない。
あれこれと難癖をつけて、ダンジョンの攻略を阻止すればいいだけの話なのだから。
それでも……
「いいわっ、その挑戦……受けて立つ!」
メアリーはロズウェルの申し出を受けてしまう。
「おい……大丈夫なのか? そんな簡単に勝負を受けて、後で後悔しても知らないぞ?」
「大丈夫ですよ、師匠。私、絶対に勝ちますから!」
「その自信はどこから出てくるんだ?」
「え? だって、師匠に稽古をつけてもらっているんですよ?」
「……」
「強くなれて当然! 父さんの出す試練なんて、簡単にクリアーできるくらい、強くなっていますよ! なんたって、師匠が師匠ですからね!」
メアリーの自信の根拠は、俺に対する絶対の信頼だった。
まったく……どうして、そこまで俺を信用できるのか?
俺なんて、魔法を使えない落ちこぼれにすぎないというのに。
「落ちこぼれとか、そんな風に思っているのはマスターだけですよ。私のように近くにいる人は、皆、マスターのことを高く評価していますよ」
ヒカリが笑いながらそう言って……
俺はくすぐったい気持ちになり、二人から視線を逸らすのだった。



