魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 二日後。
 再び、メアリーと一緒にトレーニングを行うことになった。

 ……ちなみに一日空けたのは、メアリーがひどい筋肉痛のせいで動けなかったためだ。

「師匠、こんにちは!」

 宿を出て、街外れに移動するとメアリーの姿があった。
 ここで待ち合わせをしていたのだけど、早いな。
 今日は30分くらい早く起きたので、俺の方が先に到着すると思っていたのだが……

「やる気たっぷりだな」
「はい! 師匠に色々と教えてもらって、強くなりたいですからね」
「すごいガッツですね。あんな目にあったというのに、これだけの元気があるなんて……気力だけなら、すでにマスターを超えているかもしれませんね」

 ヒカリが心底感心するくらい、メアリーは元気いっぱいだった。

「それで、今日のトレーニングだが……」
「は、はひっ!」

 ビクリ、とメアリーが震えた。
 なぜか青い顔になる。

「どうやら、前回のトレーニングがトラウマになっているみたいですね。まあ、それも仕方のないことですね。私でも、あんなことをさせられたらトラウマになる自信があります」

 ヒカリが遠い目をして、乾いた笑いをこぼしていた。

「トレーニングというか、今日は実戦形式の訓練をしようと思う」
「実戦ですか? もしかして、私、師匠と戦うんですか?」
「そのとおりだ」
「えぇ!? 無理無理っ、無理ですよ! 私が師匠に勝てるわけないじゃないですか!」
「マスターはメアリーさんに恨みがあったのですか? 斬りたいのですか? さすがに、私は力を貸せませんよ……? 盗賊とかならともなく、なんの罪もないメアリーさんを斬りたくありませんからね」
「あのな……実戦形式といっても、殺し合いをするわけじゃない。ヒカリも使わない。俺は、刃の落ちたこの剣を使う」
「刃が落ちているといっても、マスターなら軽く両断しそうですね。剣だから斬れるのは当たり前だろう、とか言いそうです」
「はいそこ。外野うるさいぞ」

 ヒカリは好き勝手騒いでいた。
 楽しそうだな、おい。

 まあ……悪いことではないか。
 500年も眠っていたのだ。
 久しぶりの世界に、色々と新鮮なものを感じて、はしゃいでいるのかもしれない。

 ……単に俺をからかっている、という説も残るけどな。

「で、でもでも、神具を使わなかったとしても、師匠に勝てる気なんてしないんですけど……」
「別に勝つ必要はない。今回の訓練は、経験を積むことが目的だ」
「経験?」
「メアリーは、俺がとんでもなく強いと思っているんだろう? 俺は、そんな実感はないが……まあ、それはいい。とにかくも、メアリーは俺のことを格上に思っているわけだ。間違いないな?」
「はい、そうです!」
「格上の相手と戦うと、色々と得られるものがある。どのように戦えば効率よくダメージを与えられるか? どうすれば攻撃を回避できるようになるか? ……などなど。戦闘の経験を積み重ねることで、自然と技術が向上するだろう」
「なるほど……確かに」
「考えながら戦え。どうすれば俺に勝てるか? どうすれば出し抜けるか? 常に思考を張り巡らせながら戦うんだ。そうすることで、力よりも大事な技術を身につけることができる」
「わかりました!」
「納得したか? なら、さっそく始めるぞ」
「お、お願いしますっ」

 俺は剣を構えた。
 メアリーは魔力を練り上げる。

「ファイアーデトネーション!」

 メアリーが魔法を放ち……
 それを合図に訓練が開始された。



――――――――――



 実戦形式の訓練が開始されて、10分ほどが経っただろうか?

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 私は汗まみれになっていて、肩で息をしていた。

 腕立て伏せ1000回よりは楽だろう。
 開始前はそんなことを思っていたけど……とんでもない。
 実戦形式の訓練の方が遥かに辛い。

 いや……やばい。
 誇張ではなくて、死んでしまいそうだ。

「くっ!?」

 しっかりと注視していたはずなのに、師匠の姿が消えた。
 まるで蜃気楼だ。
 一挙一足、見逃さないようにしていたのに、その動きを視認することができない。

「終わりだ」

 気がつけば背後に回られて、首に剣を突きつけられていた。

「これで、34回目だな。まだ続けるか?」

 この10分の間で、私は34回も師匠に負けていた。
 これが実戦なら、34回も死んでいることになる。

「は、はいっ!」
「いい返事だ」

 師匠はバックステップで離れて、仕切り直した。
 その間も闘気は衰えない。
 殺気も消えない。

 実戦形式だからなのか、師匠はとんでもない闘気と殺気を放っていた。
 対峙しているだけでやっとだ。
 気絶しない自分を褒めてやりたい。

 ただ、心は摩耗していた。
 師匠の前に立つだけで足が震えて、妙な汗が流れる。

 なるほど……と師匠の言葉を理解した。
 格上の相手と戦うだけでも得られるものはある。
 確かにそのとおりだ。
 この経験は貴重なもので、他では得られない。

 ただ……私、生きていられるかな?
 おもいきり手加減はされているんだけど……寸止めさせているんだけど……
 それでも、倒れてしまいそうなほどの疲労と恐怖を覚えていた。

 でも……負けてたまるか!
 私は強くなるんだ。
 師匠のように強くなって、冒険者になって……父さんに認められるんだ!

 だから……

「ファイアーデトネーション!」

 絶対に師匠に食らいついてみせる!



――――――――――



「……よし、今日はここまでにするか」
「あ、ありが……ありひゃとう……ござい……ましたぁ!」

 ふらふらになり、目をぐるぐると回していたけれど……
 メアリーはなんとか最後まで意識を保っていて、ぺこりと頭を下げた。

「大丈夫ですか? はい、水ですよ」
「あ、ありがとう……ございますぅ……」

 ヒカリに介護されているメアリーは、疲労困憊という様子だった。

 初日から飛ばしすぎただろうか?
 本当の実戦同様に殺気も叩きつけてみたのだけど……やりすぎたかもしれない。
 しかし、強くなるにはこれくらいしないとな……

 今後のためにも、強くなったという実感を得た方がいいかもしれない。
 その方がやる気も増すだろう。

「メアリー、まだ動けるか?」
「マスター、まだ訓練させるつもりですか? さすがに、メアリーさんはここが限界かと。自分を基準にしたら、誰もついていけませんよ」
「訓練じゃないさ。ちょっとした、成果の確認だ」

 不思議そうな顔をするヒカリは置いておいて、改めてメアリーに尋ねる。

「どうだ、メアリー? 動けるか?」
「は……はいっ、大丈夫です!」
「よし、いい気合だ。なら、なんでもいいからそこの岩に魔法をぶつけてみてくれ」
「えっと……? でも、あんな岩を砕くことなんてできませんよ?」
「いいから、やってみてくれないか? そうすれば、俺の言葉の意味がわかる」
「……わかりました!」

 メアリーはふらふらとしながらも立ち上がり、1メートルほどの小さな岩を睨みつけた。
 魔力を練り上げて、手の平を向ける。

「ファイアーデトネーション!」

 火球が放たれて……
 爆発と共に岩を破砕した。

「え……? ウソ……」

 そこまでの威力があるわけがないと、そう思っていたであろうメアリーは、目を丸くして驚いていた。
 一方の俺は、予想していた結果なので驚くことはない。

「うまくいったみたいだな」
「あの……師匠、これはいったい……? 私程度の力なら、あんな岩を砕くことはできないのに……」
「訓練の成果だな」
「で、でも、まだ初日なのに……しかも、私はやられてばかりで……」
「でも、最後まで諦めることはなかった」
「あ……」
「魔法って、極論だけど心の強さと比例しているだろう? 精神的に優れていれば、それだけ上手に魔法を扱うことができる。さっきの訓練で、メアリーの精神はそれなりに鍛えられたんだよ。その結果が……コレというわけだ」

 砕けた岩を指さした。

「他にも色々と考えて戦っていたから、全体的に大きく成長したんだろう。その成果だよ」
「私がこれを……」

 成長しているという実感を得ることができたのだろう。
 メアリーは呆けたような顔から、うれしそうな顔になる。

「すごいです! まさか、たった一日で成果が出るなんて……さすが師匠です!」

 喜ぶメアリー。
 そして、ヒカリは微妙な顔をしていた。

「マスターは剣士なのに育成もできるなんて……もしも、マスターが軍事教官になれば、同じような力を持つ生徒が大量生産……?」

 ヒカリがよくわからない妄想を働かせていた。
 俺なんかが大量生産されても、大して意味はないだろうに。

「十分に意味はありますよ。世界征服も可能かもしれません。それほどまでに、私のマスターはすごいのですから」

 そんなことはない。
 俺はしがない、落ちこぼれの剣士だ。

「マスターは、自身を過小評価する癖をなんとかした方がいいですね」
「なんで俺の考えていることがわかる……?」
「マスターはわかりやすいですから。感情が表に出ていて、簡単に読むことができますよ。どうやら、ポーカーフェイスだけは苦手みたいですね、ふふっ」

 ヒカリにやりこめられてしまい、俺はやれやれとため息をこぼすのだった。