魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 今までの勢いが一転して、メアリーは静かに語る。

「自分で言うのもなんですけど、私、良いところのお嬢さまで……良い暮らしをしていたと思います。ただ、自由はなかったんです。父さんの敷いたレールを歩いて、言われるままに動いて……そこに私の意思はなかったんです」

 メアリーの話に共感を覚えた。
 俺が似たような境遇にあったからなのかもしれない。

「父さんが嫌いというわけじゃないし、私のことを考えてくれているのはわかるんですけど……でも、私は、私の力だけで生きていきたいんです。もう15。一応、成人しています。大人になったからには、自分の足で歩かないと」
「なるほど、立派な考えですね。ちなみに、そのような考えに至るに、なにかきっかけのようなものが?」
「特にコレといったきっかけはないんだけど……ほら、この街にはダンジョンがあるじゃない? ダンジョンに挑む人たちを見ていたら、自然と、私もあんな風に生きてみたいな……って」
「なるほど。そういう風に憧れるのは、わからなくはないですね。子供の頃は、なぜか荒いものに憧れる時期がありますからね」

 ヒカリはメアリーに同情したらしい。
 彼女の話に相槌を打ち、親身になって話を聞いている。
 剣なのに芸が細かい。

 俺は……実は、それなりに心を動かされていた。
 というのも、メアリーと俺の境遇が似ているからだ。

 メアリーは魔法を扱えないということはないが……
 それでも、『家』に縛られて窮屈な思いをしていることは間違いない。
 そんなメアリーのことは、どこか自分と重なって見えた。

「ですが、メアリーさんは普通に冒険者をしていますよね?」

 ヒカリがもっともな質問をした。
 それに対して、メアリーが苦笑する。

「実は……期間限定なんだよね」
「どういうことですか?」
「一定期間内に冒険者として武勲を立てること。それができたら、今後も冒険者として活動してもいい。できなければ、おとなしく言うことに従うこと……何度も何度も話をして、父さんとそんな約束をすることができたの」
「もしかして……それで、ミノタウロスを呼び出したのですか?」
「あはは……強い魔物を狩れば父さんも文句は言わないだろうなあ、って」
「無茶をしますね……あの時、マスターがいなければどうなっていたことか」
「はい、反省しています……」

 無茶をしたという自覚はあるらしく、メアリーはしょぼんとしていた。
 あまりに素直なものだから、ヒカリもそれ以上は強く言えないみたいだ。

「でもでも、おかげで師匠に出会うことができました! 師匠の強さを知ることができました! あの出会いは、きっと運命だったんだと思います!」

 メアリーが瞳に炎を宿して、ぐいぐいっと詰め寄ってきた。

「お願いします、師匠! 私は、私らしく生きたいんです! そのために、強くならないといけないんです! だから……師匠の弟子にしてください!」
「断る」

 あっ、メアリーの口から魂が抜けた。

「マスター……さすがにそれは、少し意地悪なのでは? ここまで話を聞いておいて、一刀両断はさすがにないかと思いますが……」

 ヒカリに責められて、さすがに居心地が悪い。
 ため息を一つ。

「わかってる。ただの冗談だ」
「え? それじゃあ……」
「……弟子にしてやるよ」
「っ!!!?」

 パアアアッ、とメアリーの顔が輝いた。
 しょんぼり顔から一転、ものすごい笑顔だ。

「ホントですか!? ホントのホントですか!? やっぱりやーめた、とか、やっぱりウソでしたー、とか、やっぱり……」
「ウソじゃない。あと、同じ意地悪も繰り返さない。本当のことだ」
「おっ、おおおおおぉ……」
「なんで震えているんだ?」
「まさか、本当に師匠の弟子になれるなんて……感動に震えているんです」
「大げさな」
「大げさなんかじゃありませんよー! ミノタウロスを一撃で倒すことができるほどの力を持つ人を師匠にできるなんて、私はこの街……いえ、この国で一番の幸せものです!!!」

 ものすごい勢いで断言された。
 さすがに熱を入れ込みすぎだと思うのだが……
 まあ、どう思うかは本人に任せることにしよう。

 俺には俺の考えがあるように……
 メアリーにはメアリーの考えと想いがある。
 それを他人である俺がどうこうする権利はない。

「ただ、俺は剣士だ。魔法は使えない。それでもいいのか?」
「はいっ、ぜんぜん問題ありません!」
「即答かよ……よく考えてくれ。俺は魔法を教えることはできないんだぞ?」
「でもでも、教えられることは剣以外にもありますよね?」
「なに?」
「戦い方とか、効率のいい鍛え方とか、その他強くなるための方法とか……色々あるじゃないですか」
「そう言われると、まあ……」
「私なんかが、師匠と同じレベルの剣士になれるなんて思ってませんよ。私は剣士じゃなくて、魔法使いになりたいですからね。ただ、少しでもその強さに近づきたくて……剣士と魔法使いという違いはありますが、強くなるための方法っていうのは、ある程度共通していると思うんですよ。その根幹にあるものというか、やり方というか……だから、えっと、なんていうか……」
「例えるなら、経験の積み方か?」
「そうっ、それです! そういうところを教えてもらいたいんす、私は!」
「なるほどな」

 勢いだけかと思いきや、メアリーなりに色々と考えていたみたいだ。

「じゃあ、さっそく訓練をしてみるか?」
「いいんですか!?」
「よくよく考えたら、仕事の話が決まるのはまだ先になりそうだ。それまではヒマになりそうだからな」
「おねがいします!」

 こうして、俺に弟子ができた。



――――――――――



「ぜひゅー……ぜひゅー……ごほっごほっ、ぐぇっほ!!!」

 一時間後……
 全身汗まみれになり、疲労困憊で倒れているメアリーの姿が。

 街外れの広場とはいえ、人通りがないわけじゃない。
 通りかかる人は、何事かと不思議そうな視線をメアリーに向けていた。

「どうした、メアリー。なんで寝ているんだ? 早く起きないと、変な目で見られるぞ?」
「いやいや、無理ですから!」

 ヒカリがツッコミを入れてきた。
 最近、キレが増してきたような気がする。

「なにが無理なんだ?」
「マスターの常軌を逸したトレーニングについていける人なんて、普通はいませんよ」
「そうか? 別に大した運動量じゃないだろ?」
「どのような思考回路をしているのですか……これが大した量じゃないとしたら、世の中、色々なものがおかしくなってしまいますよ」

 なぜかヒカリに呆れられてしまう。

 なぜだ?
 俺は、そんなにおかしなことをしたか?

 剣士だろうと魔法使いだろうと、体力は必要になる。
 基礎中の基礎だ。
 なので、メアリーと一緒にトレーニングをしたのだけど……

 まだ最初の最初……
 腕立て伏せ1000回の途中で、メアリーが顔を青くして倒れてしまった。

「どうした、メアリー? もしかして寝ていないのか? だから、こんなところで寝ているのか? しかし、今はトレーニング中だ。がんばって起きろ」
「腕立て伏せ1000回なんてさせられたら、たいていの人はこうなりますからね?」
「俺はいつもやっているぞ? 5セットを30分くらいで」
「マスターは例外中の例外ですから!」

 こうして怒られるほど、おかしなことだろうか?
 剣士だから体を鍛えるのは当たり前のことだろうに。

 でも……そうだな。
 魔法使いのメアリーは、普段はあまり体を使う機会がないだろう。
 どちらかというと、頭の方を使うはずだ。
 そんなメアリーに、いきなり1000回5セットは厳しかったかもしれない。

「そうだな、俺が間違っていたみたいだ」
「ようやく理解してもらえたみたいですね……ふう。他の人がマスターと同じことをするなんて、普通はできませんからね? そこのところをよく考えて、トレーニングをメニューを考案するべきですよ」
「わかっている。メアリー、すまないな。1000回は盛りすぎだったみたいだ」
「い、いえ……ぜひゅー、ぜひゅー……これくらい……ふへぇ……」

 メアリーは今にも死にそうな顔をしていた。
 うん。
 本当にやりすぎだったのかもしれない。
 反省だ。

「半分の500回、5セットにするか。それなら大丈夫だろう?」
「この男ぜんぜん理解していません!」

 その後……

 あんなトレーニングを課していたらメアリーが死んでしまうと、ヒカリにガチ説教をされた。
 大げさな……と思わないでもないが、ヒカリは本気の目をしていた。
 あまりの迫力になにも言えなくなり、俺は素直にトレーニングを止めることにした。